重なる月 ~いつの時代も月は見ていた~

志生帆 海

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14章

身も心も 18

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「流、こっちに来ておくれ」

 目覚めた翠は、大胆になっていた。

「さっきみたいに僕に触れて……流を近くに感じたい」
「あぁ、我が儘だな」
「ふっ、駄目か」

 目眩がするほどの甘い微笑み。

 俺だけに見せてくれる翠の素顔に惚れ惚れする。

 恭しく手の甲に口づけし、頬をゆっくりと撫でてやると、翠は気持ちよさそうに目を閉じた。

「いいね。流の愛が染み込んでくるよ……でも……まだ少し、眠たいよ」
「気にせず、眠れ」
「ん……ごめん。ホッとして……」

 翠が再びうとうとし出したので、暫く見つめていた。

 術後間もないのでまだ気怠げでぼんやりしていたが、それがまた色っぽくて困ってしまう。

 不謹慎だ。これは……

 気持ちを入れ替えようと廊下に出ると、シルバーグレイの紳士が立っていた。

「雪也さん!」
「流さんこんにちは。翠さんの手術、無事に終わったのですね」
「はい、成功しました」
「良かったです。病院の匂い……懐かしいです」

 雪也さんは目を細めて、ぐるりと辺りを見渡した。

「僕は子供の頃、病院で過ごすことが多かったので」
「そうだったのですね」
「海里先生に救っていただきました」
「兄も海里先生に助けていただきました」
「いえ、助けたのはあなたの弟さんですよ」
「ありがとうございます……あの、弟っていいものですね。頼もしかったです」
「僕の亡くなった兄も、そんな風に思ってくれていたら良いのですが……僕は兄に甘えてばかりで」

 そこに白衣の丈がやってきた。

「雪也さん! 大船まで、わざわざいらして下さったのですか。取りに伺ったのに」
「あ……丈さん、その白衣って……あの時の」
「えぇ、海里先生のものです。開業してからと思いましたが、一足先に。兄の手術には海里先生の力が必要でしたので」
「嬉しいです。あのこれ、テツさんが作った治療薬です」
「助かります。この配合は西洋医学ではなかなか難しい。兄の傷が落ち着いてきたら、塗るように指導します」
「ぜひ、桂人さんの背中、この塗り薬で本当に綺麗に治りましたから」
「ですね」

 雪也さんから丈に受け継がれるのは、白薔薇の屋敷に伝わる秘薬。

 きっと……翠の身体を元の白い肌に戻してくれるだろう。

 二十歳からこの歳になるまで、ずっと翠が我慢して抱え続けた、アイツの悪意の塊はもう消え去った。丈の手によって闇に葬られたのだ。

「手術中、海里先生を近くに感じました。私が会ったのは数回でしたが、彼の気配を確かに」
「そうですか。海里先生に僕も会いたいです」
「雪也さんたちのことを、いつも近くで見守っていますよ」
「はい……僕もたまにふと感じます。庭に白薔薇が咲く日は、二人の気配が強く感じます」

 丈と雪也さんの会話に、俺も過去に想いを馳せた。

 湖翠を残してあの世に旅立った流水さん。彼も湖翠さんをあの世から見守り続けたに違いない。

 人はひとりで生きていない。

 人と人との間から産まれ、人と結びついて、人と重なって生きていくのが人間だ。

 どんな人にも会いたい人がいて、もう会えない人がいる。

 それは当然のことで、それが人の一生なのだろう。

 かつての俺がそうだったように、切なる想いは不思議な力を生み出すのかもしれない。

 翠が生まれたままの姿に戻った今。

 俺は翠と深く結ばれ、重なって生きていくのだろう。

 最愛の人と、人生を重ねられることの悦びを噛みしめよう、感謝しよう。

「丈さん、流さん……全ては感謝なんですね」
「雪也さん……その通りですね」
「はい、そうだと思います」

 翠が目覚めたら、感謝から始めよう。

 当たり前のことを当たり前と思わずに……

 日々、感謝の積み重ね。

 そうやって生きていこう。 
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