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14章
追憶の由比ヶ浜 23
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「ちょっと、ちょっと見た? 個室の検査入院の患者さん、すごい美形~」
「見た! でもでも姓が『張矢』って珍しいよね。まさか……まさか、あの張矢丈先生のご関係なのかな?」
「もしかして兄弟とか?」
「えー! タイプが違い過ぎない?」
翠兄さんを検査入院させると、案の定ナースステーションが響めき無駄口が聞こえてきた。
私だって翠兄さんがいかに女性受けが良いか、重々承知している。兄さんが御朱印受付に立つ日は長蛇の列が出来るし、写経の会は毎回キャンセル待ちだ。涼しげでイケメンな面立ちに人当たりも良いので、上は90歳から下は3歳の子までの熱烈なファンがいる。貢ぎ物も多い。お盆の時期はお中元が、暮れはお歳暮が山となる。しかも何故か翠兄さん個人宛のシャツやネクタイなどが多い。
「ねねね、今日の個室担当は誰?」
「駄目よ~ 患者さんをそんな目で見たら」
「おい、少し静かにしないか」
じろっと睨むが、好奇心旺盛な目はますます輝くばかりだ。おいおい特定の患者さんに関心を持つのは仕事柄タブーだろう。
「……あの、214号室の患者は私の兄だ。よろしく頼む」
「う、うそぉぉ~!」
何が嘘だ? 今、君達だって『兄弟かも』と言っていただろう?
「私の一番上の兄だ。何か文句あるか」
「文句なんてありません♡♡ さ、最高です!」
やれやれ……こんな話、流兄さんの耳に入ったら恐ろしい。
ふとガラス越しに廊下を見ると、作務衣姿の流兄さんがキョロキョロしていたので、ギョッとしてしまった。肩につく長髪を後ろで無造作に束ね、自分で染めた藍色の作務衣で逞しい身体を包んでいる兄は、無駄に壮絶な男気を振りまいている。
「ななな、今日はなんのご褒美デーなの! あそこにまたタイプの違うイケメンが!」
おいおい、悪目立ちしすぎだぞ。確かに流兄さんはかなりの美丈夫だ。今まで家族を勤務先に連れてきたことがなかったので、小っ恥ずかしい。
そういえば以前、一度だけ洋が訪ねて来たが、あの時は記者だとごまかしたな。懐かしい思い出だ。ともなく、ここに洋が加わったらいよいよ大事だ。
私は見つからないように顔を背けたが、流兄さんは明けっ広げにナースステーションで『張矢丈の兄ですが、弟、いますか』などと言うから、またもや騒然としてしまった。
「おお、丈、いたのか! 早速見舞いに来たぞ」
「大袈裟ですね。今回は検査入院ですよ。それより早くこちらへ」
「なんでだよ?」
「流兄さんは目立ち過ぎです」
「そうか? いつも通りだぜ」
「まぁそうですが、その手に持っている花は?」
「あぁ、加々美花壇のアレンジメントだ」
無骨な兄さんが抱える繊細な花は、クリームイエローやオレンジシャーベット色のガーベラを重ねた優しい物だった。翠兄さんに似合い過ぎる楚々とした雰囲気のアレジメントを作ったのは、もしかして?
「瑞樹くんですか」
「そうなんだ。彼に無理いって送ってもらったよ。入院中、花が兄さんを癒やしてくれるだろう思ってな」
「気が利きますね」
「これは洋くんからのお見舞いだよ。だが、どうして洋くんは来ては駄目なんだ?」
「洋は……(美し過ぎて)目立ち過ぎるので止めました。ただでさえ、もう今日は大変なんですよっ」
「おーい、じょうちゃんよぉ~ ずいぶん職場で惚気んなぁ。だが洋くんも来たそうだったぜ。帰ったらちゃんとフォローしろよ」
「それはもう(よーく)分かっていますよ。さぁ翠兄さんの部屋まで案内しますよ」
「頼む。病院に縁がなくてな、翠の付き添いでは来たことがあるが勝手が分からん!」
二人で病室へ向かうと、翠兄さんの個室の扉は開かれており、カーテンの向こうから楽しそうな声が聞こえてきた。
「こんな所で会えるなんて、思いもしなかったわ!」
「えぇ、僕も驚きました!」
いきなり女性の声!?
兄さんのテンションも高いような。
知り合いとは、一体誰だ?
流兄さんと思わず顔を見合わせてしまった。
あとがき(不要な方はスルーです)
****
最近連日シリアスが続いていて、私が息切れしてしまいました。
なにしろ「まるでおとぎ話」が佳境なので……
なので今日は休憩で楽しく書きました。
三兄弟の彼らのイケメンっぷりを存分に♡
さてさて、女性って誰でしょうね?
明日も楽しい回になりそう。あと洋も書かないと!
「見た! でもでも姓が『張矢』って珍しいよね。まさか……まさか、あの張矢丈先生のご関係なのかな?」
「もしかして兄弟とか?」
「えー! タイプが違い過ぎない?」
翠兄さんを検査入院させると、案の定ナースステーションが響めき無駄口が聞こえてきた。
私だって翠兄さんがいかに女性受けが良いか、重々承知している。兄さんが御朱印受付に立つ日は長蛇の列が出来るし、写経の会は毎回キャンセル待ちだ。涼しげでイケメンな面立ちに人当たりも良いので、上は90歳から下は3歳の子までの熱烈なファンがいる。貢ぎ物も多い。お盆の時期はお中元が、暮れはお歳暮が山となる。しかも何故か翠兄さん個人宛のシャツやネクタイなどが多い。
「ねねね、今日の個室担当は誰?」
「駄目よ~ 患者さんをそんな目で見たら」
「おい、少し静かにしないか」
じろっと睨むが、好奇心旺盛な目はますます輝くばかりだ。おいおい特定の患者さんに関心を持つのは仕事柄タブーだろう。
「……あの、214号室の患者は私の兄だ。よろしく頼む」
「う、うそぉぉ~!」
何が嘘だ? 今、君達だって『兄弟かも』と言っていただろう?
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「文句なんてありません♡♡ さ、最高です!」
やれやれ……こんな話、流兄さんの耳に入ったら恐ろしい。
ふとガラス越しに廊下を見ると、作務衣姿の流兄さんがキョロキョロしていたので、ギョッとしてしまった。肩につく長髪を後ろで無造作に束ね、自分で染めた藍色の作務衣で逞しい身体を包んでいる兄は、無駄に壮絶な男気を振りまいている。
「ななな、今日はなんのご褒美デーなの! あそこにまたタイプの違うイケメンが!」
おいおい、悪目立ちしすぎだぞ。確かに流兄さんはかなりの美丈夫だ。今まで家族を勤務先に連れてきたことがなかったので、小っ恥ずかしい。
そういえば以前、一度だけ洋が訪ねて来たが、あの時は記者だとごまかしたな。懐かしい思い出だ。ともなく、ここに洋が加わったらいよいよ大事だ。
私は見つからないように顔を背けたが、流兄さんは明けっ広げにナースステーションで『張矢丈の兄ですが、弟、いますか』などと言うから、またもや騒然としてしまった。
「おお、丈、いたのか! 早速見舞いに来たぞ」
「大袈裟ですね。今回は検査入院ですよ。それより早くこちらへ」
「なんでだよ?」
「流兄さんは目立ち過ぎです」
「そうか? いつも通りだぜ」
「まぁそうですが、その手に持っている花は?」
「あぁ、加々美花壇のアレンジメントだ」
無骨な兄さんが抱える繊細な花は、クリームイエローやオレンジシャーベット色のガーベラを重ねた優しい物だった。翠兄さんに似合い過ぎる楚々とした雰囲気のアレジメントを作ったのは、もしかして?
「瑞樹くんですか」
「そうなんだ。彼に無理いって送ってもらったよ。入院中、花が兄さんを癒やしてくれるだろう思ってな」
「気が利きますね」
「これは洋くんからのお見舞いだよ。だが、どうして洋くんは来ては駄目なんだ?」
「洋は……(美し過ぎて)目立ち過ぎるので止めました。ただでさえ、もう今日は大変なんですよっ」
「おーい、じょうちゃんよぉ~ ずいぶん職場で惚気んなぁ。だが洋くんも来たそうだったぜ。帰ったらちゃんとフォローしろよ」
「それはもう(よーく)分かっていますよ。さぁ翠兄さんの部屋まで案内しますよ」
「頼む。病院に縁がなくてな、翠の付き添いでは来たことがあるが勝手が分からん!」
二人で病室へ向かうと、翠兄さんの個室の扉は開かれており、カーテンの向こうから楽しそうな声が聞こえてきた。
「こんな所で会えるなんて、思いもしなかったわ!」
「えぇ、僕も驚きました!」
いきなり女性の声!?
兄さんのテンションも高いような。
知り合いとは、一体誰だ?
流兄さんと思わず顔を見合わせてしまった。
あとがき(不要な方はスルーです)
****
最近連日シリアスが続いていて、私が息切れしてしまいました。
なにしろ「まるでおとぎ話」が佳境なので……
なので今日は休憩で楽しく書きました。
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明日も楽しい回になりそう。あと洋も書かないと!
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