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小学生編
花びら雪舞う、北の故郷 27
いっくんの顔に水をつける練習を、少しだけした。
「よーし、がんばったな。今日はここまでな」
「うん! パパがいるからこわくなかったよ」
その後は抱っこして、顔にかからないように丁寧に髪を洗ってやった。
「そろそろ上がるか」
「うん! パパといっしょがいい」
「あぁ、もちろんだよ」
無条件に俺を「パパ、パパ」と慕ってくれる小さないっくん。
兄さんが芽生坊を大切にする気持ちが、よく分かるよ。
血のつながりなんて関係ないんだな。
愛しい人の子供というだけで、無条件に可愛い存在になるのか。
可愛い、大切にしたい、一緒にいたい。
愛情が芽生え、愛情を育てたくなる。
それを人は『幸せな存在』と呼んでいる。
とてもシンプルな関係だ。
「いっくん、まだ駄目だぞ。ちゃんと身体を拭いてからだ」
「うん!」
いっくんはバンザイをして、オレを待っている。
もうそれだけで悶えそうだ。
母さん、兄さん、子供って、本当に可愛いな。
「よーし! そのままじーっとして。えっとバスタオルはどこだ?」
オレは、フェイスタオルで身体をざっと拭いて、パンツだけ履いた。
「いっくんのは、あそこ」
「これか」
「うん! あひるさんのだよ」
黄色いバスタオルは、湯船にあったマスコットと同じ模様だった。
「えへへ、くすぐったいよ~、パパッ」
「もう少しな。ちゃんと拭かないと風邪を引いちゃうぞ」
その時、バスタオルのカゴを抱えた菫さんが突然入って来たので、オレも菫さんも固まってしまった。
「潤くん、ごめんなさい。バスタオルなかったでしょう」
「わっ!」
「キャー!」
「ママ、どうしたの?」
いきなりパンツ一丁の姿を見られて、猛烈に気恥ずかしかった。
菫さんも真っ赤だ。
俺たち……意識し過ぎだ!
「ご、ごめんなさい」
「い、いや、ありがとう。いっくん、もう身体は拭いたらから、パジャマを着せてくれるか」
「わかった。潤くんも着ちゃって」
「お、おう!」
****
び……っ、びっくりした。
私、意識し過ぎだわ。
でも……潤くん、想像以上に逞しくて、ドキドキが止まらない。
潤くんは、いっくんの亡くなったパパとは真逆なタイプなの。
でも、それがいい。
どこまでも逞しく生命力に溢れている潤くんだから、いっくんも私も安心出来るの。
もうあんなに呆気なく消えてしまわないと、思えるの。
私、思い切って踏み出そう。
お風呂上がりのいっくんの上気した顔を見て、確信した。
「ママぁ……おふろでパパがね、いっぱいだっこしてくれたんだよ」
「良かったね。いっくん」
「うん! あのね、あのね、パパといっしょにねんねしたいなぁ……」
「うんうん、いっくん、沢山抱っこしてもらって」
「ううん、ママもいっしょにだっこしてもらおう」
「え?」
「だって、ママもいっぱいがんばったもん!」
「いっくん」
****
脱衣所で二人の会話を聞いて、涙ぐんでしまった。
オレこんなに涙もろかったか。
オレが与えて貰った愛を、今度はオレが菫さんといっくんに伝えていく番なんだ。そんな強い志を抱いていた。
「お風呂ありがとう!」
「あ……潤くん、ドライヤーつかって」
「大丈夫! 短髪だからタオルドライで、充分だ」
「そうなのね、あのね、カレー作ったんだけど、即席でよく煮込んでないから味が薄いかも」
「うれしいよ。菫さんといっくんと一緒に食べられるだけでも幸せだ」
「そんな風に言ってもらえてうれしい。ありがとう」
菫さんのカレーは確かに、さらっとした味わいだったが、一つ一つの野菜が丁寧に大きさを揃えて切られていた。
見渡せば、二人暮らしの小さなアパートだが、整理整頓されており、簡素だが清潔で明るい印象の部屋だった。
いっくんのおもちゃ……
芽生坊や優美ちゃんに比べたら、少ないのだな。
でもどれもきちんとおもちゃ箱に戻してあり、いっくんの性格が伺える。
「いっくん、何か欲しいものがあるか」
「なんで?」
「何かプレゼントしたいって思って」
「うーん、いっくんのいちばんほしいの……もらっちゃったから」
「ん?」
「パパがほしかったの」
「……いっくん」
「いっくんってば」
カレーを前に、俺たちはまた泣いてしまった。
「菫さん、オレたち幸せになろう」
「ん! 私もそう思う。いっくんと潤くんと一緒に幸せになりたい」
「いっくんはね、パパとママとねんねしたい!」
「くすっ」
「ははっ、もちろんだ!」
カレーの味は、この先、もっともっと深くなるだろう。
二日目のカレーも、食べてみたいな。
****
「芽生くん、宗吾さんこっち向いてください」
「おぅ!」
「はーい!」
僕は一眼レフを構えた。
「兄さんも入って」
「いいのか」
「当たり前だぜ、広樹もだ」
「ヒロくん、エプロンつけたままだよ~」
「俺のトレードマークだ」
カシャカシャ――
今日もシャッター音が、軽快に鳴り響く。
「瑞樹も入れよ」
「はい!」
セルフタイマーで僕も入って、記念撮影をした。
みんなでスプーンを持って、にっこり笑顔。
「今日は『カレー記念日』だな」
「ふふっ、うん、そうだね」
賑やかな食卓、和やかな食卓。
赤いコテージの内装はログハウス風で、ぬくもりがあって本当に落ち着く。
カレーを食べ終えると、芽生くんがこっくりこっくりと船を漕いでいた。
「芽生くん、そろそろお布団にいこうね」
「うん……お兄ちゃんもいっしょがいい」
「いいよ。宗吾さん、僕、寝かしつけてくるので、兄さんと先に飲んでいて下さい」
「悪いな」
「いいえ。兄さんも楽しみにしていたので」
「よーし、広樹、飲むぞ」
「おぅ、酒も持参したぞ」
僕は兄さんと宗吾さんの和気藹々としたやりとりを聞きながら、ロフトに上がりお布団を敷いて……芽生くんと横になった。
「お兄ちゃんも、ねむそうだね」
「うん、僕も眠い……」
本当に落ち着くな、ここ。
兄さんがいて、宗吾さんと芽生くんがいてくれる。
今日はまた一ついいことがあった。
あの丘にいつも兄さんが迎えに来てくれていたことも思い出せてよかった。
「おやすみ、芽生くん」
「お兄ちゃん、だいすきだよ。おやすみなさい」
「いい夢をみようね」
今の僕は……寝ても起きても、幸せだ。
だから安心して眠りにつける。
「よーし、がんばったな。今日はここまでな」
「うん! パパがいるからこわくなかったよ」
その後は抱っこして、顔にかからないように丁寧に髪を洗ってやった。
「そろそろ上がるか」
「うん! パパといっしょがいい」
「あぁ、もちろんだよ」
無条件に俺を「パパ、パパ」と慕ってくれる小さないっくん。
兄さんが芽生坊を大切にする気持ちが、よく分かるよ。
血のつながりなんて関係ないんだな。
愛しい人の子供というだけで、無条件に可愛い存在になるのか。
可愛い、大切にしたい、一緒にいたい。
愛情が芽生え、愛情を育てたくなる。
それを人は『幸せな存在』と呼んでいる。
とてもシンプルな関係だ。
「いっくん、まだ駄目だぞ。ちゃんと身体を拭いてからだ」
「うん!」
いっくんはバンザイをして、オレを待っている。
もうそれだけで悶えそうだ。
母さん、兄さん、子供って、本当に可愛いな。
「よーし! そのままじーっとして。えっとバスタオルはどこだ?」
オレは、フェイスタオルで身体をざっと拭いて、パンツだけ履いた。
「いっくんのは、あそこ」
「これか」
「うん! あひるさんのだよ」
黄色いバスタオルは、湯船にあったマスコットと同じ模様だった。
「えへへ、くすぐったいよ~、パパッ」
「もう少しな。ちゃんと拭かないと風邪を引いちゃうぞ」
その時、バスタオルのカゴを抱えた菫さんが突然入って来たので、オレも菫さんも固まってしまった。
「潤くん、ごめんなさい。バスタオルなかったでしょう」
「わっ!」
「キャー!」
「ママ、どうしたの?」
いきなりパンツ一丁の姿を見られて、猛烈に気恥ずかしかった。
菫さんも真っ赤だ。
俺たち……意識し過ぎだ!
「ご、ごめんなさい」
「い、いや、ありがとう。いっくん、もう身体は拭いたらから、パジャマを着せてくれるか」
「わかった。潤くんも着ちゃって」
「お、おう!」
****
び……っ、びっくりした。
私、意識し過ぎだわ。
でも……潤くん、想像以上に逞しくて、ドキドキが止まらない。
潤くんは、いっくんの亡くなったパパとは真逆なタイプなの。
でも、それがいい。
どこまでも逞しく生命力に溢れている潤くんだから、いっくんも私も安心出来るの。
もうあんなに呆気なく消えてしまわないと、思えるの。
私、思い切って踏み出そう。
お風呂上がりのいっくんの上気した顔を見て、確信した。
「ママぁ……おふろでパパがね、いっぱいだっこしてくれたんだよ」
「良かったね。いっくん」
「うん! あのね、あのね、パパといっしょにねんねしたいなぁ……」
「うんうん、いっくん、沢山抱っこしてもらって」
「ううん、ママもいっしょにだっこしてもらおう」
「え?」
「だって、ママもいっぱいがんばったもん!」
「いっくん」
****
脱衣所で二人の会話を聞いて、涙ぐんでしまった。
オレこんなに涙もろかったか。
オレが与えて貰った愛を、今度はオレが菫さんといっくんに伝えていく番なんだ。そんな強い志を抱いていた。
「お風呂ありがとう!」
「あ……潤くん、ドライヤーつかって」
「大丈夫! 短髪だからタオルドライで、充分だ」
「そうなのね、あのね、カレー作ったんだけど、即席でよく煮込んでないから味が薄いかも」
「うれしいよ。菫さんといっくんと一緒に食べられるだけでも幸せだ」
「そんな風に言ってもらえてうれしい。ありがとう」
菫さんのカレーは確かに、さらっとした味わいだったが、一つ一つの野菜が丁寧に大きさを揃えて切られていた。
見渡せば、二人暮らしの小さなアパートだが、整理整頓されており、簡素だが清潔で明るい印象の部屋だった。
いっくんのおもちゃ……
芽生坊や優美ちゃんに比べたら、少ないのだな。
でもどれもきちんとおもちゃ箱に戻してあり、いっくんの性格が伺える。
「いっくん、何か欲しいものがあるか」
「なんで?」
「何かプレゼントしたいって思って」
「うーん、いっくんのいちばんほしいの……もらっちゃったから」
「ん?」
「パパがほしかったの」
「……いっくん」
「いっくんってば」
カレーを前に、俺たちはまた泣いてしまった。
「菫さん、オレたち幸せになろう」
「ん! 私もそう思う。いっくんと潤くんと一緒に幸せになりたい」
「いっくんはね、パパとママとねんねしたい!」
「くすっ」
「ははっ、もちろんだ!」
カレーの味は、この先、もっともっと深くなるだろう。
二日目のカレーも、食べてみたいな。
****
「芽生くん、宗吾さんこっち向いてください」
「おぅ!」
「はーい!」
僕は一眼レフを構えた。
「兄さんも入って」
「いいのか」
「当たり前だぜ、広樹もだ」
「ヒロくん、エプロンつけたままだよ~」
「俺のトレードマークだ」
カシャカシャ――
今日もシャッター音が、軽快に鳴り響く。
「瑞樹も入れよ」
「はい!」
セルフタイマーで僕も入って、記念撮影をした。
みんなでスプーンを持って、にっこり笑顔。
「今日は『カレー記念日』だな」
「ふふっ、うん、そうだね」
賑やかな食卓、和やかな食卓。
赤いコテージの内装はログハウス風で、ぬくもりがあって本当に落ち着く。
カレーを食べ終えると、芽生くんがこっくりこっくりと船を漕いでいた。
「芽生くん、そろそろお布団にいこうね」
「うん……お兄ちゃんもいっしょがいい」
「いいよ。宗吾さん、僕、寝かしつけてくるので、兄さんと先に飲んでいて下さい」
「悪いな」
「いいえ。兄さんも楽しみにしていたので」
「よーし、広樹、飲むぞ」
「おぅ、酒も持参したぞ」
僕は兄さんと宗吾さんの和気藹々としたやりとりを聞きながら、ロフトに上がりお布団を敷いて……芽生くんと横になった。
「お兄ちゃんも、ねむそうだね」
「うん、僕も眠い……」
本当に落ち着くな、ここ。
兄さんがいて、宗吾さんと芽生くんがいてくれる。
今日はまた一ついいことがあった。
あの丘にいつも兄さんが迎えに来てくれていたことも思い出せてよかった。
「おやすみ、芽生くん」
「お兄ちゃん、だいすきだよ。おやすみなさい」
「いい夢をみようね」
今の僕は……寝ても起きても、幸せだ。
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