幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
32 / 1,871
発展編

想い寄せ合って 9

「パパぁ、きょうはたのしかったね」

 瑞樹と名残惜しく別れた後、家に着いた途端、おんぶしていた芽生が起きた。

「あぁ、コータくんにも会えてよかったな」

「うん!パパもおにいちゃんとずっといっしょでよかったね」

「うっコイツ!」

 流石我が息子。気配りが出来ているなとほくそ笑む。

「あれ?おにいちゃんはどこ?」

 背中がモゾモゾと動く。どうやら瑞樹がいないのでキョロキョロと首を動かして探しているようだ。

「瑞樹なら、今日はもう帰ったよ」

「えー!今日もいっしょにねむれるとおもったのに」

「はははっ、芽生も瑞樹が好きか」

「うん!おにいちゃんはすごくやさしいんだよ」

「へぇ……どんな所が」

 芽生を玄関で降ろし部屋の明かりをつけながら、興味があったので聞いてみた。

「あのね、あれしなさい!これしなさいっ!っておこらないの。ボクのはなしをちゃんときいてくれるの」

「あぁ成程」

 確かに瑞樹は、相手の気持ちに寄り添う優しい心を持っている。

 それってなかなか難しいことだ。

 特に大人とは厄介な生き物だから、特に目下の者や子供に対して上から目線で物を言ってしまう節があるからな。俺も耳が痛いぞ。

「それにね、おにいちゃんはすてきなアイデアいっぱいもっているんだ。おにいちゃんのおかげでソフトクリームだってよくばりできたよ」

 ミックス味のことか。ミルク味とチョコレート味の両方を食べられたことが余程嬉しかったみたいだ。そういえば俺はいつも芽生の意見なんて聞かずに、ソフトクリームは真っ白だと決めつけて、ミルク味しか買ってあげてなかったな。しかし幼心とは愛くるしいものだと、思わず目を細めて芽生のことを見つめた。

「あのね……パパもスキだけど、おにいちゃんはもっとスキ!ねぇまたおとまりにきてもらおうよ。それからどうぶつえんとかこうえんにもいきたいなぁ」

「そうかそうか。パパも瑞樹のことが大好きだから頼んでみよう」

「パパがんばって」

 芽生には男同士包み隠さず何でも話している。まだ四歳だから理解できないかもしれないが、俺が瑞樹が好きな気持ちがどういうものかも、きちんと伝えてある。

 まぁ……あとは俺の努力次第だな。

 それでも今日一日でぐっと進展した関係の未来は明るいと思う。

「さぁ風呂はいって寝るぞ」

「パパ、あしたはなにするの?」

「あしたは家で掃除だよ、芽生も手伝ってくれ」

「えーつまんないの」

「悪いな。でもこのままだと芽生の部屋に瑞樹が来てくれなくなるぞ」

「え!それはいやだー」

 日曜日は溜まっている家事をしないといけない。

 それまで家庭の事は玲子に全て任せっきりだったが、別れて初めて家事の大変さを知った。平フルで働いていると洗濯物や掃除機など毎日出来ないことも多いし、散らかり放題の子供部屋の流石に片づけもしないとな。晴れるならそろそろ布団も干さないと……あぁくそっ!ちょっと考えるだけで、ミッションが多すぎだろう。

 明日も瑞樹と会いたいと願う心は必死に押さえつけて、掃除に明け暮れそうだ。そうだ、せめて布団を干す前に瑞樹が眠ったベッドを拝借しよう。せめて瑞樹の残り香を楽しもうじゃないか。思いついた変態じみた考えにニヤリとしてしまう。

「なぁ芽生、今日はパパが芽生のベッドで寝ていいか」

「んーどうしようかな。おにいちゃんのあとにパパかぁ」

「おい、パパも仲間にいれておくれ」

「かわいそうだからいいよ!」

「おいっ!」

 その晩、瑞樹が眠ったベッドに潜り込んだ。

 いい年の大人なのに、昨晩ここで瑞樹が一晩過ごしたと思うと胸が高鳴るんだ。すんと嗅ぐと微かに感じる瑞樹の香り。花の香りなのか、これは……花になんて興味なんて全くなかったのに何の花なのか知りたくなる。瑞樹の花にかける情熱も応援したくなる。

 更には観覧車のてっぺんでキスした清楚な唇を思い出して、悶えてしまいそうになる。

「パパ、へんなかおーきもちわるいよ」

「ほら、もう眠るぞ」

「おやすみーパパ。そしておにいちゃん」

 (お休み瑞樹)

 その一言だけ……手早く瑞樹にメールした。

 本当はこの胸に抱いて直に伝えてやりたい。そのいつか一緒にこの夢を実現させるためにも、瑞樹の心に寄り添って歩んでいこう。

 今はこの微かな残り香を抱くことで我慢しよう。

 

****

 半分だけ空室のアンバランスな部屋に戻ると、一瞬気が滅入った。でも今日一日滝沢さんと芽生くんからもらった幸せの欠片が心を温めてくれた。

 一馬……僕はこのまま進んでいいんだよな?

 お前の残した言葉を守っていくぞ……

 もういないアイツに話しかけ、冷蔵庫に貼ったままのアイツからの書置きを指で辿っていく。

……

 瑞樹は俺にとって、ずっと水のような存在だった。瑞樹を抱けばいつも乾いていた心が潤った。そしていつも抱くと花のようないい匂いがして心地良かった。だが俺はもう二度とお前を抱けない。水をやれない。

 だけど……瑞樹は水を忘れるな。君を置いていく俺を、恨んでくれ。おこがましいが……どうか幸せになって欲しい。

……

 再び……幸せになれるか。

 それは僕次第だ。

 ならば、幸せになれるよう努力をしていこう。

 滝沢さんの想いに、僕の心を寄せていく。


『想い寄せ合って』了

 

感想 88

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)