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小学生編
しあわせ図鑑 20
取材の後、午後出社まで時間があったので、僕は芽生くんとまだ誰もいないチャペルの周りを歩いてみた。
光が柔らかく差し込み、僕が生けたブライダルフラワーが輝いている。
「お兄ちゃんの今日の花、すごくきれいだね」
「ありがとう。うれしいよ」
芽生くんの言葉に、僕は口角を上げる。
しばらくするとバタバタとカメラマンやスタッフが現れ、撮影の準備をしだした。
「あ、次の撮影が始まるみたいだね」
「本当だ! わぁ、結婚式だね。あっ……」
驚いたことに、そこに登場した新郎役の青年は、先ほど話題にあがったばかりの涼くんだった。
涼くんは月影寺の洋くんのいとこで、以前、夏の海で偶然出会ったことがある。その時の爽やかな笑顔が脳裏に蘇る。白いタキシードに身を包んだ姿は、おとぎ話のヒーローのようにかっこいい。なるほど、だから専属カメラマンの林さんが登場したのか。
芽生くんも気づいたようで、嬉しそうだ。
「あのお兄さん! ぼくも前に会ったよね! 江の島の海で!」
「そうだね。久しぶりに見るね」
美男美女が並ぶ姿は絵のように美しく、林さんのカメラの前で二人がポーズを決めるたび、ブライダルフラワーはさらに輝きを増した。
だが涼くんが新婦役の女性の肩に手をまわした瞬間、胸の奥にひっかかる違和感を覚えた。
涼くんの顔色……どこか冴えない。
そこからはライトを浴びるたびに、その白い頬に暗い影が増すようで、笑顔がぎこちなくなった。
「お兄ちゃん、あのお兄さん……なにか困ってそうだよ」
「うん、僕も、そう思うよ」
幼い芽生くんも気づくなんて、やっぱり気のせいじゃない。
撮影が途中で、涼くんはカメラマンから声をかけられた。
「涼、どうした? 調子が出ないようだな。少し休憩を取ってこい。15分後に再開するから」
「すみません」
そのまま後ろに下がったので、僕と芽生くんは、急いで彼に歩み寄った。
「あの……こんにちは。お久しぶりです。覚えていますか」
僕が声をかけると、涼くんは少し驚いたように目を見開いた。
「……あ、江の島の海で会った葉山さんですよね。ほんとに久しぶりですね」
柔らかく笑みを浮かべるが、その笑顔の奥に疲労の色が隠せない。芽生くんが心配そうに一歩前に出る。
「お兄さん、すこし顔色が悪いよ。大丈夫?」
涼くんは一瞬言葉を失い、視線を床に落とした。
「……わかっちゃいますか」
僕はその仕草に確信を覚えた。
なぜか痛みを抱えた人の影に、自然と目が向いてしまうんだ。もしかしたら、かつての自分と重ねてしまうからかもしれない。
「あの……無理してませんか。僕には……腕を少し庇っているように見えましたが」
涼くんは驚いたように瞬きを繰り返した。
「え……どうして気づいたんですか」
「君は心友の従兄弟なので、大切に思って見ていたら、自然と気づいて……やっぱり腕を打撲しているんですね」
涼くんは観念したように小さく笑った。
「実は、先週ちょっと怪我をしてしまって……でも撮影はずらせないので……」
僕は肩から下げていたバッグに手を伸ばした。そこには普段から持ち歩いている応急用のサポーターが入っている。
「これ、よかったら使ってください」
「えっ……こんなものを、どうして持ち歩いてるんですか」
「花を扱う仕事なので、手首や腕を痛めることも多くて、だから念のために」
涼くんは目を潤ませていた。
「ありがとうございます……助かります」
芽生くんもぱっと笑顔になる。
「よかった! これで少し楽になるよ。大丈夫だよ、うまくいくよ」
その明るい言葉に、涼くんの強張った表情も和らいだ。
「ありがとう。芽生くんの言葉に元気をもらったよ」
「あ、お兄ちゃん、今の表情の方がずっといいよ」
僕は通路に飾った花を指さした。
「涼くんは無理に笑わなくても、この花のように、ただそこにあるだけできれいですよ。だから自信を持って、花が咲くように自然に笑って下さい」
涼くんは花を見つめながら、ふっと息をこぼした。
「……最近無理に笑うのがしんどい時があるんです。仕事も詰まってて、休む余裕もなくて」
芽生が首をかしげる。
「じゃあ、少し休めばいいのに」
その無邪気な言葉に、涼くんは目を細め、心の奥を見せるように笑ってくれた。
「そうだね。簡単にはいかないけど……そうしたいな。会いたい人に会いにいこうかな」
そう言いながら、僕が生けた花を見つめた。
白薔薇や白百合、ブルースター、グリーンの花々は、まるで光を抱え込むかのように静かに輝き、柔らかな香りが空気に溶けていた。
「今日のチャペルの雰囲気は柔らかくて、なんだか癒されます。花のせいかな」
その言葉が嬉しかった。
よかった。
花の力も人の力も、ちゃんと届いている。
涼くんの表情はさっきよりずっと明るく自然な笑みに変わっていた。
僕が心をこめた花が、涼くんの心にそっと寄り添えている――
その実感が、何よりの喜びだった。
サポーターを巻いた涼くんは、自信を取り戻したようだった。
「おかげで元気をチャージできました! ありがとうございます」
再び撮影に戻った涼くんの表情は、何かを吹っ切れたように晴れやかだった。
涼くんがナチュラルな笑顔を浮かべた瞬間、チャペルの空気が和らぎ、光と花で満たされたようだった。
「よかったね。やっぱりお兄ちゃんのお花はパワーがあるよ!」
僕の心も満たされていった。
光が柔らかく差し込み、僕が生けたブライダルフラワーが輝いている。
「お兄ちゃんの今日の花、すごくきれいだね」
「ありがとう。うれしいよ」
芽生くんの言葉に、僕は口角を上げる。
しばらくするとバタバタとカメラマンやスタッフが現れ、撮影の準備をしだした。
「あ、次の撮影が始まるみたいだね」
「本当だ! わぁ、結婚式だね。あっ……」
驚いたことに、そこに登場した新郎役の青年は、先ほど話題にあがったばかりの涼くんだった。
涼くんは月影寺の洋くんのいとこで、以前、夏の海で偶然出会ったことがある。その時の爽やかな笑顔が脳裏に蘇る。白いタキシードに身を包んだ姿は、おとぎ話のヒーローのようにかっこいい。なるほど、だから専属カメラマンの林さんが登場したのか。
芽生くんも気づいたようで、嬉しそうだ。
「あのお兄さん! ぼくも前に会ったよね! 江の島の海で!」
「そうだね。久しぶりに見るね」
美男美女が並ぶ姿は絵のように美しく、林さんのカメラの前で二人がポーズを決めるたび、ブライダルフラワーはさらに輝きを増した。
だが涼くんが新婦役の女性の肩に手をまわした瞬間、胸の奥にひっかかる違和感を覚えた。
涼くんの顔色……どこか冴えない。
そこからはライトを浴びるたびに、その白い頬に暗い影が増すようで、笑顔がぎこちなくなった。
「お兄ちゃん、あのお兄さん……なにか困ってそうだよ」
「うん、僕も、そう思うよ」
幼い芽生くんも気づくなんて、やっぱり気のせいじゃない。
撮影が途中で、涼くんはカメラマンから声をかけられた。
「涼、どうした? 調子が出ないようだな。少し休憩を取ってこい。15分後に再開するから」
「すみません」
そのまま後ろに下がったので、僕と芽生くんは、急いで彼に歩み寄った。
「あの……こんにちは。お久しぶりです。覚えていますか」
僕が声をかけると、涼くんは少し驚いたように目を見開いた。
「……あ、江の島の海で会った葉山さんですよね。ほんとに久しぶりですね」
柔らかく笑みを浮かべるが、その笑顔の奥に疲労の色が隠せない。芽生くんが心配そうに一歩前に出る。
「お兄さん、すこし顔色が悪いよ。大丈夫?」
涼くんは一瞬言葉を失い、視線を床に落とした。
「……わかっちゃいますか」
僕はその仕草に確信を覚えた。
なぜか痛みを抱えた人の影に、自然と目が向いてしまうんだ。もしかしたら、かつての自分と重ねてしまうからかもしれない。
「あの……無理してませんか。僕には……腕を少し庇っているように見えましたが」
涼くんは驚いたように瞬きを繰り返した。
「え……どうして気づいたんですか」
「君は心友の従兄弟なので、大切に思って見ていたら、自然と気づいて……やっぱり腕を打撲しているんですね」
涼くんは観念したように小さく笑った。
「実は、先週ちょっと怪我をしてしまって……でも撮影はずらせないので……」
僕は肩から下げていたバッグに手を伸ばした。そこには普段から持ち歩いている応急用のサポーターが入っている。
「これ、よかったら使ってください」
「えっ……こんなものを、どうして持ち歩いてるんですか」
「花を扱う仕事なので、手首や腕を痛めることも多くて、だから念のために」
涼くんは目を潤ませていた。
「ありがとうございます……助かります」
芽生くんもぱっと笑顔になる。
「よかった! これで少し楽になるよ。大丈夫だよ、うまくいくよ」
その明るい言葉に、涼くんの強張った表情も和らいだ。
「ありがとう。芽生くんの言葉に元気をもらったよ」
「あ、お兄ちゃん、今の表情の方がずっといいよ」
僕は通路に飾った花を指さした。
「涼くんは無理に笑わなくても、この花のように、ただそこにあるだけできれいですよ。だから自信を持って、花が咲くように自然に笑って下さい」
涼くんは花を見つめながら、ふっと息をこぼした。
「……最近無理に笑うのがしんどい時があるんです。仕事も詰まってて、休む余裕もなくて」
芽生が首をかしげる。
「じゃあ、少し休めばいいのに」
その無邪気な言葉に、涼くんは目を細め、心の奥を見せるように笑ってくれた。
「そうだね。簡単にはいかないけど……そうしたいな。会いたい人に会いにいこうかな」
そう言いながら、僕が生けた花を見つめた。
白薔薇や白百合、ブルースター、グリーンの花々は、まるで光を抱え込むかのように静かに輝き、柔らかな香りが空気に溶けていた。
「今日のチャペルの雰囲気は柔らかくて、なんだか癒されます。花のせいかな」
その言葉が嬉しかった。
よかった。
花の力も人の力も、ちゃんと届いている。
涼くんの表情はさっきよりずっと明るく自然な笑みに変わっていた。
僕が心をこめた花が、涼くんの心にそっと寄り添えている――
その実感が、何よりの喜びだった。
サポーターを巻いた涼くんは、自信を取り戻したようだった。
「おかげで元気をチャージできました! ありがとうございます」
再び撮影に戻った涼くんの表情は、何かを吹っ切れたように晴れやかだった。
涼くんがナチュラルな笑顔を浮かべた瞬間、チャペルの空気が和らぎ、光と花で満たされたようだった。
「よかったね。やっぱりお兄ちゃんのお花はパワーがあるよ!」
僕の心も満たされていった。
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