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小学生編
HAPPY SUMMER CAMP!⑳
夕食はBBQだけかと思ったら、カレーも作るのか。
流兄さんと宗吾さんがまるでキッチンスタジオのようにノリノリで玉葱を刻んでいる様子を傍目で見て、私は小さな溜め息をついた。
昔から、こうなのだ。
積極的に出来上がった輪に入り込めるコミュニケ-ション能力が備わっていない。
一匹狼という言葉が、我ながらよく似合うと思う。
そして……洋も……私と似たり寄ったりだ。
類い希な美貌のせいで、同級生から爪弾きにされ不遇な目に遭った長い年月が、洋の性格を暗めに形成してしまったか。私と同様キャンプサイトの片隅でぼんやりと立っていた。
「丈さん、ちょっといいですか」
「何です?」
宗吾さんに呼ばれたのは意外だった。流兄さんと意気投合して、私のことなど目に入っていないと思っていたのに。
「実は今回のカレーは市販のルーじゃなくてスパイスを調合しようと思っているんですよ」
「はぁ?」
「だから、それを丈さんにお願いしても?
「何故、私に?」
「得意そうだから」
宗吾さんが私の手にジャラジャラとスパイスの瓶やら袋をのせた。
「これ全部ですか」
「レシピはこれです。母のレシピなんですが、この人数分作るには、ちょっと手間がかかるんでお願いしても? 俺、玉葱を飴色に炒めるので忙しいので」
「……」
カレーはたまに作るが、スパイスから作ったことはなかった。
(初めてのことにいきなり挑戦するのは、私には無理だ)
返そうとした時、それまでぼんやりと立っていた洋が目を輝かせて、近づいてきた。
「丈、丈も何か手伝うのか!」
「あ……まぁな」
「やっぱり! 俺の丈は器用だもんな! 俺は手を出すと激しく迷惑かけそうだから外れていたが、丈なら大丈夫だ。お前は手先が器用だもんな」
洋にこんな風に言われては、やらないわけにはいかない。
「あぁ、実はスパイスを調合してくれと」
「それなら丈の得意中の得意だな! 薬の調剤なら、研修でやったんじゃないか」
「ふっ、洋、私は数字にはかなり細かい男だ。任せておけ」
「格好いいな」
洋が艶やかに微笑めば、私のやる気も満タンだ。
「そうだ、ちょっと待ってろ」
つい癖で忍ばせてきた白衣と聴診器を鞄の中から取り出すと、洋が嬉しそうに羽織るのを手伝ってくれた。
「丈先生、どうぞ。あ……聴診器はまだいらないよな」
「ははっ、そうだな。まだな」
艶めいた思わせぶりな会話もいい。
「白衣を着た丈は格好いいな。あぁ、やっぱり医師の丈は素敵だ!」
手放して褒めてくれる恋人の存在が、今はとても心地良い。
洋が白衣好きなのは、付き合っていくうちによく分かった。
開業すれば……毎日、目の前で見せてやれる。
「洋はじっとしていろ」
「あぁ、俺が手を出すとスパイスが全滅するもんな!」
明るく笑う洋には、いつもの暗さはなかった。
****
「今から総勢13名でBBQ&カレーパーティーだ。さぁ沢山食べてくれ!」
大人は缶ビール、子ども達は乳酸菌飲料で乾杯した。
すぐに目の間に、山盛りのカレーがやってきた。
「さぁカレーだぞ。13種類のスパイスを丈先生が調合してくれたから、うまいぞ」
「本格的ですね」
目の前に出されたカレーは、スパイシーな香りで食欲をそそるものだった。
「お子様カレーはこっちな」
「わぁい! いただきまーす」
芽生くんはすぐにスプーンでパクッ。
でもいっくんはスプーンを持たなかった。
「……」
「どうしたの? いっくん、さっきから元気ないね」
「みぃーくん、あのねぇ……このカレーにはどうして『え』がないの?」
「えっ……?」
いっくんが、しょんぼりしているのは、どうしてだろう?
「さっきねぇ……みちゃったの。おとなりさんのカレーには、おふねのえがあったんだよ」
「えっと……」
「分かった! お兄ちゃん、ほら、アニメの、鬼狩りさんとか……アンパン…のことじゃない?」
芽生くんが何かを閃いたように、大きな身振りで教えてくれた。
「あぁ、アニメのキャラクターの絵のこと?」
「だって、ボクたち、あれ大好きだもん」
「うん! いっくんも、しゅき」
宗吾さんは、その話を聞いて苦笑した。
菫さんも一緒に苦笑していた。
子ども用にカレーを作り分けるのって大変だから、ついレトルトに頼ってしまうよね。子どもはアニメのキャラクターが大好きだし、親も楽できるし、Win-Winな関係だ。
「うーん、今日はそれは持ってきていないんだよ。いっくん、このカレーを食べてみて、全然辛くないよ」
「ううん……でもぉ」
「そうだ。今日は特別にパパに食べさせてもらおうか」
「パパぁ!」
いっくんの声が途端に元気になる。
「じゅーん、どこ?」
「兄さん、呼んだ?」
潤は、タオルを肩にかけて炭火焼きに奮闘していた。
「いっくんにカレーを食べさせてくれるかな?」
「ん? でもここ手が離せないんだけど……」
「あ、俺が変わるよ」
菅野がすっとサポートに入ってくれた。
背後にはこもりんつきで。
こもりんは白いお皿に追加のお団子を持っていた。
よほど気に入ったらしい。
菅野ありがとう。
「ありがとうございます。いっくん、どうした?」
「パパぁ……」
いっくんが、潤にぴたっとくっつく。
そうか、ずっと潤と離れていて寂しくなったんだね。
「パパがね、いなくなっちゃったかとおもって、どきどきしたの」
「……いっくん。いるよ。絶対にいるから」
いっくんの言葉は、僕にとって切なかった。
(いなくなってしまうかも……この幸せもまた消えてしまうかも……また僕の目の前から……)
何度も何度も……頭の中で思ったことだから。
「いっくん、大丈夫。いっくんの幸せも僕の幸せもちゃんとここにあるよ。消えたりしないんだ。だから安心して」
あの頃の僕に言ってあげたかった言葉を、今放つ。
あの日の切なさも、あの日の苦しみも、こんな風に誰かのためになる。
そう思えば、過ぎ去った過去も愛おしくなるよ。
「みーくん、ありがとう。いっくん、ほんとはね、ちょっとこわかったよぅ」
いっくんが泣きそうになると、潤がすっぽり抱きしめてくれた。
「いっくん、いっくんはパパの子だ。ずっとずっとパパの子だよ」
「パパぁ……しゅき」
優しさが辛さを消していく。
幸せのエッセンスをたっぷりかけて、食べてご覧。
そのカレーはきっと辛くないよ。
流兄さんと宗吾さんがまるでキッチンスタジオのようにノリノリで玉葱を刻んでいる様子を傍目で見て、私は小さな溜め息をついた。
昔から、こうなのだ。
積極的に出来上がった輪に入り込めるコミュニケ-ション能力が備わっていない。
一匹狼という言葉が、我ながらよく似合うと思う。
そして……洋も……私と似たり寄ったりだ。
類い希な美貌のせいで、同級生から爪弾きにされ不遇な目に遭った長い年月が、洋の性格を暗めに形成してしまったか。私と同様キャンプサイトの片隅でぼんやりと立っていた。
「丈さん、ちょっといいですか」
「何です?」
宗吾さんに呼ばれたのは意外だった。流兄さんと意気投合して、私のことなど目に入っていないと思っていたのに。
「実は今回のカレーは市販のルーじゃなくてスパイスを調合しようと思っているんですよ」
「はぁ?」
「だから、それを丈さんにお願いしても?
「何故、私に?」
「得意そうだから」
宗吾さんが私の手にジャラジャラとスパイスの瓶やら袋をのせた。
「これ全部ですか」
「レシピはこれです。母のレシピなんですが、この人数分作るには、ちょっと手間がかかるんでお願いしても? 俺、玉葱を飴色に炒めるので忙しいので」
「……」
カレーはたまに作るが、スパイスから作ったことはなかった。
(初めてのことにいきなり挑戦するのは、私には無理だ)
返そうとした時、それまでぼんやりと立っていた洋が目を輝かせて、近づいてきた。
「丈、丈も何か手伝うのか!」
「あ……まぁな」
「やっぱり! 俺の丈は器用だもんな! 俺は手を出すと激しく迷惑かけそうだから外れていたが、丈なら大丈夫だ。お前は手先が器用だもんな」
洋にこんな風に言われては、やらないわけにはいかない。
「あぁ、実はスパイスを調合してくれと」
「それなら丈の得意中の得意だな! 薬の調剤なら、研修でやったんじゃないか」
「ふっ、洋、私は数字にはかなり細かい男だ。任せておけ」
「格好いいな」
洋が艶やかに微笑めば、私のやる気も満タンだ。
「そうだ、ちょっと待ってろ」
つい癖で忍ばせてきた白衣と聴診器を鞄の中から取り出すと、洋が嬉しそうに羽織るのを手伝ってくれた。
「丈先生、どうぞ。あ……聴診器はまだいらないよな」
「ははっ、そうだな。まだな」
艶めいた思わせぶりな会話もいい。
「白衣を着た丈は格好いいな。あぁ、やっぱり医師の丈は素敵だ!」
手放して褒めてくれる恋人の存在が、今はとても心地良い。
洋が白衣好きなのは、付き合っていくうちによく分かった。
開業すれば……毎日、目の前で見せてやれる。
「洋はじっとしていろ」
「あぁ、俺が手を出すとスパイスが全滅するもんな!」
明るく笑う洋には、いつもの暗さはなかった。
****
「今から総勢13名でBBQ&カレーパーティーだ。さぁ沢山食べてくれ!」
大人は缶ビール、子ども達は乳酸菌飲料で乾杯した。
すぐに目の間に、山盛りのカレーがやってきた。
「さぁカレーだぞ。13種類のスパイスを丈先生が調合してくれたから、うまいぞ」
「本格的ですね」
目の前に出されたカレーは、スパイシーな香りで食欲をそそるものだった。
「お子様カレーはこっちな」
「わぁい! いただきまーす」
芽生くんはすぐにスプーンでパクッ。
でもいっくんはスプーンを持たなかった。
「……」
「どうしたの? いっくん、さっきから元気ないね」
「みぃーくん、あのねぇ……このカレーにはどうして『え』がないの?」
「えっ……?」
いっくんが、しょんぼりしているのは、どうしてだろう?
「さっきねぇ……みちゃったの。おとなりさんのカレーには、おふねのえがあったんだよ」
「えっと……」
「分かった! お兄ちゃん、ほら、アニメの、鬼狩りさんとか……アンパン…のことじゃない?」
芽生くんが何かを閃いたように、大きな身振りで教えてくれた。
「あぁ、アニメのキャラクターの絵のこと?」
「だって、ボクたち、あれ大好きだもん」
「うん! いっくんも、しゅき」
宗吾さんは、その話を聞いて苦笑した。
菫さんも一緒に苦笑していた。
子ども用にカレーを作り分けるのって大変だから、ついレトルトに頼ってしまうよね。子どもはアニメのキャラクターが大好きだし、親も楽できるし、Win-Winな関係だ。
「うーん、今日はそれは持ってきていないんだよ。いっくん、このカレーを食べてみて、全然辛くないよ」
「ううん……でもぉ」
「そうだ。今日は特別にパパに食べさせてもらおうか」
「パパぁ!」
いっくんの声が途端に元気になる。
「じゅーん、どこ?」
「兄さん、呼んだ?」
潤は、タオルを肩にかけて炭火焼きに奮闘していた。
「いっくんにカレーを食べさせてくれるかな?」
「ん? でもここ手が離せないんだけど……」
「あ、俺が変わるよ」
菅野がすっとサポートに入ってくれた。
背後にはこもりんつきで。
こもりんは白いお皿に追加のお団子を持っていた。
よほど気に入ったらしい。
菅野ありがとう。
「ありがとうございます。いっくん、どうした?」
「パパぁ……」
いっくんが、潤にぴたっとくっつく。
そうか、ずっと潤と離れていて寂しくなったんだね。
「パパがね、いなくなっちゃったかとおもって、どきどきしたの」
「……いっくん。いるよ。絶対にいるから」
いっくんの言葉は、僕にとって切なかった。
(いなくなってしまうかも……この幸せもまた消えてしまうかも……また僕の目の前から……)
何度も何度も……頭の中で思ったことだから。
「いっくん、大丈夫。いっくんの幸せも僕の幸せもちゃんとここにあるよ。消えたりしないんだ。だから安心して」
あの頃の僕に言ってあげたかった言葉を、今放つ。
あの日の切なさも、あの日の苦しみも、こんな風に誰かのためになる。
そう思えば、過ぎ去った過去も愛おしくなるよ。
「みーくん、ありがとう。いっくん、ほんとはね、ちょっとこわかったよぅ」
いっくんが泣きそうになると、潤がすっぽり抱きしめてくれた。
「いっくん、いっくんはパパの子だ。ずっとずっとパパの子だよ」
「パパぁ……しゅき」
優しさが辛さを消していく。
幸せのエッセンスをたっぷりかけて、食べてご覧。
そのカレーはきっと辛くないよ。
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