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第2章
君と僕、俺と君 1
「悪い、今日はこれで抜けるよ」
「珍しいな、どこかに行くのか」
「あぁ、この後、友達と約束しているんだ」
「珍しいな、ははん……もしかしてデートか」
「そっ、そんなんじゃない」
「ははっ、動揺してんな。抜け駆けはずるいぞ!」
「違うって!」
デートではないが、今日という日を指折り数えて待っていた。本気で待ち遠しかった。
男相手に、どうしてこんなにドキドキワクワクするのか意味不明だが、とにかく先週と同じ時間、同じ場所で会おうと、彼と一方的な約束をしていた。
待ち合わせ場所は、湖に面した英国式庭園の芝生広場だ。
一歩、また一歩とそこに近づくと、いよいよ緊張が増してくる。
おいおい、洒落にならないな。これじゃまるで初デートを前にしているようだ。
今日会えなかったら、もう二度と会えない気がするんだ。
あの日、名前を聞かなかった事を今更ながら後悔している。
よしっ、あの角を曲がった先だったな。
すると向こうから走って来た男と、ぶつかりそうになった。
「うわっ!」
「悪いっ」
「あっお前! えっと……モリミヤじゃないか」
「あぁグレイか。あれ? 今日も皆とテニスしているんじゃないのか」
「あー悪い。今日は急用で抜ける」
「そうか、またやろうぜ。お前の腕なかなかだったぜ。まぁ俺の方が上だけどな」
「ははっ、どうだか。今度対決しようぜ」
日本人離れした西洋騎士のような風貌のモリミヤと話していると、俺はあの繊細で美しい男の子にどうしても会いたいと再認識してしまった。
「おっと、時間だ。またな」
話もそこそこに、一目散に走り出した。
だって、約束の時間が迫っているから!
****
「瑠衣、まだ出掛けないのか」
「うん……出かけるよ」
瑠衣の顔色が冴えない。それに浮かない返事だ。さっきまで頬を染めて楽しそうにしていたのに。
「一体、どうした?」
「……何でもないよ」
瑠衣は、そう言いながらも、着ている白シャツをジッと見つめていた。
ん? よく見ればずいぶんくたびれているな。
ボタンは、ちぐはぐな物が付いているし、袖もすり切れている。
あっ、そうか。
その時になって、ようやく彼の悩みを理解した。
瑠衣が屋根裏部屋から持ってきた衣類は、少なく質素なものばかりだった。
荷物を詰める所も見ていた癖に、今更気づくなんて駄目だな。使用人としてひっそりと過ごしていた瑠衣には、必要最低限の衣類しか与えられていなかったんだ。
もっと早く気づいてやればよかった。
瑠衣も瑠衣だ。その位のこと、兄である俺に言ってくれたらいいのに。
親父から仕送りを受けているから、お前の衣類だって揃えてあげるのに。
あー俺、最低だ。本当に詰めが甘い。
「瑠衣、ちょっと来い」
「え、な、何?」
俺の部屋に瑠衣を連れ込み、箪笥からまだ袖を通していない白シャツを見つけ、ポンっと手渡した。
「これ、やるよ。買ったけど趣味じゃなくてな」
「え、でもこれ新品だよ」
今までまるで古着しか着て来なかったように言うから、泣けてくる。
いや、本当にそうなのか。
「いいから。そうだ、早速、今日着て行けば?」
「え、いいのか」
「サイズ……大きいが、それでもよかったら」
「ありがとう。海里、すごく……すごく嬉しいよ」
瑠衣はシャツを胸にそっと抱きしめて、嬉しそうに頬を染めた。
色白な瑠衣は、感情が肌に出やすい。
そんな風に素直に喜んでくれるなんて……
今まで気づかなかった俺を責めればいいのに。
「俺、先行くぜ。ちょっと急ぐんだ」
「あ、うん、海里いってらっしゃい」
自分の存在が急に恥ずかしくなって、フラットを先に飛び出した。
****
海里がシャツをくれるなんて思いもしなかったので驚いた。でもとても嬉しかった。
今朝になって鏡に映った僕の姿に、急に恥ずかしさを覚えたんだ。
擦り切れた袖口、色の違うボタンに気持ちが沈んだ。
困ったな。僕は先週から少し変だ。
デートで女の子に会う訳でもないのに(したことないので、分からないが)こんなに身だしなみに気を遣うなんて。
日本にいる時は、どんなにみすぼらしい姿でも気にならなかったのに、どうして?
雄一郎さんの前では、モデルとして裸になっても我慢できたのに。
羞恥心など、とっくに捨てたはずなのに。
彼の身なり、とても整っていた。
スポーティーな恰好なのに、上質なものばかり。
だから出かける寸前に、急に恥ずかしくなってしまった。
自分のシャツを脱いで、海里のシャツを着てみる。
新品のシャツなんて初めてだから、糊のきいたパリッとした生地にうっとりした。
すごいな、着心地がよく、肌触りも滑らかだ。
ボタンを全部とめて鏡を見ると……
「うわっ、海里との体格差が丸出しだ。かなり大きいよ」
だが、もう時間がない。
長い袖丈は腕まくりでごまかせるが、ぶかぶかな襟元はどうしよう?
いっそボタンを少し外した方がましなのかな?
わざと大きい服を、ざっくり着ているように見えるといいが……
「よし、行こう!」
歩き出せば、シャツの中で身体が泳ぐ。
だが新しい上質なシャツを着て、彼に会えるのが嬉しい気持ちが勝っていた。
やっぱり、こんな気持ち初めてだ。
「珍しいな、どこかに行くのか」
「あぁ、この後、友達と約束しているんだ」
「珍しいな、ははん……もしかしてデートか」
「そっ、そんなんじゃない」
「ははっ、動揺してんな。抜け駆けはずるいぞ!」
「違うって!」
デートではないが、今日という日を指折り数えて待っていた。本気で待ち遠しかった。
男相手に、どうしてこんなにドキドキワクワクするのか意味不明だが、とにかく先週と同じ時間、同じ場所で会おうと、彼と一方的な約束をしていた。
待ち合わせ場所は、湖に面した英国式庭園の芝生広場だ。
一歩、また一歩とそこに近づくと、いよいよ緊張が増してくる。
おいおい、洒落にならないな。これじゃまるで初デートを前にしているようだ。
今日会えなかったら、もう二度と会えない気がするんだ。
あの日、名前を聞かなかった事を今更ながら後悔している。
よしっ、あの角を曲がった先だったな。
すると向こうから走って来た男と、ぶつかりそうになった。
「うわっ!」
「悪いっ」
「あっお前! えっと……モリミヤじゃないか」
「あぁグレイか。あれ? 今日も皆とテニスしているんじゃないのか」
「あー悪い。今日は急用で抜ける」
「そうか、またやろうぜ。お前の腕なかなかだったぜ。まぁ俺の方が上だけどな」
「ははっ、どうだか。今度対決しようぜ」
日本人離れした西洋騎士のような風貌のモリミヤと話していると、俺はあの繊細で美しい男の子にどうしても会いたいと再認識してしまった。
「おっと、時間だ。またな」
話もそこそこに、一目散に走り出した。
だって、約束の時間が迫っているから!
****
「瑠衣、まだ出掛けないのか」
「うん……出かけるよ」
瑠衣の顔色が冴えない。それに浮かない返事だ。さっきまで頬を染めて楽しそうにしていたのに。
「一体、どうした?」
「……何でもないよ」
瑠衣は、そう言いながらも、着ている白シャツをジッと見つめていた。
ん? よく見ればずいぶんくたびれているな。
ボタンは、ちぐはぐな物が付いているし、袖もすり切れている。
あっ、そうか。
その時になって、ようやく彼の悩みを理解した。
瑠衣が屋根裏部屋から持ってきた衣類は、少なく質素なものばかりだった。
荷物を詰める所も見ていた癖に、今更気づくなんて駄目だな。使用人としてひっそりと過ごしていた瑠衣には、必要最低限の衣類しか与えられていなかったんだ。
もっと早く気づいてやればよかった。
瑠衣も瑠衣だ。その位のこと、兄である俺に言ってくれたらいいのに。
親父から仕送りを受けているから、お前の衣類だって揃えてあげるのに。
あー俺、最低だ。本当に詰めが甘い。
「瑠衣、ちょっと来い」
「え、な、何?」
俺の部屋に瑠衣を連れ込み、箪笥からまだ袖を通していない白シャツを見つけ、ポンっと手渡した。
「これ、やるよ。買ったけど趣味じゃなくてな」
「え、でもこれ新品だよ」
今までまるで古着しか着て来なかったように言うから、泣けてくる。
いや、本当にそうなのか。
「いいから。そうだ、早速、今日着て行けば?」
「え、いいのか」
「サイズ……大きいが、それでもよかったら」
「ありがとう。海里、すごく……すごく嬉しいよ」
瑠衣はシャツを胸にそっと抱きしめて、嬉しそうに頬を染めた。
色白な瑠衣は、感情が肌に出やすい。
そんな風に素直に喜んでくれるなんて……
今まで気づかなかった俺を責めればいいのに。
「俺、先行くぜ。ちょっと急ぐんだ」
「あ、うん、海里いってらっしゃい」
自分の存在が急に恥ずかしくなって、フラットを先に飛び出した。
****
海里がシャツをくれるなんて思いもしなかったので驚いた。でもとても嬉しかった。
今朝になって鏡に映った僕の姿に、急に恥ずかしさを覚えたんだ。
擦り切れた袖口、色の違うボタンに気持ちが沈んだ。
困ったな。僕は先週から少し変だ。
デートで女の子に会う訳でもないのに(したことないので、分からないが)こんなに身だしなみに気を遣うなんて。
日本にいる時は、どんなにみすぼらしい姿でも気にならなかったのに、どうして?
雄一郎さんの前では、モデルとして裸になっても我慢できたのに。
羞恥心など、とっくに捨てたはずなのに。
彼の身なり、とても整っていた。
スポーティーな恰好なのに、上質なものばかり。
だから出かける寸前に、急に恥ずかしくなってしまった。
自分のシャツを脱いで、海里のシャツを着てみる。
新品のシャツなんて初めてだから、糊のきいたパリッとした生地にうっとりした。
すごいな、着心地がよく、肌触りも滑らかだ。
ボタンを全部とめて鏡を見ると……
「うわっ、海里との体格差が丸出しだ。かなり大きいよ」
だが、もう時間がない。
長い袖丈は腕まくりでごまかせるが、ぶかぶかな襟元はどうしよう?
いっそボタンを少し外した方がましなのかな?
わざと大きい服を、ざっくり着ているように見えるといいが……
「よし、行こう!」
歩き出せば、シャツの中で身体が泳ぐ。
だが新しい上質なシャツを着て、彼に会えるのが嬉しい気持ちが勝っていた。
やっぱり、こんな気持ち初めてだ。
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