幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

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小学生編

北国のぬくもり 21

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「芽生くんもおいで」
「え? ボクもいいの?」
「あたりまえよ。さぁ抱っこしてあげる」

 お母さんが僕に続いて、芽生くんを抱き寄せてくれた。

「芽生くん、今日はありがとうね。すごくうれしかったわ」
「え? なにが」
「あのね、お花を置く棚のこと、芽生くんが言ってくれたのよね」
「あ、うん、そうなの」
「私の腰を心配してくれたのね、なんていい子なのかしら」
「えへへ、うれしい」
 
 お母さんに抱っこされる芽生くんは、くすぐったそうに笑っていた。

 そうか、そうだよね。芽生くんもまた母の愛情に飢えているのだ。

「芽生くん、かわいい子、だーいすきよ」

 函館の母の懐は広くて、暖かい、居心地のいい場所だった。

 僕と芽生くんは、そのまま寄り添うように……母の胸に抱かれていた。

***

「みっちゃん、調子はどう?」
「ヒロくん~ 切った所が痛くて辛いわ。帝王切開って、こんなに大変なんだね」

 帝王切開とは、お腹を切開して赤ちゃんを取り出す分娩方法だ。術後は、傷の痛みと子宮収縮の痛みの二つがあり、特に傷の痛みは術後麻酔が切れると生じ、ピークは当日夜~産後二日目だと母からレクチャーを受けてきた。

「三日目位からはだいぶ落ち着いてきて、退院する頃には自由に歩き回れるそうだよ。だから焦らないで」
「ん……昨日は鎮痛剤の点滴してもらったけど……心配だな」
「……そうだ、これ」
「抱き枕?」
「母さんから、休める時は楽な姿勢でゆっくりして欲しいって言ってた」
「わぁ~うれしい! ヒロくんのお母さんって、本当に優しいよね」
「ありがとう。新婚早々……同居してくれてありがとうな」

 ずっとずっと言いたかったこと、今日なら言える。

「花屋も家もボロボロで新婚夫婦の華やかさもなくて……俺、無頓着だったよな」
「どうしたの? ヒロくん、急に何を?」
「実は店を……今日、リフォームしているんだ。弟たちが集まって力を合わせてくれているんだ。だからみっちゃん、退院する日を楽しみにしてくれ」

 どんな風になるのか、まだ分からないが、朝から弟二人と宗吾さんと芽生くんがワクワクした顔で集まって相談しているのを見て、泣きそうになった。

 俺のために、母のために、みっちゃんのために、ありがとうな。

「それはワクワクするね! ヒロくん、でもね、私は家の古さなんて気にしてなかったよ。だって大好きなヒロくんと結婚出来たんだもん! こんなに幸せなことってないわ。家の綺麗さよりも、もっと深い愛情をもらっている」

 あぁ、みっちゃんは最高の嫁さんだ。

 こんな心が広くて優しい人はいない。

「ずっと俺……背負うものが多くて、随分待たせたな」
「そんなことないよ。今でよかったんだよ。だって、潤くんも瑞樹くんも幸せそうだし、赤ちゃんもすぐに授かって、いいタイミングだったね」
「ありがとう、ありがとう。みっちゃん、一生愛してる!」

 ガバッとみっちゃんを抱きしめた。

「痛いって」
「あ、ごめん!」
「くすっ、さぁ優美ちゃんがもうすぐくるわ」
「そうだな、じゃあその前に」

 チュッとみっちゃんとキスをした。

「ふふ、熱々だね。私たち」
「だな」

 その後すぐに助産師さんが優美を連れてきてくれた。

「なんだか一日で太ったみたいだな」
「お顔が落ち着いてきたのよ」
「可愛いなぁ」
「看板娘だもん!」

 みっちゃんの胸に吸い付く様子を見て、また感激してしまった。

 必死に乳首に吸い付く小さな口、みっちゃんの胸から母乳が出ているのが分かり、感無量だ。

 俺は父となり、みっちゃんは母となった。

 赤ちゃんの仕草一つ一つに、俺たちを親へとステップアップしていく。
 
「ヒロくん、お店はいいの? 戻らなくて」
「今日は夕方まで帰ってくるなって。弟たちが店番してくれているから……明日からはゆっくり来られない分、今日はずっといるよ。優美とみっちゃんの傍に」

 ***

 店の後は、優美ちゃんのベビーコーナーにパステル調の家具を組み立て、壁にはカラフルなフラッグ、コルクボードには、芽生お手製のカードを貼った。

 雑誌に出てくるような可愛い部屋だな。

 見違えるように明るい空間になって満足だ。

「どうだ? 芽生」
「どうかな、芽生くん」
「うーん、優美ちゃんのおへや、あとすこしだけ、さみしくない?」
「何が足りない?」
「えっとね、ぬいぐるみー!」
「おぉ! 確かに」
「瑞樹、探しに行こう」
「はい!」

 瑞樹と芽生を連れて、赤煉瓦倉庫にやってきた。観光客向けの可愛い土産物ショップが並んでいるので、インテリアにもなるぬいぐるみが見つかりそうだ。

「瑞樹、君だったら、何のぬいぐるみがいい?」
「あ……あの、僕だったら、やっぱりクマが好きです」
「ふっ瑞樹はゆめの国でもそうだったが、クマ好きだよな。君自身はうさぎみたいなのに……そうか、俺がそんなに好きなのか」

 ニヤリと微笑みかけると、瑞樹がギョッとしていた。

「もう! 宗吾さんは自意識過剰です!」

 頬を膨らませるのも、可愛いだけなのに。

「パパぁ~、あのクマさんはどうかな?」
「お? いいな」
「本当だ」

 芽生が見つけてくれたのは、ピンク色の花柄生地の、クマのぬいぐるみだった。

「宗吾さん、これにしましょう。僕が払います」
「いや、これは俺からだ。クマだしな」
「くすっ、じゃあ僕は芽生くんに何か買ってあげてもいいですか」
「優しいな」
「そうしたいんです。芽生くん、オルゴールの館に行ってみようか」

 どんな時も芽生の心を置いてけぼりにしない、忘れない君が愛おしいよ。

 オルゴールの館には、優しいメロディが流れていて、疲れた身体を癒やしてくれた。

「ここ……高校時代何度か立ち寄ったことがあって……優しい音色が好きなんです」
「いいね」
「芽生くん、今回はどこにも遊びに行けなくてごめんね」
「すごく楽しかったよ。お兄ちゃんとお花屋さん、できたもん」
「嬉しいよ」

 そうだな。ゆめの国ももちろん楽しいが、こんな日常もワンダーランドだな。

「あ、これ、かわいい!」
「本当だ。カレンダーにもなっているね」
「これがいいな」

 芽生が選んだのはリスがくるくる回るオルゴールで、自分で日付を変えるカレンダーだった。

「宗吾さん、自分で日にちを動かすみたいで、いいですね」

 瑞樹の瞳も輝いていた。

 そうだ、君の時間、君の一日は君のものだ。

 瑞樹はもっともっと羽ばたいていい。

 君が羽を休ませられる場所はどんどん増えているのだから。

 函館も大沼も、そんな場所になった。





****

改装後の葉山生花店のイメージ画像(読者さまがあつ森で作ってくださいました)


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