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17章
月光の岬、光の矢 77
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翌日、私たちは再び内覧会の案内状準備に取りかかった。
診療所の開院準備は一から自分たちで作り上げるので大変だが、幸せな時間だ。
「丈、頼まれていたカードのデザインをしてみたよ」
「ありがとう。洋はセンスがいいから助かるよ」
「これ、どう思う?」
洋が差し出したのは、夜空のようなグラデーションのカードで、下の方には海が描かれ、海の上には薙が作った重なる月のロゴが控えめにあしらわれていた。
「いいな。中秋の名月にふさわしい雰囲気だ。ロゴはまるで夜空に月のようにも見える」
海の青さと夜空の静けさ、そして重なる月のシルエット。
私たちの診療所らしいと褒めると、洋も破顔した。
明るい笑顔を浮かべるようになった恋人が、ますます愛おしい。
「良かったよ。ここに来てくれる人が、少しでも安らげる場所になればいいと思って作ったんだ」
洋が長い睫を伏せて願えば、きっと月の女神が叶えてくれる気がする。
それほどまでに洋の美貌は、神秘的だ。
早速カードに昨日二人で考えた文章を印刷してみると、静かな満足感を感じられた。
こうやって一つ一つの準備を二人で仕上げていくことで、この診療所がただの古い建造物ではなく、人々が集う温かい場所になっていく予感がする。
「さあ、これを送れば、いよいよ内覧会だ」
「あぁ、もう間もなくだ」
私は洋の肩を抱いて、窓辺に立った。
窓の外には、夜空に浮かぶ月が静かな光を放っている。
月光はまるで光の矢。
私たちを導いてくれる光線だ。
「丈、宛名書きもするか」
「そうだな」
カードを封筒に入れ、宛名を書き始めた。
地図と広げて洋に相談する。
「最初は、ご近所の方から……だいたいこの辺りの人に郵送しようかと」
「そうだな。なぁ、俺たちはまだこの町に馴染みが薄いから、郵便ではなく、俺たちの手で届けるのはどうだ?」
「いいアイデアだ」
人嫌いの私たちも、随分と変わった。
私たちの方から、周囲に歩み寄ろうとしている。
「次は熱海にいる両親に」
「俺、最近は連絡出来ていなかった……悪い」
「大丈夫だ。両親は離れていても、いつも洋を大切に思っている」
「ありがとう。二人は迷うことなく俺を兄弟の一員にしてくれた心強い存在だ」
洋を受け入れてくれた両親に、今度は私が洋と成し遂げたい世界を見て欲しい。
「次は、洋のおばあさまだ。白衣を沢山作って下さってありがたいよ」
「で、結局何枚届いたんだ?」
「数え切れないほどだ。一生分かもな」
「ふっ、おばあさまらしい」
「引出物を準備してもらう瑠衣とアーサーさんにも出そう」
「もちろんだ。一番のご近所さんなわけだしな」
印刷した文章だけではそっけないので、それぞれに一筆添えた。
心を込めて――
それから東京の宗吾と瑞樹くんにも。
友人でもある二人には、印刷したものでは味気ない気がした。
「宗吾たちには、全部手書きにしても?」
「俺もそう思っていた」
……
宗吾さん、瑞樹さん、芽生くん
皆さん、お変わりありませんか。
以前から話していた由比ヶ浜の診療所が、ようやく形になってきました。
建物は古い洋館ですが、思った以上に居心地のいい場所になりそうです。
もしよろしければ、内覧会の折に、ぜひ足を運んでください。
当日はまだ慌ただしいかもしれませんが、私と洋ふたりでお迎えできたらと思っています。
宗吾さんが以前「身体を壊さないように」と言ってくれたのに開院準備でつい張り切りすぎて少し腰を痛めてしまい反省しています。ですが、なんとか倒れずに済んでいるのは、きっとその言葉を思い出しているからです。
お目にかかれる日を、楽しみにしています。
由比ヶ浜にて 丈&洋
……
私の文章を見て、洋がふっと微笑んだ。
「ははっ、丈もこんな文章を書けるんだな。それから腰を痛めたのは別の理由じゃないのか。ふっ、それにしても、丈だけずるいぞ、俺も心友に一筆添えさせてくれよ」
「もちろんだ」
洋はとても美しい文字を書く、言葉はフランクだが。
……
追伸
この家に、やっと明かりが灯る!
宗吾さんと瑞樹くん芽生くんにも、俺たちが灯す光を見てもらえたら嬉しい。場所はちょっと遠いが、海辺の空気は悪くない。
来られるようなら、無理せずゆっくり来てくれ。
待ってる。
──洋
……
洋の手紙にも、あたたかい心がこもっていた。
「丈……誰かのために準備するって、こんなに素敵なことなんだな」
「あぁ、私はそう思うよ。ずっと……言葉でも文章でも、人に想いを伝えるのが苦手だったが、こんなに幸せなことだったのか」
封筒を閉じて切手を貼る作業すら、私たちにとってはかけがえのない時間だ。
そしてまた夜が更けていく。
もう明けない夜はない。
私たちは前進していくのみだ。
診療所の開院準備は一から自分たちで作り上げるので大変だが、幸せな時間だ。
「丈、頼まれていたカードのデザインをしてみたよ」
「ありがとう。洋はセンスがいいから助かるよ」
「これ、どう思う?」
洋が差し出したのは、夜空のようなグラデーションのカードで、下の方には海が描かれ、海の上には薙が作った重なる月のロゴが控えめにあしらわれていた。
「いいな。中秋の名月にふさわしい雰囲気だ。ロゴはまるで夜空に月のようにも見える」
海の青さと夜空の静けさ、そして重なる月のシルエット。
私たちの診療所らしいと褒めると、洋も破顔した。
明るい笑顔を浮かべるようになった恋人が、ますます愛おしい。
「良かったよ。ここに来てくれる人が、少しでも安らげる場所になればいいと思って作ったんだ」
洋が長い睫を伏せて願えば、きっと月の女神が叶えてくれる気がする。
それほどまでに洋の美貌は、神秘的だ。
早速カードに昨日二人で考えた文章を印刷してみると、静かな満足感を感じられた。
こうやって一つ一つの準備を二人で仕上げていくことで、この診療所がただの古い建造物ではなく、人々が集う温かい場所になっていく予感がする。
「さあ、これを送れば、いよいよ内覧会だ」
「あぁ、もう間もなくだ」
私は洋の肩を抱いて、窓辺に立った。
窓の外には、夜空に浮かぶ月が静かな光を放っている。
月光はまるで光の矢。
私たちを導いてくれる光線だ。
「丈、宛名書きもするか」
「そうだな」
カードを封筒に入れ、宛名を書き始めた。
地図と広げて洋に相談する。
「最初は、ご近所の方から……だいたいこの辺りの人に郵送しようかと」
「そうだな。なぁ、俺たちはまだこの町に馴染みが薄いから、郵便ではなく、俺たちの手で届けるのはどうだ?」
「いいアイデアだ」
人嫌いの私たちも、随分と変わった。
私たちの方から、周囲に歩み寄ろうとしている。
「次は熱海にいる両親に」
「俺、最近は連絡出来ていなかった……悪い」
「大丈夫だ。両親は離れていても、いつも洋を大切に思っている」
「ありがとう。二人は迷うことなく俺を兄弟の一員にしてくれた心強い存在だ」
洋を受け入れてくれた両親に、今度は私が洋と成し遂げたい世界を見て欲しい。
「次は、洋のおばあさまだ。白衣を沢山作って下さってありがたいよ」
「で、結局何枚届いたんだ?」
「数え切れないほどだ。一生分かもな」
「ふっ、おばあさまらしい」
「引出物を準備してもらう瑠衣とアーサーさんにも出そう」
「もちろんだ。一番のご近所さんなわけだしな」
印刷した文章だけではそっけないので、それぞれに一筆添えた。
心を込めて――
それから東京の宗吾と瑞樹くんにも。
友人でもある二人には、印刷したものでは味気ない気がした。
「宗吾たちには、全部手書きにしても?」
「俺もそう思っていた」
……
宗吾さん、瑞樹さん、芽生くん
皆さん、お変わりありませんか。
以前から話していた由比ヶ浜の診療所が、ようやく形になってきました。
建物は古い洋館ですが、思った以上に居心地のいい場所になりそうです。
もしよろしければ、内覧会の折に、ぜひ足を運んでください。
当日はまだ慌ただしいかもしれませんが、私と洋ふたりでお迎えできたらと思っています。
宗吾さんが以前「身体を壊さないように」と言ってくれたのに開院準備でつい張り切りすぎて少し腰を痛めてしまい反省しています。ですが、なんとか倒れずに済んでいるのは、きっとその言葉を思い出しているからです。
お目にかかれる日を、楽しみにしています。
由比ヶ浜にて 丈&洋
……
私の文章を見て、洋がふっと微笑んだ。
「ははっ、丈もこんな文章を書けるんだな。それから腰を痛めたのは別の理由じゃないのか。ふっ、それにしても、丈だけずるいぞ、俺も心友に一筆添えさせてくれよ」
「もちろんだ」
洋はとても美しい文字を書く、言葉はフランクだが。
……
追伸
この家に、やっと明かりが灯る!
宗吾さんと瑞樹くん芽生くんにも、俺たちが灯す光を見てもらえたら嬉しい。場所はちょっと遠いが、海辺の空気は悪くない。
来られるようなら、無理せずゆっくり来てくれ。
待ってる。
──洋
……
洋の手紙にも、あたたかい心がこもっていた。
「丈……誰かのために準備するって、こんなに素敵なことなんだな」
「あぁ、私はそう思うよ。ずっと……言葉でも文章でも、人に想いを伝えるのが苦手だったが、こんなに幸せなことだったのか」
封筒を閉じて切手を貼る作業すら、私たちにとってはかけがえのない時間だ。
そしてまた夜が更けていく。
もう明けない夜はない。
私たちは前進していくのみだ。
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