幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
420 / 1,871
成就編

夏便り 19

 軽井沢・ローズガーデン

「潤、お疲れさん! もう上がってもいいぞ」
「はい、しかし連日すごい賑わいでしたね」
「観光地だからな~ここは」
「東京からの人も多かったですね」
「都会の人は庭を持たないマンション住まいが多いから、こういう場所に癒やされるのだろう」
「あぁそれ分かります。オレの兄さんも……」
「そうなのか、いつかここに来てもらうといい」
「そうします!」

 上司と話した後、都内でマンション暮らしをしている兄、瑞樹の姿がちらついた。

 五月の連休に会ったばかりなのに、もう会いたいって、オレも相当なブラコンになったな。いや最初からブラコンだったのかも……ひねくれて迷走しちまったが。

 北海道の広い大地で成長してきた瑞樹に、都会のマンション暮らしなんて本当は似合わない。

 (兄さん……)

 そう呼ぶのはまだ照れ臭いが、大切な兄なんだ。

 オレがしでかした事を、優しい心で許してくれた恩を一生忘れない。だからここで造園業をしっかり身につけて、いつか瑞樹の役に立てる人間になりたい。

 そんな気持ちで、日々仕事に取り組んでいる。


 夜になって、函館の兄貴から連絡があった。

「潤、頑張っているか」
「兄貴こそ! お盆は帰れなくてごめん」
「いいんだよ。お前は今は遊んでいるわけじゃないだろ。だから謝るな」
「『今』は、余計だ。で、母さんは元気?」
「へぇお前も大人になったな。母親の心配をするなんて。あぁ元気いっぱいさ」
「そうか……良かったよ。そんで兄貴は何かいいことでもあった?」

 兄貴の声が底抜けに明るいので、理由を知りたくなった。

「分かるか。実はさっきまで瑞樹と話していたから、ご機嫌なのさ」

 タイムリーだ。オレも日中、瑞樹のことを思い出していた。

「兄さんと? お盆は東京だろう?」
「あぁ宗吾さんの実家で過ごしているよ」
「へぇ……なぁ元気そうだった?」
「あぁ写真を見せてもらったが、ますます可愛くなっていたぞ!」

 可愛いか……

 27歳の瑞樹に向かって言う台詞ではないが、その形容詞がぴったりだ。

「写真?」
「おー!それがさ、そこらのアイドルより可愛いブロマイドで10枚は保存したぜ」
「何それ、見せてくれよ」
「駄目だ! ダメ! 瑞樹が俺のために撮って送ってくれたんだ」
「なんだよ? ケチだな」
「欲しいなら、お前も瑞樹にお強請りしてみろよ」
「そんなこと出来るかよ」

 といいつつ……電話を切ってすぐに、スマホの写真ホルダーの中をチェックしてしまった。

 瑞樹の写真は、あるにはあったが、集合写真だから小さかった。

 瑞樹だけの写真か……オレも欲しい!!

 翌朝もまた瑞樹のことを考えてしまったので、もう立派なブラコンだと認めるしかなかった。

「おーい潤、スマホ見つめてどうした? 何か悩みでもあんのか」

 同期で入社した奴に呆けている姿を見られて恥ずかしい。でも恥を忍んで聞いた。

「実は写真を送ってもらいたい人がいてさ、でもどうやって切り出せばいいか分からなくて困ってる」
「そんなの簡単さ」
「どうすればいい?」
「自分の写真を1枚送って、君のも欲しいって言えばいいんじゃないか」
「なんだそれ? 自意識過剰の危ない奴じゃないか」
「はは、ダメ元でどうだ? ほら撮ってやるよ」

 結局、ローズガーデンで作業服で働くオレの写真を、瑞樹に送りつけてしまった。

『兄さん、元気? 今年のお盆は軽井沢で働いている。こんな感じでやってるよ。兄さんの写真も見たい』

 送信してから図々しいかなと思ったが、瑞樹に会いたくなってしまったんだ。許してくれよ。気持ちに収集がつかないんだ。


****

 庭先でスケッチを続けていると、ポケットのスマホが着信を知らせた。

 誰だろう? 休日に……

「あっ潤だ!」

 写真も一緒に届いた。

「わぁ!」

 作業服姿の潤だった。

「お前……日焼けして逞しくなったな」

 いい汗をかいて仕事をしているようで、ホッとした。

『兄さん、元気? 今年のお盆は軽井沢で働いている。こんな感じでやってるよ。兄さんの写真も見たい』
 
「えっ……僕の写真?」

 なんだか昨日の広樹兄さんに続いて、写真のリクエストが多いな。

 僕はもう潤に、蟠《わだかま》りは、ない。

 「しょうがないな、今回は特別だぞ、潤……」

 昨日広樹兄さんに送信した写真を送ろうと操作していたら、また潤からメッセージが入った。

『追伸! 広樹兄さんにあげたのじゃなくて、俺だけのために撮ったのがいい』

「ぷっお前らしいな。我が儘だ!」

 そう言いつつも、せっかく潤が潤なりに勇気を振り絞って頼んで来たのが分かるので、スマホで自撮りしてみた。

 庭を背景に、照れ臭いけれども、軽井沢で一生懸命働いている潤に笑顔を届けたくて。

「瑞樹? さっきからどうしてブツブツしゃべりながら自撮りしてる?珍しいな」
「あ、宗吾さん。その、実は潤から連絡が来て、僕の写真を送って欲しいと言われて」
「なんだそれ? あいつがそんなことを」
「可愛いですよね」
「……昨日広樹に送ったのでいいだろう?」

 僕もそう思ったのが……

「それが自分だけのが欲しいって駄々こねて、くすっ潤にも可愛い所があるんだなぁって思って」

 宗吾さんの目の色が変わった。

「なんだって? 潤だけの? ぞれはずるいだろう」
「ずるいって? もう宗吾さんってば、僕はアイドルなんかじゃありませんよ」
「いや、瑞樹は『アイドル』だ!!!!」
「こ、声が大きいです」

 美智さんと憲吾さんがキョトンとした顔で見ているじゃないですかぁ……

「悪い悪い。うーん、さてどうしたものか。とりあえず潤に送るのは撮ってやるよ」
「ありがとうございます」

 照れくさかったが、広樹兄さんにしたことは、潤にもしてあげたい。

 僕の兄弟だから公平に……

 宗吾さんも、僕たち兄弟の事を認めてくれ、こうやって協力してくれるのが嬉しい。

「え? もう撮ったんですか」
「うん、これでどうだ? いい顔してるよ。瑞樹は自然の中にいると、更にいい顔するよな」
「ありがとうございます、あ、あの……それで宗吾さんだけのも撮りますか」

 恥ずかしいが自分から申し出ると、宗吾さんは明るく笑って僕の頭をクシャッと撫でた。

「いや、俺は写真はやっぱりいいよ」
「え……」
「だって俺はさ……こうやって君の傍にいつもいられるし、生身の君に触れられるから、これ以上は贅沢だろう」



 嬉しい一言だった。

 いつだって一番傍にいる。

 それが宗吾さんだから。


感想 88

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています