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16章
雲外蒼天 2
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兄さんって、猫好きだったのか。
今、確かに猫に向かって話しかけていたよな?
普段は研ぎ澄まされた微笑を浮かべる程度で近寄りがたい雰囲気なのに、あんなに無邪気に猫と戯れるなんて驚いたよ。
何故だろう?
あどけない笑顔がフッと消えてしまいそうで、話しかけられなかった。
それほどまでに兄さんの屈託のない笑顔は、守ってあげたいものだった。
僕の方が10歳も年下だから守ってあげたいなんて、おこがましいのに。
でも最近の洋兄さんは無防備でとても可愛い。
月影寺の結界、更にその奥で過ごしているからなのか。
やっぱり、ここはすごいや!
少し身体を動かしたくなり山門から続く階段を駆け下りると、一台の黒塗りの高級車が月影寺の前で停まった。
お寺の檀家さんかな?
だとしたら、僕が顔を見せるのはまずいよな。
洋兄さんはたまに寺で御朱印受付の手伝いをしていると聞いた。
あの美貌だ。
近隣でもきっと話題になっているだろう。
僕は洋兄さんにそっくりだから、ややっこしいことになりそうだ。
目立たないように視線を外し脇道に逸れたのに、車から下りてきた女性は真っ先に僕に話しかけてきた。
「洋ゃん、どうして行っちゃうの?」
えっ、洋ちゃんって?
洋兄さんをそんな風に砕けて呼ぶなんて、一体誰だろう?
「あの……スミマセン。人違いのようですが」
おそるおそる振り返ると年老いたご婦人は目を見開いて、僕を凝視した。
「あら……あなた、もしかして……りょうちゃん?」
「え? あ、はい、涼ですが」
「まぁ、会うのは何年ぶりかしら? 私よ、私は白金のおばあちゃま。あなたはとても小さかったから覚えていない?」
「あっ!」
記憶を辿ると、朧気だが思い出した。
僕が小さい頃、白金のお屋敷を訪問したことがあった。
……
「……涼のおばあちゃまよ」
「おばあちゃま? わぁ、りょーのおばあちゃまなんだね」
「そうよ。でももう会わないわ」
「えっ……」
「さぁ、顔は見せたわ。もう行くわよ」
「ママぁ~ まってよぅ。おばあちゃまとあそばないの?」
「遊ばないわ」
「待って……朝!」
「ママなんて知らない!」
……
母は長居をしたがらなかったので、会ったのは一瞬だった。
それでも祖母の寂しそうな瞳が印象的で記憶に残っていた。
3歳で渡米し、大学入学を機に、僕だけ帰国した。
本来ならば真っ先に挨拶に行くべきなのに、母と祖母の関係が良くなかったのを記憶していたので、洋兄さんに誘われたこともあったが、結局今日まで機を逃していた。
「お……ばあさま?」
「そうよ、涼ちゃん、あなた洋ちゃんとそっくりに成長したのね。どうしてここにいるの?」
「あ……それは、洋兄さんに会いに来たんです」
「洋兄さんって……もしかして、二人は仲良しなの?」
「はい、洋兄さんのことは、実の兄だと思っています」
「なんて嬉しいことを言ってくれるの! あぁ、涼ちゃん、あなたにも会いたかった」
おばあ様が僕を優しく抱き寄せてくれた。
肉親の温もりに安堵した。
「涼ちゃん、小さかったのに、こんなに大きくなって。あなたにも会えてうれしいわ」
「僕もです。あの……洋兄さんの所に行きませんか」
さっきは洋兄さんに話しかけられなかったが、今なら大丈夫だ。
祖母と僕たちで集ってみたい。
だから竹藪を分け入り、兄さんの元へ案内した。
「あらまぁ、こんな奥に本当に洋ちゃんがいるの?」
「こっそり遊んでいるんですよ」
「まぁ楽しそう。私も遊びたいわ」
おばあさまは無邪気な方のようだ。
茂みの向こうには、まだ洋兄さんが猫と戯れていた。
芝生の上をゴロゴロして草まみれになっている。
「兄さん!」
「わ! びっくりした。涼に……おばあさままで!」
兄さんは驚いていたが、笑顔を崩さなかった。
無邪気な笑顔のまま、僕たちを呼んでくれた。
「二人ともこっちに来て下さい! この子猫、俺の猫ちゃんなんです。可愛いでしょう」
「まぁ! おばあちゃまは昔、犬を飼っていたのよ」
「あ、僕も!」
「涼ちゃんもワンちゃんを?」
「はい」
「ワンちゃんもいいけど、猫ちゃんにも興味があるわ。行ってみましょう!」
僕の手を祖母がさり気なく握ってくれた。
年老いた手だが、優しい手だと思った。
「洋ちゃん、おばあちゃまにも猫ちゃんを抱っこさせて」
「いいですよ。こっちにいらして下さい。涼もおいで!」
祖母が洋兄さんを心から愛していることが伝わってきて、僕の心はポカポカだ。そして洋兄さんが僕を愛してくれているのもちゃんと伝わってきて、幸せだった。
洋兄さんの幸せは、僕の幸せだ。
今、確かに猫に向かって話しかけていたよな?
普段は研ぎ澄まされた微笑を浮かべる程度で近寄りがたい雰囲気なのに、あんなに無邪気に猫と戯れるなんて驚いたよ。
何故だろう?
あどけない笑顔がフッと消えてしまいそうで、話しかけられなかった。
それほどまでに兄さんの屈託のない笑顔は、守ってあげたいものだった。
僕の方が10歳も年下だから守ってあげたいなんて、おこがましいのに。
でも最近の洋兄さんは無防備でとても可愛い。
月影寺の結界、更にその奥で過ごしているからなのか。
やっぱり、ここはすごいや!
少し身体を動かしたくなり山門から続く階段を駆け下りると、一台の黒塗りの高級車が月影寺の前で停まった。
お寺の檀家さんかな?
だとしたら、僕が顔を見せるのはまずいよな。
洋兄さんはたまに寺で御朱印受付の手伝いをしていると聞いた。
あの美貌だ。
近隣でもきっと話題になっているだろう。
僕は洋兄さんにそっくりだから、ややっこしいことになりそうだ。
目立たないように視線を外し脇道に逸れたのに、車から下りてきた女性は真っ先に僕に話しかけてきた。
「洋ゃん、どうして行っちゃうの?」
えっ、洋ちゃんって?
洋兄さんをそんな風に砕けて呼ぶなんて、一体誰だろう?
「あの……スミマセン。人違いのようですが」
おそるおそる振り返ると年老いたご婦人は目を見開いて、僕を凝視した。
「あら……あなた、もしかして……りょうちゃん?」
「え? あ、はい、涼ですが」
「まぁ、会うのは何年ぶりかしら? 私よ、私は白金のおばあちゃま。あなたはとても小さかったから覚えていない?」
「あっ!」
記憶を辿ると、朧気だが思い出した。
僕が小さい頃、白金のお屋敷を訪問したことがあった。
……
「……涼のおばあちゃまよ」
「おばあちゃま? わぁ、りょーのおばあちゃまなんだね」
「そうよ。でももう会わないわ」
「えっ……」
「さぁ、顔は見せたわ。もう行くわよ」
「ママぁ~ まってよぅ。おばあちゃまとあそばないの?」
「遊ばないわ」
「待って……朝!」
「ママなんて知らない!」
……
母は長居をしたがらなかったので、会ったのは一瞬だった。
それでも祖母の寂しそうな瞳が印象的で記憶に残っていた。
3歳で渡米し、大学入学を機に、僕だけ帰国した。
本来ならば真っ先に挨拶に行くべきなのに、母と祖母の関係が良くなかったのを記憶していたので、洋兄さんに誘われたこともあったが、結局今日まで機を逃していた。
「お……ばあさま?」
「そうよ、涼ちゃん、あなた洋ちゃんとそっくりに成長したのね。どうしてここにいるの?」
「あ……それは、洋兄さんに会いに来たんです」
「洋兄さんって……もしかして、二人は仲良しなの?」
「はい、洋兄さんのことは、実の兄だと思っています」
「なんて嬉しいことを言ってくれるの! あぁ、涼ちゃん、あなたにも会いたかった」
おばあ様が僕を優しく抱き寄せてくれた。
肉親の温もりに安堵した。
「涼ちゃん、小さかったのに、こんなに大きくなって。あなたにも会えてうれしいわ」
「僕もです。あの……洋兄さんの所に行きませんか」
さっきは洋兄さんに話しかけられなかったが、今なら大丈夫だ。
祖母と僕たちで集ってみたい。
だから竹藪を分け入り、兄さんの元へ案内した。
「あらまぁ、こんな奥に本当に洋ちゃんがいるの?」
「こっそり遊んでいるんですよ」
「まぁ楽しそう。私も遊びたいわ」
おばあさまは無邪気な方のようだ。
茂みの向こうには、まだ洋兄さんが猫と戯れていた。
芝生の上をゴロゴロして草まみれになっている。
「兄さん!」
「わ! びっくりした。涼に……おばあさままで!」
兄さんは驚いていたが、笑顔を崩さなかった。
無邪気な笑顔のまま、僕たちを呼んでくれた。
「二人ともこっちに来て下さい! この子猫、俺の猫ちゃんなんです。可愛いでしょう」
「まぁ! おばあちゃまは昔、犬を飼っていたのよ」
「あ、僕も!」
「涼ちゃんもワンちゃんを?」
「はい」
「ワンちゃんもいいけど、猫ちゃんにも興味があるわ。行ってみましょう!」
僕の手を祖母がさり気なく握ってくれた。
年老いた手だが、優しい手だと思った。
「洋ちゃん、おばあちゃまにも猫ちゃんを抱っこさせて」
「いいですよ。こっちにいらして下さい。涼もおいで!」
祖母が洋兄さんを心から愛していることが伝わってきて、僕の心はポカポカだ。そして洋兄さんが僕を愛してくれているのもちゃんと伝わってきて、幸せだった。
洋兄さんの幸せは、僕の幸せだ。
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