重なる月

志生帆 海

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第2章

月輪の約束 10

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 その男は突然俯いていた顔をあげ、こちらをまっすぐに見つめた。俺のことが見えるのかとギョッとしたが、そうではないようだ。俺を通り過ぎて、目線はその先の青く澄み渡る空を見つめていた。

──
ジョウ、君じゃなきゃ駄目だ。
俺はまたお前に逢うために、何度でも生まれ変わってみせる。
そして今は届かぬ想いを必ず届けてみせる
──

 男の心の声が染み入るように俺に響いてきた。心の共鳴とはこのことを言うのか……見上げた眼は青空の様に澄んでいて、その澄んだ眼から一筋の涙が溺れ落ち、その男の胸元の月輪のネックレスを潜り抜けた後、吹き抜ける風に舞っていった。

 その涙はキラキラと輝いて、彼方へと運ばれていった。

 遠く彼方へ。

****


「洋!洋!」

 彼方から俺の愛しい人の声が戻ってくる。はっと目覚めるとホテルのベッドに寝かされていた。

「んっ……丈?」

 慌てて起きようとすると、頭が割れるように痛んだ。

「うっ頭が痛い……」
「洋大丈夫か。いきなり倒れたから、本当に心配した」

 丈が心底安心した表情で俺のことをぎゅっと抱きしめてくれる。あぁ暖かい……ここが俺の場所だ。俺も丈の背中に手をまわしてその体温を確かめる。

「俺は?あっそうか……急に倒れたんだね」
「君がいなくなってしまいそうな気がして、私は恐ろしかった」
「ふふっ……大袈裟だな。丈、水を一杯くれる?」
「あぁ待ってろ」

 丈が水を取りに行っている間に、頭の中を整理してみると、今度ばかりは、はっきりと覚えていた。いつもいつも朧げだったあの夢の続きを……いつも後姿だったあの男の顔をはっきりと確認した。

 あの人は俺だったのか。
 あの男の涙の行方はどこだ?
 あの男が探していた相手は……もしかして丈なのか。

「洋、水だ」
「ありがとう」

 水を飲もうと受け取ると、丈のもう片方の手に握られているものが目に入った。

「丈っそれっ!」

 月のように白く輝く月輪は、ついさっき夢の中の男が胸にしていたものじゃないか!

 こんな……こんなことってあるのか。信じられない!

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