幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

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小学生編

恋 ころりん 5

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「俺、フローリストになる!」
「え? あんた経済学部に通っているのに、どうして急に?」
「もう、決めたんだ」
「まさか……亡くなった女の子の遺志を継ぐつもりなの?」

  高校の同級生で大学生になってからお付き合いし出した知花ちゃんは、二十歳のクリスマスを迎えることなく亡くなった。

 生前、彼女はよく呟いていた。
 
『良介くん、私ね、将来はフローリストになるのが夢だったの。人に幸せを贈りたかったなぁ……花を介して』

 俺の実家は江ノ島の土産物屋。人に旅の思い出を売る商売だったので、彼女の夢に素直に寄り添えた。そこからどんどん花に興味が湧いて、ついには自分で花を扱ってみたくなったのさ。

「それは違う! 俺自身がなりたいと思ったんだ」
「嘘よ。畑違いにも程があるわよ!」
「今まで良介が花に興味を持ったことがあった?」
「今からやる! 勉強しているんだ!」

 母も姉も大反対だったが、俺の意志は曲げなかった。

 俺には……病室で知花ちゃんから教えてもらった膨大な知識がある。何より俺自身が花に興味を持っている。といってもいきなり花屋を開くのは無理があるから、まずは花の会社に就職したい。

「やるからには最高峰を目指す。俺……東京の加々美花壇という花の商社を受ける! 受かったら許してくれよ」
 


 また月日は流れ、大学四年生になっていた。

 今日は加々美花壇の就職試験、最終実技テストの当日だ。

 電車が遅延して遅刻しそうだったので、駅の改札を出るなり、人混みをかき分けて走り出した。

 すると華奢な青年と肩がぶつかってしまった。

 どう考えても体格差があるので、青年はその場で鞄を落とし、尻もちをついてしまった。

「大丈夫か。悪い!」

 手を差し出すが、すっと避けられた。

 なんだよ? 感じ悪いな。
 
「……大丈夫ですから」

 彼は無表情にズボンの汚れをはたいて、スタスタと歩き出してしまった。

「なんだよ? 心配したのに……おっと遅刻しちまう」
 
  地べたに置いた鞄を持ち上げると、黒いポーチが落ちていた。

 これって……さっきの青年の忘れモノ?

 もう姿が見えない。

 何だろう? 重たいな。大切なものじゃないといいが、勝手に開けるわけにはいかないよな。 

  あれ? これって花鋏?

 外から触った感触で、花鋏のシルエットを感じられた。

 この駅を利用しリクルートスーツを着ていたってことは、同じ試験を受ける人では?。

 一か八か俺は落とし物を握りしめて、面接会場に走った。

「見つけた!」
 
 栗色のふわりとした彼の背後に立って呼び止めた時、風が吹いた。

 ふわりと漂ったのは、花の香り。

 生前の知花ちゃんの言葉を思い出した。

『いつも花の匂いがするような人になりたい』

 「おーい!」

 青年は落とし物に気付いていないようで、少し怯えた様子で俺を見た。

 もしかして俺を怖がっている?

「さっきはごめん。これ君の落とし物じゃ……花鋏がないと受けられないだろう?」
「あっ!」
「俺も同じ試験を受けるんだ。頑張ろうな」
「……ありがとう」

 彼はとても気まずそうに、とても恥ずかしそうに頬を染めていた。

 だけど……すぐに無表情になってしまった。

 勿体ないな。

 せっかく可愛い顔をしているんだから、明るく笑えばいいのに。

  知花ちゃんの可憐な笑顔を思い出し……キュッと胸が切なくなった。

 知花ちゃんは天国で笑っているのか。お別れの挨拶が出来なかったから心残りだよ。



 俺は無事に合格し、日比谷にある加々美花壇に就職した。そして入社式の後、ブライダル部門に配属された。

 ブライダル部門に配属された新人は、俺の他にもう一人いた。

 あれ? 彼って!
 
「なぁ覚えている? 入社試験の時、俺と駅でぶつかったの」
「あっ……」
「俺は菅野良介」
「あ……ぼ、僕は……葉山瑞樹です」
「よろしくな」
「……あの時は、ありがとう。とても助かったよ」

 へぇ、無表情なくせに、きちんとお礼は言うのか。

 それにしても、また花の匂いがする。

 可愛く笑ったら、きっとすずらんのように可憐だろうな。

 同期の葉山瑞樹。

 彼とは、良縁な気がする。

 この出会い、大切にしよう!


****

「小森く~ん、何をじっと見ているんだ?」
「流さん!」
「副住職と呼べよ」
「はーい」
「ん? お供えの饅頭が気になるのか」
「い、いえ」

 いつもは最中なのに、今日はお饅頭なのが気になって、なんて言ったらお寺の小坊主失格ですよね?
 
「食べていいんだぜ」
「駄目ですよ。僕は盗みません!」
「副住職の許可が出たのに?」
「だって……直接、住職にお伺いしないと」

 副住職の流さんは、住職の実の弟さんなのに全然タイプが違います。いつも作務衣を着流して、あぁ今日は泥だらけの手で僕の頭をぐりぐり撫で回して……もう!
 
「大丈夫だって、ほら、食ってみろ。小森の頭みたいな栗饅頭だぞ」
「栗ですか‼」 (栗は季節限定ですよ! レアですよ! レア!)
「くくくっ、小森風太よ~ヨダレを垂らすな」
「わ、言わないで下さいよ」
「お前、相変わらず子供っぽいな。いくつになった?」
「もう十八ですよ」

 中学卒業してすぐ月影寺にお勤めし、あっという間に三年が経っていた。

「じゃあ、そろそろお付き合いする人を作らないとな」
「へ? お寺と家との往復で、そんな人、出来るはずありませんよ」
「それもそうだな。じゃあ、寄り道の許可を特別に出そう」
「え? いいんですか」

 やったー!! これで仕事帰りに最中を買いに行けますよ!

 北鎌倉だけではなくて、鎌倉まで。いやいや江ノ電に乗って江ノ島にだって行けますよ。ガイドブックで知ったのですが、江ノ島の『かんの家』の『灯台最中』は絶品だそうです。

「そういえば、知っているか」
「なんですか」
「二十歳になるまでにお付き合い出来ないと、月影寺の小坊主失格なんだぜ」
「えっ? そうなんですか」
「あぁ、小坊主の嗜《たしな》みさ」
「そんなぁ……無理そうですよぉ」
「頑張れ! いいか、お前の恋の指南は、副住職の俺が担当だ。何でも俺に聞くこと! 手取り足取り教えてやるから安心しろ」
「わ、分かりました!」

 ブンブンと頷いていると、住職に呼ばれた。

「小森くん~ おやつだよ、おいで! 今日は栗饅頭だよ」
「わぁ~ ワン!」
「くくっ、ほら行った! 行った!」
「では、これにして失礼しまっす」
「さっきの話、忘れんなよ」
「はーい!」


****

「風太、今の話、マジ?」
「そうですよ~ だから僕は流さんに聞いてきます。菅野くんは何の心配もしないで下さい」
「何の心配もって?」

 不安になって、おそるおそる訊ねると、案の定とんでもない返事が!

「だ・か・ら、ちゅーの次は何をしたらいいのかですよ! 何かすることがあるんですよね?」

 小首を傾げて目を大きく見開く風太が可愛すぎて、クラクラした。

「な、何って?」
「二人で座禅? 写経ですか。それとも滝行でしょうか」  (はぁ? 何それ?)
「いえ……そうじゃない。キスの次はだな……その……そのぉ、男同士でもちゃんと出来るんだ」
「ちゃんと? ちゃんとって、何をでしょう?」
 
 こんな無邪気な風太を前に、俺、何を言って?

 っていうか……俺も男としたことない。

 なんとなく知識はあるが、経験が伴わないぞ。

 風太を傷つけるような真似だけはしたくない。

 きちんと調べてからじゃないと、キスの次には進めないな。

 誰に聞くべきか~ 迷うなぁ。

「ちょっと待って。俺が調べてからだ」
「分かりました。小森風太は、いい子に待っています」
「いや、待たなくていいからっ」
「え……待たなくていいって……? うっ、ぐすっ、僕は……も、もう不要ですか」

 おーい、斜め上をいくな~、まぁ風太らしいが。
 
「いや違うって、少し時間が欲しいんだ。だから待っていてくれ」
「はい!」
「取りあえず今日は、いつものようにチューしようか」
「喜んで! 僕……菅野くんとのキス、大好きです」

 ポッと頬を染める、こもりん。

 俺たちは唇を重ね合って、何度も何度も小鳥が啄むような可愛いキスをした。

  まだまだ前途多難の俺たちだが、風太とのキスは相変わらず甘くて美味しかった。
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