重なる月 ~いつの時代も月は見ていた~

志生帆 海

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12章

聖夜を迎えよう6 ~安志編~

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 洋との電話を切った途端、涼から着信があった。

 恋人からの定期便は、こんな風に毎晩欠かさずやって来てくれる。そのことが、どんなに俺を安心させてくれることか。
 
 俺の恋人は華やかなモデルで、とんでもなく綺麗で……可愛い人だ。しかも男にも女の子にもモテモテの十代の若さでと……心配の種なら山ほどある。

 でもいつもそんな不安を吹き飛ばすように、自ら爽やかな風を吹いてくれる。明るく前向きな涼のことを知れば知る程、どんどん好きになってしまうよ。
 
「安志さんお疲れ様。まだ会社?」
「いや、やっと出たところ」

 吐く息が白く外灯に映し出される冷たい夜道だが……涼の甘い声によって、心は一気に温かくなる。

「もしかして今、洋兄さんと喋ってた?」
「おう! 涼、本当にクリスマスに休めるのか」
「休めるよ! 僕も今日スケジュールがはっきりして。っといっても……事務所は僕の成績を心配してなんだけど、クリスマスイブから正月明けまでゆっくり出来ることになったんだ」
「すごいな。そんなに長期休みだなんて」
「嬉しいよ。安志さん、だから一緒に月影寺に行こう!」
「あぁそうしよう、人目を気にせず会えるな」

 最近の涼はモデルの人気がうなぎのぼりだから、外で気軽に会うのは困難になった。だが洋の暮らす月影寺は別だ。あそこは北鎌倉でも奥まった場所にあるので、下界から遮断された空間だ。

 しかも皆……俺達の恋仲に理解があるので、のびのびと過ごせる。

 本当に洋に感謝だ。最高の提案だよ。
 
「その代わりに明日から撮影が朝から晩まであって、しかも金曜日は忘年会、週末はテーマパークに宿泊しての撮影と超ハードなんだ。だから……」

 涼は少し寂しそうな表情だった。

「気にすんな! 俺も金曜日は忘年会だよ。クリスマスに会えるんだから、電話も無理すんなよ」
「安志さん……ありがとう!」
「お互いに多忙なのは想定内だ。だから安心しろ」

 今年も後10日程になっている。気ぜわしいはずだ。

「じゃあクリスマスイブに会おう!」

 それを合言葉に電話を切った。

 月影寺のクリスマスパーティーか。

 今から楽しみすぎる!
 
****
 
「涼くんお疲れ様、この二日間、撮影頑張ったね」
「はぁ~疲れた。もうマネージャー詰め込みすぎですよ。僕の体力にも限界があります」
「はははっ、さぁ今日はこの後事務所の忘年会だから、早く車に乗って。今からお台場に行くぞ」
「はい!」

 マネージャーに背中を押され駐車場から事務所の黒いバンに乗り込むと、奥の座席に人が先に座っていた。ずいぶん背が高いようで、長い脚を窮屈そうに持て余していた。

 一体誰だろう?

 じっと見つめてみると独特な雰囲気に覚えがあった。

 も、もしかして!

「えっ……」
「涼、久しぶりだな」







 驚いたことに、それはSoilさんだった。今日会えるなんて思ってなかったので、腰を抜かすほと驚いてしまった。

「そっSoilさんっ! なっ、なんで!」
「おいおい……まるで幽霊を見たかのような顔だな。それから陸と呼べ。モデルはもう辞めたんだから」
「あっ……はい、陸さん」

 モデルをやめたっていっても、その精悍でエキゾチックな風貌は少しも変わっていなくて、今でも最前線で活躍しているといっても過言ではない。

 はぁ~すごいオーラだ! 相変わらず。

「あっ、あの、いつ帰国を?」
「今日だ。思い立って急に帰国したんだ」
「それは……会いたい人がいるとか」
「あーまぁな、ところが会いたい奴はあいにく出張中だそうだ。だからこうやって事務所の忘年会に顔を出すことになったわけさ。社長直々に頼まれてな」

 少し不満げに言う陸さんに、苦笑してしまった。

 きっと会いたい人って、空さんのことだろう。確かにここ最近の空さんは忙しそうだった。頻繁に海外出張があるって聞いているし、もしかしてすれ違ってしまったのかな。見るからにがっかりしている陸さんを、思わず励ましたくなってしまった。

「陸さんに会えて、僕はすごく嬉しいです!」
「ははっ、相変わらず可愛いこと言うな。お前は俺の弟分だ」

 陸さんは長い脚を投げ出し、僕の頭をポンポンっと叩いた。もう完全にお子様扱いだけど、やっぱり嬉しい! 陸さんは僕の憧れのモデルだから。

「やっぱり東京の夜景は綺麗だ。NYもいいが……俺は日本が好きだ。空が違うよな……」

 陸さんの呟きに誘われ……一緒に窓の外を眺めると、ちょうど車はレインボーブリッジを渡り、お台場へ向かっているところだった。

 振り返れば、宝石箱をひっくり返したようなキラキラに瞬く都会の夜景と虹色の大きな橋。

 華やかで美しい都会の景色に、心が躍る。

 思いがけない人と会えたこともあり、一気にテンションが高まっていくのを感じた。


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