幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
1,125 / 1,871
小学生編

HAPPY SUMMER CAMP!⑲

「お茶を買って来ました」
「管野くん、ありがとう! おっ、瑞樹も一緒だったのか。こっちに来いよ」

  宗吾さんが笑いながら手招きしてくれたので歩み寄ると、大きなお鍋がグツグツ煮立っていた。

「何を作っているんですか」
「カレーだよ。やっぱりキャンプにはカレーがないとな! BBQとピザ、そしてカレーが今日のメニューだ。ちゃんとキッズカレーもあるぞ」
「すごいご馳走ですね。あの、僕も手伝います」
「いや、ここは流と俺で充分だ」

 黒いエプロン姿の宗吾さんが張り切っているのが伝わってくる。こんな時は、素直に任せた方がいい。

「じゃあ、お任せします。出来上がりを楽しみにしていますね」

   僕はこんな風に、素直に甘えられるようになった。

 宗吾さんが時には甘えることも大切だと、僕に気付かせてくれたから。

「楽しみにしていてくれ。宗吾&流のスペシャルカレーだぞ。そうそう、ちなみにスパイス担当は丈さんだ」
「随分本格的なカレーですね。ルーを使わずスパイスで作るなんて」
「ほら、丈さんの真剣な眼差しを見てくれよ」
「わっ! 凄い」
 
 何故か白衣を着た丈さんが、神妙な手つきでスパイスを計測、調合していた。

「でも、あの姿は……」
「丈さんって、案外むっつりだよな」
「むっつり?」
「おっと、それはこっちの話。しかし、まさかキャンプに白衣まで持参するなんて、何か狙っているのか」
「いや……あの様子だと至って真面目にだと思いますよ」

 丈さんのすぐ横には、洋くんがご機嫌な様子でくっついていた。

「やっぱり医師の丈はカッコいいよな!」

 洋くんって、とっても可愛い面があるよね。浮き世離れした美しさを放つ洋くんと、少し風変わりな丈さんとのバランスは絶妙だ。あの二人が睦み合うのはさぞかし絵になるんだろうなぁ……って僕……何を考えて!

「瑞樹も、むっつりになったよな」
「えぇ?」
「今、鼻の下伸ばしてニヤニヤしてたぞ」
「ぼ、僕は宗吾さんじゃ、ありませーん!」
「クンクン……」

 くんくん?

「な、なんですか」

 今度は宗吾さんに突然匂いを嗅がれて、身構えてしまった。

「はぁ~ 風呂上がりのいい匂いだなぁ」
「コテージでお風呂に浸からせてもらえたので、さっぱりしました」
「ふぅん、それで全身着替えたのか」
「はい、菫さんに全部洗濯してもらいました」

 はっ! 口が滑った!

「え? まさか……君のパンツまで?」
「あぁぁぁ……えっと……はい。ほら、菫さんは潤のお嫁さんだから……えっと……えっと……僕にとっては妹みたいなものですから」
「うううう、やっぱり今日も『俺の瑞樹印』にすればよかった」
「えぇ! 『俺の』なんて書き足したんですか」
「気付いてなかったのか」
「も、もう!」

 むっつりなのは、お互いさまだ。カレーを煮込みながら、こんな話をするなんて。!
 
「あ、あの……僕は芽生くんといっくんを見てきますね」
「火の周りは危ないから頼む」
「はい」
「瑞樹、助かるよ! サンキュ!」

 宗吾さんはずるいな。

 最後はとびっきりの決め台詞なんて、ときめいてしまうじゃないか。
 
 でも、こんな風に任せてもらえるのは嬉しい。

「お兄ちゃん、おなかすいたよ」
「もうちょっと待ってね」
「いっくんのぽんぽん、ぺこぺこ」
「今ね、宗吾さんたちがカレーを作ってくれているんだ」
「カレー! だーいすき」
「子供用のもあるって」
「はやくたべたいよぅ」
「くすっ、もうちょっと我慢しようね。そうだ、少しお散歩でもしてみる?」
「うん!」

 子供達の気を紛らすために、テントサイドを散歩した。

「あ、おとなりさんも何かつくっているよ」
「え?」

 ログハウスに滞在中の女性たちが、夕食の準備を庭で始めたところだった。

「わぁ~ あんなにたくさん人がいたんだ。ママがいっぱいだから、きっと、大ごちそうだろうね」

 芽生くんが無邪気に想像する様子が可愛くって、つい足を止めてしまった。

 盗み見なんて失礼だが、世の中のお母さんがキャンプ場で何を作るのか知りたくなった。

「お兄ちゃん、何を作っているのかなぁ」
「ちょっと待ってね」

 僕は二人の子供の手を引いて、じりじりと女性達の炊事場に歩み寄る。見つからないように、そーっとね。

「静かにしているんだよ」
「わかった」
「いっくんも、いいこにしているよ」

 耳を済ますと「潜水艦カレーって、スパイスが利いていておいしいわよね~」「私も好き」と、楽しそうな声がした。

『潜水艦カレー』? ナニソレ……初めて耳にしたよ。

 随分と強そうな名前だな。

 きっと特別な調理方法で作られるカレーなのだろう。
 
 流石、お母様方だ。

「芽生くん、いっくん。どうやらお隣もカレーを作っているみたいだよ」
「じゃあ、あのグツグツしているおなべの中はカレーなんだね」
「そうみたい」
「くんくんくん、どっちがいい匂いかな~ お兄ちゃんどう思う?」

 僕達は茂みの中から、犬みたいにクンクンと鼻を鳴らせた。

「あれ? 変だね? 何も匂わないね」
「ボクたち、お鼻がわるくなったのかなぁ?」
「いっくんも、なーんも、しないよ」

 3人で首を傾げてしまった。

「そっかぁ、お兄ちゃん、パパのカレーって、すごいんだね。とってもいい匂いがするもんね」
「そうだねぇ、不思議なこともあるんだね。まぁでも楽しそうだからいいか」

 無臭のカレーなんて、あるのかな? 

 そうか! 『潜水艦カレー』と言うからには、気配を消すカレーなのかも!

 魔法のカレーみたいで、楽しいね。

 楽しい気分で戻ると、テントサイトが見事にライトアップされていた。

 宗吾さんと流さんが張ってくれたテントが連なり、ガーランドが吊り下げられ、小さな電球が華やかに点滅していた。

「わぁ……綺麗だ!」
 
 昔、お母さんが読んでくれた絵本に出てきた夢の国に迷い込んだようで、一瞬驚いてしまった。

 そこに力強い声がする。

 僕の宗吾さんが、呼んでくれる。

「おーい、瑞樹、芽生、いっくん。もう座れ。パーティーが始まるぞ!」

 ここは夢の国ではなく、現実の世界だ。

 大切な人が、仲良く楽しく集う場所だ。

 「はい! 今、行きます!」

 だから僕は躊躇わずに、足を踏み出せる。

 幸せな場所に飛び込むことは、もう怖くない。

 さっきからそれを……何度も何度も体感している。








あとがき


****

長々とクロスオーバーを続けてしまっていますが、楽しんでいただけているでしょうか。しっとりしたお話がお好みの方には申し訳ない展開ですが、夏休みらしく振り切って書いております。
ところで、無臭のカレーの正体は、なんだかお気づきになりましたか😁


感想 88

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。