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小学生編
花びら雪舞う、北の故郷 7
オレのためにココアを冷ましてくれる兄さんの姿に、目頭が熱くなった。
その光景に、こんな優しい日常が、かつてあったことを思い出した。
父の顔を知らずに育ったオレは、それを不憫に思った母と兄に甘やかされて育ち、そんなある日、母さんが兄より年下で、オレより年上の兄……瑞樹を連れてきた。
最初はすごく懐いていたんだぜ。優しくてきれいな兄が出来たと喜んでさ。
瑞樹はオレの世話をよく焼いてくれた。
熱々のココアを冷ますのが瑞樹の役目だったのか、いつもフーフーと息を吹きかけて、オレの好みの温度まで下げてくれた。
……
「潤、聞いてる?
「あ、ごめん」
懐かしい思い出に浸っていたんだ。
「ほら、もう熱くないよ」
「あ、ありがとうな」
「潤……僕は、もう大丈夫だよ」
「あ、あぁ」
オレが瑞樹にした悪戯や意地悪によって、瑞樹は函館の家に帰り難くなってしまった。それにプラスして、高校時代から苦しめていたアイツの存在が、瑞樹を苦しめていた。
瑞樹が函館の街に心を許せなくなったのを知り、オレは自分を責め続けた。
オレがあんなことしなければ。
オレがもっと早く、アイツをどうにかしてやれば。
オレが決定打の引き金を引いたせいだ。
だから……オレも瑞樹と同じように函館が怖くなった。
瑞樹がこの街に不安を抱えているのを知り、瑞樹のトラウマが、オレのトラウマになってしまった。
今回の帰省前に、広樹兄から事前に今日のことを教えてもらっていた。
……
「潤……お前。今回はどうしたって帰って来いよ。絶対に逃げんなよ」
ギクリとした。
正月に母に誘われて瑞樹と帰省することを約束はしていたが、直前になってやはり遠慮した方がいいのではと逃げ腰だったから。
「どうして……知って?」
「やっぱりな。お前は、まだあの時のことを引き摺っているんだろう?」
「べっ、別に」
「分かるさ。俺はお前の兄だから、全部分かる。なぁ潤、お前はもう充分償った。今の瑞樹を見て見ろ。幸せで蕩けそうな顔をしているじゃないか」
「去年スキーに来てくれた時に色々話して、もう蟠りはないが……でも函館はやっぱり別だ。アイツの息がかかっているじゃないか! それに苦しむ瑞樹の顔を見るのが辛いんだ!」
アイツとは……高橋建設の高橋柾、瑞樹を拉致監禁した張本人のことだ。
そろそろ刑期を終えて、また函館の街に戻ってくるのでは? そう思うだけで、身が震えた。
「兄さん、帰省した瑞樹を絶対に一人で歩かせないでくれ。あそこに近づけないでくれよ」
「……潤……その件だが、宗吾から朗報をもらったんだ」
俺が兄から聞いたことは、俄には信じがたい話だった。函館のあの会社が、大手ゼンコンの小林組に経営譲渡され、町中の看板から存在が消えたなんて。更にアイツがもう瑞樹への執着を完全に断ち切ってくれたなんて――
「信じられない。そんな上手い話」
「あぁ、だが……本当みたいだぞ。瑞樹に話すのは宗吾の役目だから、まだ言うなよ」
「わ、分かった」
「だからお前も帰って来い。瑞樹のトラウマが消える日に、お前が傍にいないと駄目だ!」
「わ……分かった」
そんな覚悟を決めての帰省だった。
……
「潤、潤……ごめんね」
「兄さん?」
「潤……ずっと僕がこんなんだったから……心配したよね。潤も苦しんでいたよね」
兄さんが最初は少し遠慮がちに……でもしっかりと肩を抱いてくれた。
俺よりずっと細身で優しい綺麗な兄なのに、いつの間に、こんなに心が逞しくなったのか。
「潤、もう僕は大丈夫だよ。今日から函館の空を堂々と見上げることも、函館の街を伸び伸びと歩くことも出来るようになったんだ」
「兄さん、ご……ごめんな。そして、許してくれてありがとう」
「僕はもうとっくに許しているのに、馬鹿な潤……おいで」
優しく抱き寄せてもらい、今度は本当に涙が溢れた。
****
僕と潤のしんみりとしたやりとりを静かに見守ってくれるのも、僕の家族だった。そして場の雰囲気を明るい方へと導いてくれるのは、やはり宗吾さんだった。
「よーし! 今日は俺の奢りだ。皆で寿司を食べに行こうぜ」
「え? いいんですか」
しんみりしていた潤が、いち早く反応したのが可愛かった。
「おぅ! そんで潤は俺の隣な。さしで飲もうぜ!」
「えぇ? なんか怖いっす」
すると芽生坊がトコトコやってきて、ペコリとお辞儀をした。
「ジュンくん、パパ……ちょっとだけ、うるさくなるけど、よろしくおねがいしますね」
「うわ~ 嫌な予感しかしないぞ」
「ははっ、潤、よろしくね」
兄さんにまで肩を叩かれて、一抹の不安が過る。
「もしかして……オレ、今日潰される?」
「そんなこと……あるかも? くすっ、潤、ファイト!」
兄さんが可愛く両手でガッツポーズなんてするんだから、ほわんとした気持ちになった。
そうだ! 正体を無くす前に言うことがあった!
「兄さん、あのさ、あとで相談にのって欲しいことがあって……」
「うん?」
オレが軽井沢でお付き合いし出した人のこと、兄さんに相談に乗って欲しくて。
一番最初に伝えたくて――
その光景に、こんな優しい日常が、かつてあったことを思い出した。
父の顔を知らずに育ったオレは、それを不憫に思った母と兄に甘やかされて育ち、そんなある日、母さんが兄より年下で、オレより年上の兄……瑞樹を連れてきた。
最初はすごく懐いていたんだぜ。優しくてきれいな兄が出来たと喜んでさ。
瑞樹はオレの世話をよく焼いてくれた。
熱々のココアを冷ますのが瑞樹の役目だったのか、いつもフーフーと息を吹きかけて、オレの好みの温度まで下げてくれた。
……
「潤、聞いてる?
「あ、ごめん」
懐かしい思い出に浸っていたんだ。
「ほら、もう熱くないよ」
「あ、ありがとうな」
「潤……僕は、もう大丈夫だよ」
「あ、あぁ」
オレが瑞樹にした悪戯や意地悪によって、瑞樹は函館の家に帰り難くなってしまった。それにプラスして、高校時代から苦しめていたアイツの存在が、瑞樹を苦しめていた。
瑞樹が函館の街に心を許せなくなったのを知り、オレは自分を責め続けた。
オレがあんなことしなければ。
オレがもっと早く、アイツをどうにかしてやれば。
オレが決定打の引き金を引いたせいだ。
だから……オレも瑞樹と同じように函館が怖くなった。
瑞樹がこの街に不安を抱えているのを知り、瑞樹のトラウマが、オレのトラウマになってしまった。
今回の帰省前に、広樹兄から事前に今日のことを教えてもらっていた。
……
「潤……お前。今回はどうしたって帰って来いよ。絶対に逃げんなよ」
ギクリとした。
正月に母に誘われて瑞樹と帰省することを約束はしていたが、直前になってやはり遠慮した方がいいのではと逃げ腰だったから。
「どうして……知って?」
「やっぱりな。お前は、まだあの時のことを引き摺っているんだろう?」
「べっ、別に」
「分かるさ。俺はお前の兄だから、全部分かる。なぁ潤、お前はもう充分償った。今の瑞樹を見て見ろ。幸せで蕩けそうな顔をしているじゃないか」
「去年スキーに来てくれた時に色々話して、もう蟠りはないが……でも函館はやっぱり別だ。アイツの息がかかっているじゃないか! それに苦しむ瑞樹の顔を見るのが辛いんだ!」
アイツとは……高橋建設の高橋柾、瑞樹を拉致監禁した張本人のことだ。
そろそろ刑期を終えて、また函館の街に戻ってくるのでは? そう思うだけで、身が震えた。
「兄さん、帰省した瑞樹を絶対に一人で歩かせないでくれ。あそこに近づけないでくれよ」
「……潤……その件だが、宗吾から朗報をもらったんだ」
俺が兄から聞いたことは、俄には信じがたい話だった。函館のあの会社が、大手ゼンコンの小林組に経営譲渡され、町中の看板から存在が消えたなんて。更にアイツがもう瑞樹への執着を完全に断ち切ってくれたなんて――
「信じられない。そんな上手い話」
「あぁ、だが……本当みたいだぞ。瑞樹に話すのは宗吾の役目だから、まだ言うなよ」
「わ、分かった」
「だからお前も帰って来い。瑞樹のトラウマが消える日に、お前が傍にいないと駄目だ!」
「わ……分かった」
そんな覚悟を決めての帰省だった。
……
「潤、潤……ごめんね」
「兄さん?」
「潤……ずっと僕がこんなんだったから……心配したよね。潤も苦しんでいたよね」
兄さんが最初は少し遠慮がちに……でもしっかりと肩を抱いてくれた。
俺よりずっと細身で優しい綺麗な兄なのに、いつの間に、こんなに心が逞しくなったのか。
「潤、もう僕は大丈夫だよ。今日から函館の空を堂々と見上げることも、函館の街を伸び伸びと歩くことも出来るようになったんだ」
「兄さん、ご……ごめんな。そして、許してくれてありがとう」
「僕はもうとっくに許しているのに、馬鹿な潤……おいで」
優しく抱き寄せてもらい、今度は本当に涙が溢れた。
****
僕と潤のしんみりとしたやりとりを静かに見守ってくれるのも、僕の家族だった。そして場の雰囲気を明るい方へと導いてくれるのは、やはり宗吾さんだった。
「よーし! 今日は俺の奢りだ。皆で寿司を食べに行こうぜ」
「え? いいんですか」
しんみりしていた潤が、いち早く反応したのが可愛かった。
「おぅ! そんで潤は俺の隣な。さしで飲もうぜ!」
「えぇ? なんか怖いっす」
すると芽生坊がトコトコやってきて、ペコリとお辞儀をした。
「ジュンくん、パパ……ちょっとだけ、うるさくなるけど、よろしくおねがいしますね」
「うわ~ 嫌な予感しかしないぞ」
「ははっ、潤、よろしくね」
兄さんにまで肩を叩かれて、一抹の不安が過る。
「もしかして……オレ、今日潰される?」
「そんなこと……あるかも? くすっ、潤、ファイト!」
兄さんが可愛く両手でガッツポーズなんてするんだから、ほわんとした気持ちになった。
そうだ! 正体を無くす前に言うことがあった!
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「うん?」
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