幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

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小学生編

HAPPY SUMMER CAMP!⑨

「大丈夫ですか。痛みますよね」
「は、はい」

 お兄ちゃん……心配そうなお顔をしている。

 そのままお姉さんの足下にしゃがんで、小さなポシェットからウェットティッシュを取り出して、洋服についた泥を必死にとりのぞいてあげていた。

「医師が来るまで泥を取っておきましょうね」
「あ……ありがとうございます」
「あ、足は……すみません。ご友人のどなたか、手伝っていただけますか」
「はい!」
「はい!」
「ぜひ! 私が」
「えっ、えっと……じゃあ……皆さんに、お願いできますか」

 お兄ちゃんの前には、あっという間に人が集まってきたよ。

 みんなやさしいね。

 ケガしちゃった人を心配しているんだね。

 あーあ、ボクにも、なにか出来ないかな。

 小さくても、少しでも役に立ちたいな。

 となりをみると、いっくんが手をグーにしてふるえていたよ。

「いっくん大丈夫?」
「めーくん、たいへん、たいへん! おねーさん、えーんえーんしてるよ。かわいそうだよ。いっくんもおてつだいしたいな」

 おてつだいか……

 そうだ! 転んだ時に、いつもお兄ちゃんがしてくれることなら……ボクたちにもできるよ!

「いっくんとボクで、おねーさんをはげましてあげよう」
「うん!」

 めーくんとおおててつないで、おねーさんのところにちかよったよ。

「いっくん、せーの」
「おねーさんのいたいのいたいの、おそらにとんでけ~」
「あ、ありがとう。坊や……すごく、かわいい」
「えへへ。おねーさん、もうだいじょうぶだよ。もうすぐ先生がきてくれるからね」

 いっくんとボクが手をつないで、にっこりわらうと、おねーさんも泣きやんでくれたよ。

 よかったー!

 林の中に、いつの間にかたくさんのしらない人があつまっていたよ。

****

 俺と丈が到着すると、瑞樹くんと女性たちが、転んだ女性の洋服についた泥をキレイに落としてあげていた。
 
「大丈夫ですか、私は外科医です。足を診ても?」
「きゃー! じょ……違った! お、お医者さまなんですか。ぜひお願いします……恥ずかしいわ、派手に転んじゃって……」
「大丈夫ですよ。まず傷を洗い流しましょう」

 丈が鞄の中からサッと水を取りだして、傷口についた泥を洗い流し、じっと観察し出した。

 医師の丈を間近で見られるのは、貴重だ。

「よしっ、大丈夫ですよ。縫う程の傷でなくて良かったです」
「ほ……本当ですか」
「えぇ、足首を診ても?」
「是非!」

 ん? 元気を取り戻した女性が、丈に見惚れているのが感じ取れた。

 まぁ……俺の丈はカッコイイもんな。当然か。

「なるほど少し捻ったようですね。テーピングしましょう」
「お願いします♡」

 おっと! ♡は消えろっ!

 丈が慣れた手付きで女性の足首をテープで固定していく。

「あ……しまった」

 丈が小さく呟いた。

 何か忘れ物か。

 すると翠さんがスッと現れ、丈に鋏を手渡した。

「丈、これを使うといい」
「兄さん、助かります」

 いい光景だな。こういう阿吽の呼吸って……兄弟ならではだ。

 でも翠さん、なんで鋏を持っているんだ?

「さぁ立てますか」
「はい!」

 丈は今日は白衣ではない。

 白いTシャツから覗く二の腕が逞しく凜々しくて、周囲を取り囲む人達から、一斉に溜め息と歓声があがった。

「……ふっ、医師の丈は、格好いいな」

 思わず口に出して呟くと、隣に立っていた男性が、「ありがとうございます!」とニコニコ笑顔で言ったので驚いた。

 小さな女の子と手を繋いで人の良さそうな父親のようなので不審ではないが……なんで今、俺にお礼を?

「はぁ?」
「どうして僕の名前をご存じなのか知りませんが、格好いいなんて言われたの初めてで、嬉しくなってしまいました」
「はっ?」
「申し遅れました。僕はこういうものです」
 
 さっとこんな場所で名刺を差し出されて、何だか可笑しくなってしまった。  

 松田薬品 営業  石野 譲

「……いしの……じょう?」
「はい! 石野譲です」
「あ、そういうことか」

 ははっ、紛らわしいな。

「洋、何をしている?」

 治療を終えた丈が、少し苛ついた顔で俺を見る。
 
「あ、丈……こちらは石野譲さんだって」
「イシノジョー???」
「はい、石野譲です。松田製薬の営業をしています。ぜひお医者さまならお見知りおきを」
「……」

****

 いろいろハプニングはあったが、コテージに全員無事に戻って来られた。

「まぁ、瑞樹くんも芽生くんもいっくんも泥んこね。さぁ手を洗っていらっしゃい」

 エプロン姿の菫さんが、楽しそうに笑っていた。

 確かに僕まで、泥んこだ。

 さっき女性に駆け寄って、泥に膝をついたからかな。

「お腹も空いたでしょう。おやつにしましょう」
「はい! 芽生くんいっくん、手を洗いにいこう」
「うん、おててじゃぶじゃぶするよぅ」

 コテージには踏み台がなかったので、芽生くんといっくんを順番に抱き上げて、まるでアライグマの親子みたいに一緒に手を洗った。

 真っ白な泡に小さな手を包んであげると、芽生くんがくすぐったそうに笑った。

「お兄ちゃん、泡がモクモクで雲みたいだね」
「泡立て過ぎちゃったかな?」
「ううん、お空の雲にふれているみたいで楽しい」
「あのねあのね、くものうえには、おほしさまになったパパがいましゅよ」

 いっくんの何気ない言葉に、少し切なくも微笑ましい気持ちになる。

「そうだね。お空からいっくんが幸せな様子を見ていてくれるよ」
「みーくん。おちえて。いっくん、ニコニコしてると、おそらのパパもうれしい?」
「もちろんだよ」

 いっくんと芽生くんの無邪気な笑顔につられて、僕も笑う。

 遠い昔、家族でこんな風にキャンプにきたね。

 お父さんがテントを張ってくれて、お母さんがピザを焼いてくれた。

 色鮮やかな記憶が、溢れてくるよ。

「おーい! いいもん手に入れたぞ~」

 外から宗吾さんの明るい声がしたので、みんな期待に満ちた顔で一斉に顔をあげた。

「宗吾さん? それは何ですか」

 手に持っているのは3枚のチケット。

「ちびっ子広場で、親子ピザ作り体験が出来るフリーチケットだぞ~」
「それは面白そうですね」
「ぴしゃ? いっくん、ぴしゃだーいすき」
「ボクもピザだいすきだよぅ!」

 いっくんと芽生くんが、ぴょんぴょん飛び跳ねる。

「親子限定だから、行ってこいよ。瑞樹」
「え……僕が行っていいんですか」

 宗吾さんではなくて……僕でいいんですか。

「あぁ、もちろんだ。俺はテントの飾り付けをしたいから」
「ありがとうございます。じゃあ……いっくんもパパと行く?」
「パパとぴしゃ、いくー!」
「俺、ピザなんて焼いたことないぜ」
「潤くんの焼いたピザ食べたいな」
「そっか、じゃあ菫さんのために頑張るよ」

 ハートが飛び交っているね。

 あと1枚は……やっぱり。

「親子といえば、翠さんと薙くんですよね」
「え! オレ? でもちびっ子って書いてあるぜ」
「薙……父さんもピザ作りしてみたいな。一緒に行こうよ」
「はぁぁぁ、父さんとオレ……なんだか不安セットだな」
「酷いな。大丈夫だよ、父さん、頑張るから。ねっ」

 うわぁ翠さんの押しって結構強かったりして。

 そんな訳で、僕と芽生くん、潤といっくん、翠さんと薙くんで、親子ピザ作り体験教室に突撃だ!

「美味しいピザお願いしますね~ あんこのトッピング用意しておきまーす」
「こもりん、それ……たぶん俺以外需要ないかも」
「はははっ 小森ー あとでマシュマロ焼くからそれにつけたらどうだ?」
「マシュマロとあんこ。未知との遭遇ですね」

 大勢で、キャンプって楽しい。

 みんなのびのびと……開放的になっている。

 さぁ僕もピザ作り頑張ろう!

 芽生くんとお料理教室だなんて、初めてで嬉しいよ。
   
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