重なる月

志生帆 海

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完結後の甘い話の章

完結後の甘い物語 『蜜月旅行 26』

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 冷房のよく効いた部屋に戻るや否や、俺はシャワーを浴びた。

「ふぅ……気持ちいい」

 更衣室のシャワーでは落としきれなかった部分を、早く洗いたかった。

 岩場で丈のものを二度も大量に受け止めてしまったので、ずっとその残滓が気になっていた。大半は波と共に流れたものの、躰の奥深くに入り込んでしまったものが残っているのを感じていたから。

 そっと自分の尻の窄まりに指を這わしてみると、奥の方にぬめりを感じた。更衣室のシャワーでも洗ったのに、やっぱりまだ残っていた。

 それにしても、いつ人が来るかもしれない岩場で、あんなことを俺がするなんて信じられない。丈も丈だ。だが俺も拒まなかったし、気持ち良くなっていたのは事実だから、何も言い返せないよな。

 俺は本当に丈には甘い。丈になら何をされても許してしまうのは昔からだ。過去からの強い想いが、俺に繋がっているからなのだろうか。

 指先で中を掻き出してみるが、なかなか上手くいかないので、シャワーの水流に助けてもらった。それからボディソープをもこもこに泡立て、まだ砂が残る躰をよく洗い、更にシャンプーで髪の毛もよく洗った。

 タオルを肩にかけシャワーブースを出ると、扉の裏の鏡に自分の全身が映った。

「うわっ!」

 日焼け止めを塗らなかった部分が、見事に赤く火照っている。これって水着の部分だよな。どうみてもウエストからヒップだけ水着の形に日焼けしているという焼け方で、なんだか自分の躰なのに、妙に卑猥な感じに見えてしまうのは何故だろう。もっと丈のようにがっしりとした骨格だったら、きっとこんな風には見えないだろうに。

 もっと男らしい体つきで生まれたかったな。
 うう……これじゃとても人前に出れないじゃないか。
 後で、大浴場にも行ってみたいのに。

 それでもドライヤーで髪の毛もしっかり乾かし新しい下着もきちんとつけると、ようやく一息付けた。

「ふぅ……さっぱりした。お待たせ。丈もシャワーを浴びたら?」

 バスローブを羽織って部屋に戻ると、丈が心配そうに近づいて来た。

「洋、大丈夫か。さっきはすまなかった。無理をさせてしまったな」

「もう大丈夫だ」

 岩場でのことを思い出すと無性に恥ずかしくなり、目を背けながらそっけなく答えた。数えきれない程、丈には抱かれているのに、今日みたいな状況は初めてだったから、照れくさいよ。

「そうか。だが少し横になれ」

「うん……でも横になったら、そのまま眠ってしまいそうだよ」

「それでいい。随分体力を使わせてしまっただろう。ほら、水もちゃんと飲め」

 言われる通り、差し出されたペットボトルの水を半分くらい勢いよく飲んで、ベッドにドサッと仰向けになった。すると確かに丈の言った通り、一気に疲れが出たようでウトウトと眠くなってきた。

「洋、布団にちゃんと入れ。風邪ひくから」

「んっ……分かった」

 促されるがままにに、寝ぼけ眼でモゾモゾと布団に潜った。もう目が半分閉じている。とにかく疲労困憊で眠かった。

「あとで起こしてやるから、今はぐっすり眠れ」

「……ありがとう」

 額に置かれた丈の手が、ひんやりと気持ち良かった。それから、あっという間にフェードアウトしてしまった。

****

 私もシャワーを浴び部屋に戻ると、洋は横向きになってぐっすり眠っていた。規則正しい寝息に、ほっとする。

「ふっ……相変わらずの可愛さだ。こうしていると本当にまだあどけなく見えるな」

 もう二十八歳なのに反則だろうと思えるほど、無防備で可愛い寝顔だ。

 長い睫毛、筋の通った細い鼻梁、薄い唇。最高に美しく可愛い恋人に添い寝をしたくなり、布団を捲って潜ろうとしたら、部屋の扉をノックする音がした。

「はい?」

「丈、俺だ。もうシャワー浴びたか」

 流兄さんの声だった。

「ええ」

「じゃあ、出て来れるか、買い出しに付き合ってくれよ」

「買い出し?」

 ドアを開けると、同じようにシャワーを浴びたらしく、さっぱりとした姿の流兄さんが立っていた。だが、いつも隣にいる翠兄さんの姿が見えなかった。

「翠兄さんは?」

「あぁ、疲れて眠ってるよ」

「あぁやっぱり。翠兄さんは滅多に海なんて行かないから疲れたのでしょうね」

「んっまぁな。確かに今日はかなり疲れたはずだ」

 何かを含んだような言い方が気になった。

「何かあったのですか」

「いや別に、それより早く行こうぜ」

「夕食を部屋で食べるのですか」

「あぁ、兄さんが今日は酷く疲れているからな。ルームサービスを取ろう。せっかくだから美味しいワインでも買いに行こうと思って。さぁ翠兄さんが眠っているうちに行こうぜ。そうだ、洋くんは?」

「あ……洋も今は眠っています」

「あーそっか。うん、そりゃそうだよな」

妙に納得している流兄さんの様子に、思わず尋ねたくなった。

「流兄さん、あの、聞いていいですか」

「何?」

「……さっき岩場で……その…」

 岩場でのことは、一体何処から見られていたのだろう?

 いくらこの旅行が新婚旅行で公認の仲とはいえ、実の兄達に情事のシーンを見られてしまったというのは、恥ずかしいことだった。それに何よりも、私に抱かれていた洋の……あの燃え上がるような煽情的な裸体を見られたのかと思うと、心配だ。

「んっまぁ細かいこと気にすんな。さぁ行こうぜ」

 はぐらかされたってことは……あぁ、やはりすべて見られてしまったのか。

 流兄さんだから良かったものの、赤の他人だったら大変なことになった。やはり岩場でというのは危険行為だったと深く反省した。いや、やっぱり流兄さんにだって見せたくない。私だけだ。洋のすべてを見られるのは……

 これは洋にも精神的にも肉体的にも負担をかけてしまったな。だが許してくれ。止まらなかった。南国の太陽の下、青い海を背景にした洋の美しい裸体に、欲情して止まらなかった。

 洋のことは、何度抱いても際限なく抱きたくなるのは何故だろう。やっと訪れた平和な日々にまだ慣れないのは、私も洋も同じだろうか。

 まだ洋と出逢って間もない頃の感覚を思い出す。初めて洋と躰を繋げた日から、私は洋に飢え、洋を求め、毎日のように抱き続けていた。

 そんな遠い過ぎ去った日々を、懐かしく思い出した。




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