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発展編
Let's go to the beach 3
「じゃあ明日は七時に迎えに行くよ。水着もその時渡すよ」
「はい、宜しくお願いします。あの……買ってくださってありがとうございます、宗吾さんも仕事頑張ってください」
「ありがとう。瑞樹に似合いそうなのを選んだから楽しみにしてくれ」
「ハイ!」
世間の一般のお盆休みが終わったので、明日からがようやく僕の夏休みだ。夏場は僕の仕事の大半を占める披露宴自体が少ないので休暇を取りやすい。
宗吾さんと芽生くんとの旅行を明日に控え、朝から気分が良かった。宗吾さんの方も随分機嫌がよかったな。一体どんな水着を選んでくれたのかな。きっと彼のことだからセンスのいいデザインだろう。
「葉山おはよう!元気だったか」
お盆休みを取っていた同期の菅野とエレベーターで一緒になった。隣に並んだ彼の腕を見ると、小麦色に日焼けしていた。
「……菅野はいい色だな」
「おう!弟たちと海で遊び惚けてきたからな。そういう葉山は相変わらず白いまんまだな。ほら逞しい腕だろう!」
自慢げにこんがり焼けた肌を見せつけられて、ついでに僕の白い肌をじろっと見られたので、なんとなく対抗意識が芽生えてしまった。
「僕は明日から夏休みだ」
「そうだったな。お前のことだから夏休みは軽井沢に避暑とか?高原リゾートが似合いそうだ」
確かにそういう場所も好きだが、今年は違う。
「違うよ。僕も海に行くよ」
「へっ?なんだか意外だな」
「意外なことはないだろう?僕もお前みたいに黒くなるさ」
「プッ、よせよせ~お前には似合わないよ。ミズキちゃん」
菅野はおおらかでいい奴だが、時々口が悪くなるな。
「そんなことない!絶対黒くなってみせる!」
僕だって宗吾さんのように少しは逞しくなりたいという願望はあるんだ。
普通……男なら皆そう思うだろう?いつまでも会社で自分への形容詞が「可愛い」とか「綺麗」なのは少し不本意だ。
僕だって男なのだからたまには「かっこいい」と言ってもらいたい。
自分の白い腕を見おろし心に誓った。
絶対に海で日焼けしてみせる。これがこの夏の目標だ。
****
早起きして荷造りをした。ドラッグストアで綺麗な小麦色の肌に焼くためのクリームも買ったし、もう準備万端だ。
インスタントのアイスコーヒーを飲みながら、窓の外に目をやった。
こんな風にゆったりと窓の外を眺めるのはいつぶりだろう。それに旅行は久しぶりだ。一馬とは、殆どしなかったよな。ただ……盆と暮れには、お互い別々に帰省はした。僕は弟の潤と顔を合わせたくないから殆ど帰らなかったが、親孝行な長男の一馬は、結構な頻度で帰省していて、お盆の時期はいないことが多かった。
それに既に二人で暮らしていたから、休みが取れると必然的に家に籠って抱き合うことが多かったしな。
僕はあいつとはあんなにシタのに、僕は宗吾さんとまだキスしかしてない。
宗吾さんはまるで僕がすべてのことが初めてのように大切に扱ってくれる。でも時にそのことが申し訳なる。だって僕はそんなに大事にされるような操は持っていない。一馬と付き合った七年間を思えば、本当は節操のない人間なのかもしれない。
だがそれは……宗吾さんがそれだけ僕に対して真剣に想ってくれることだと、最近は前向きに捉えるようにしている。だから僕も早く宗吾さんと並べるように、一馬との想い出をひとつひとつ切り離している最中だ。
僕は宗吾さんに甘えている。宗吾さんが僕を甘やかしてくれるのが心地よくて……彼に負担をかけていることも承知しているのに、やめられないことに罪悪感を抱いていた。
思いつめた僕に、ある日宗吾さんがこう囁いてくれた。
(瑞樹?無理すんな。もしかして気にしているのか。何度も言うように俺は瑞樹の躰だけが目当てじゃない。綺麗ごとかもしれないが『心から始める恋』というものをじっくり楽しんでいる最中だ。こんな気持ちになったのは初めてさ。なぁ……瑞樹だけなんだ。そりゃ一生このままなのは困るが……そうだな……一~二年ならなんとか我慢できそうだ。だからゆっくり俺と向き合ってくれ。その代わりキスはもらうぞ)
マンションの下に宗吾さんの車が到着したのが見えた。まず宗吾さんが降り後部座席に回り、芽生くんを抱き下ろした。親子の日常風景が朝日に照らされ、とても眩しかった。
一馬と別れを決めた時、もうこんなに深く人を愛すことはないと思ったのに……またこんな風に愛する人の一挙一動に心を時めかせることが出来るなんて……全部凛々しい宗吾さんと無邪気で可愛いメイくんのお陰だ。
「瑞樹、待たせたな。さぁ海に行こう!」
「おにいちゃん~おはよう。きょうはたのしみだよ。メイもがんばってはやおきしたんだよ」
「宗吾さん、おはようございます。メイくんもおはよう!今日はよろしくお願いします」
「おにいちゃんはパパのとなりのおせきだよ」
「いいの?ありがとう!」
「さて行くか。瑞樹と初めての海デートに出発だ!」
「パパ。はりきってるね~がんばって!」
「参ったな~息子に励まされるとはな」
車は一路葉山へ向かう。
「僕にとっても初めての海デートです」
青空にそびえる入道雲の向こうの相手に心の中でそっと告げた。
元気にやっているか。
お前とは行かなかった海に行くよ。
僕は辛い別れを経て、生まれ変わっている最中だ。
だからこの新しい夏を……存分に楽しむつもりだ。
「はい、宜しくお願いします。あの……買ってくださってありがとうございます、宗吾さんも仕事頑張ってください」
「ありがとう。瑞樹に似合いそうなのを選んだから楽しみにしてくれ」
「ハイ!」
世間の一般のお盆休みが終わったので、明日からがようやく僕の夏休みだ。夏場は僕の仕事の大半を占める披露宴自体が少ないので休暇を取りやすい。
宗吾さんと芽生くんとの旅行を明日に控え、朝から気分が良かった。宗吾さんの方も随分機嫌がよかったな。一体どんな水着を選んでくれたのかな。きっと彼のことだからセンスのいいデザインだろう。
「葉山おはよう!元気だったか」
お盆休みを取っていた同期の菅野とエレベーターで一緒になった。隣に並んだ彼の腕を見ると、小麦色に日焼けしていた。
「……菅野はいい色だな」
「おう!弟たちと海で遊び惚けてきたからな。そういう葉山は相変わらず白いまんまだな。ほら逞しい腕だろう!」
自慢げにこんがり焼けた肌を見せつけられて、ついでに僕の白い肌をじろっと見られたので、なんとなく対抗意識が芽生えてしまった。
「僕は明日から夏休みだ」
「そうだったな。お前のことだから夏休みは軽井沢に避暑とか?高原リゾートが似合いそうだ」
確かにそういう場所も好きだが、今年は違う。
「違うよ。僕も海に行くよ」
「へっ?なんだか意外だな」
「意外なことはないだろう?僕もお前みたいに黒くなるさ」
「プッ、よせよせ~お前には似合わないよ。ミズキちゃん」
菅野はおおらかでいい奴だが、時々口が悪くなるな。
「そんなことない!絶対黒くなってみせる!」
僕だって宗吾さんのように少しは逞しくなりたいという願望はあるんだ。
普通……男なら皆そう思うだろう?いつまでも会社で自分への形容詞が「可愛い」とか「綺麗」なのは少し不本意だ。
僕だって男なのだからたまには「かっこいい」と言ってもらいたい。
自分の白い腕を見おろし心に誓った。
絶対に海で日焼けしてみせる。これがこの夏の目標だ。
****
早起きして荷造りをした。ドラッグストアで綺麗な小麦色の肌に焼くためのクリームも買ったし、もう準備万端だ。
インスタントのアイスコーヒーを飲みながら、窓の外に目をやった。
こんな風にゆったりと窓の外を眺めるのはいつぶりだろう。それに旅行は久しぶりだ。一馬とは、殆どしなかったよな。ただ……盆と暮れには、お互い別々に帰省はした。僕は弟の潤と顔を合わせたくないから殆ど帰らなかったが、親孝行な長男の一馬は、結構な頻度で帰省していて、お盆の時期はいないことが多かった。
それに既に二人で暮らしていたから、休みが取れると必然的に家に籠って抱き合うことが多かったしな。
僕はあいつとはあんなにシタのに、僕は宗吾さんとまだキスしかしてない。
宗吾さんはまるで僕がすべてのことが初めてのように大切に扱ってくれる。でも時にそのことが申し訳なる。だって僕はそんなに大事にされるような操は持っていない。一馬と付き合った七年間を思えば、本当は節操のない人間なのかもしれない。
だがそれは……宗吾さんがそれだけ僕に対して真剣に想ってくれることだと、最近は前向きに捉えるようにしている。だから僕も早く宗吾さんと並べるように、一馬との想い出をひとつひとつ切り離している最中だ。
僕は宗吾さんに甘えている。宗吾さんが僕を甘やかしてくれるのが心地よくて……彼に負担をかけていることも承知しているのに、やめられないことに罪悪感を抱いていた。
思いつめた僕に、ある日宗吾さんがこう囁いてくれた。
(瑞樹?無理すんな。もしかして気にしているのか。何度も言うように俺は瑞樹の躰だけが目当てじゃない。綺麗ごとかもしれないが『心から始める恋』というものをじっくり楽しんでいる最中だ。こんな気持ちになったのは初めてさ。なぁ……瑞樹だけなんだ。そりゃ一生このままなのは困るが……そうだな……一~二年ならなんとか我慢できそうだ。だからゆっくり俺と向き合ってくれ。その代わりキスはもらうぞ)
マンションの下に宗吾さんの車が到着したのが見えた。まず宗吾さんが降り後部座席に回り、芽生くんを抱き下ろした。親子の日常風景が朝日に照らされ、とても眩しかった。
一馬と別れを決めた時、もうこんなに深く人を愛すことはないと思ったのに……またこんな風に愛する人の一挙一動に心を時めかせることが出来るなんて……全部凛々しい宗吾さんと無邪気で可愛いメイくんのお陰だ。
「瑞樹、待たせたな。さぁ海に行こう!」
「おにいちゃん~おはよう。きょうはたのしみだよ。メイもがんばってはやおきしたんだよ」
「宗吾さん、おはようございます。メイくんもおはよう!今日はよろしくお願いします」
「おにいちゃんはパパのとなりのおせきだよ」
「いいの?ありがとう!」
「さて行くか。瑞樹と初めての海デートに出発だ!」
「パパ。はりきってるね~がんばって!」
「参ったな~息子に励まされるとはな」
車は一路葉山へ向かう。
「僕にとっても初めての海デートです」
青空にそびえる入道雲の向こうの相手に心の中でそっと告げた。
元気にやっているか。
お前とは行かなかった海に行くよ。
僕は辛い別れを経て、生まれ変わっている最中だ。
だからこの新しい夏を……存分に楽しむつもりだ。
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