幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

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小学生編

HAPPY SUMMER CAMP!㉜

「瑞樹、戻ったぞ……っと、もう寝ちゃったのか」

 テントの中をひょいと覗くと、芽生といっくんが瑞樹の両脇で仲良く眠っていた。

 あれ? いつの間に芽生まで天使スタイルなんだ? 

 俺のTシャツをちゃっかり着て……

 あぁそうか、芽生もいっくんと同じが良かったんだな。

 俺は子供心を読み取るのが苦手だが、瑞樹は違う。細やかな気遣いが出来る男だから、芽生の些細な気持ちの変化をも読み取ってくれる。

「芽生も良かったな。瑞樹みたいに優しい人と出会えて……」

 小学生になったといっても、まだやっと8歳だ。たった8年しか生きていない小さな息子の頭を優しく撫でてやると、ふわりと微笑んでくれた。

 小さい時と同じ笑顔だな。

 無邪気でいてくれよ、まだまだ。

 そう、こんな天使のように。

 反対側のいっくんは瑞樹にくっついて眠っていた。心地良い寝息を立てているから、夜中に起きて菫さんを恋しがることはないだろう。

「よーし、俺も寝るか! 冷水シャワーで煩悩も退散させたことだし」

 ところが、よく考えたら寝場所がない。今日の瑞樹はど真ん中で仰向けに眠っているし、その両脇には瑞樹を支えるようにエンジェルズが寄り添っている。

 瑞樹を起こして詰めろというのは、流石に忍びない。ましてようやくぐっすり眠ったエンジェルズを起こすのも野暮だ。

「仕方ないなぁ……」

 瑞樹が軽く寝返りを打つと、少し大きめな浴衣がはだけて生足がちらちらと見えた。

 ヤバい! これ以上ここにいたら、今度は俺がおもらしをしそうだぜ。(紳士淑女の皆さん失礼!)

 どんどん冴えていく頭。

 隅っこで寝るなんて拷問だ。

 エンジェルズを跳び越えて野獣となりそうで……(瑞樹、こんな阿呆な彼氏でごめんな。だが瑞樹が可愛すぎるのが悪いんだぞ。と勝手な言いがかりをする自分に苦笑した)

 外で頭を冷やそう。

 ふらりとBBQをしていたウッドデッキに足を運ぶと、ゆらりと人影が揺れた。

 誰だっ?

 厳しい目を向けると、同じような視線が突き刺さった。

 ってお前、誰だ?
 

****

「ふぅ……宗吾さんとすれ違うなんて、ドキドキしちゃったよ」

 翠はテントに入るなり、ふぅと深く息を吐いた。

 その仕草が妙な色気を放ち、さっきすっきりしたはずの煩悩が蘇ってくる。

「お、おい、早く眠った方がいい」
「そうだね。ふわぁ……もう眠いね……流は?」

 ふたりでテントを見下ろすと、さっきまで隅っこで眠っていたはずの薙が大の字で真ん中で眠っている。気持ち良さそうに、スヤスヤと。

「薙ってば、寝顔は赤ちゃんの時と変わらないな」
「そうだな」

 翠と二人で薙のあどけなさの残る寝顔を見つめると、幸せな気分になった。
ずっとずっと昔……こんな風に赤ん坊の薙を囲んで、翠と幸せな束の間の時間を過ごしたことがあったから。

「薙はもうすっかり俺たちの子だな」
「流、ありがとう……心強いんだ。その言葉が僕にはとても――」
「さぁ薙の横で眠ってやれよ。明日の朝、添い寝してもらったと知ったら、驚くかな、照れるかな?」
「でも……流は?」

 翠が月明かりの中で、ぼんやりと俺を見上げる。

 月光を浴びた顔は艶めかしく、その唇を奪ってしまいたい衝動に駆られる。

 このままだと、宗吾のように秒で戻ってくる煩悩になりかねない。

「俺は少し夜風に当たってくるよ」
「……流……」

 翠は父親と俺の恋人の顔のどちらを取ればいいのか迷っているようで、狭間で揺らいでいた。あやうい顔をして……

「大丈夫、すぐ傍にいる」
「流……」
「ほら、横になれよ」

 翠を横に寝かしつけ、柔らかな髪を指で梳いてやる。

「お休み、翠」
「分かった……おやすみ、流」

 薙が真横にいる狭いテントで、翠にこれ以上触れるのは危険だ。歯止めというものが翠に関してはなくなってしまうのは、何故だろう。

 過去に永遠の別れがあったせいか、一度触れると際限なくなってしまうのだ。この身体の性欲は、押し留まること知らない。

「いい夢を見ろ」

 ぐっと我慢して、俺はテントを抜け出した。

 日中は冷水を浴びたくなるほどの暑さだったのに、今はぐっと冷え込んで、夜風が心地良い。
 
 BBQをしたウッドデッキを踏みしめようとすると、先にミシッと音が響いた。

 怪しい者か‼

 厳しい視線を向けると、そこに立っていたのは宗吾だった。

「なんだ、宗吾じゃないか」
「なんだ、流じゃないか」

 お互いに、言わずもがなだ。
 事情を察し、苦笑した。

「お互い辛いな」
「まぁ座るか」
「あぁ」

 豆電球の明かりを灯したシークレットガーデン。

 湯を沸かし、ハーブティーをいれてやった。

「ハーブティーなんて、珍しいな」
「レモングラスのハーブティーだ」
「へぇ」
「何の効果があるか知っているか」
「さぁ?」
「性欲減退さ」
「え! それはまずい。一生か」
「まさか、一晩だ」
「ははっ、なら飲もう」

 男二人、ハーブティーで乾杯した。

「大切にしてやりたいんだな、瑞樹くんを」
「あぁ……幸せな夢を見ているようだった。そういう流だって同じだろう?」
「あぁ、息子と久しぶりに眠れる父親の立場を優先させてやりたいんだ」
「その気持ち分かる」

 愛は奪うものではない、分かち合うものだ。

 もらってばかりではなく、時には見守り、時には寄り添い、独りよがりになってはいけない。

「ハーブティーの効果か、少し眠くなってきた」
「どうせならここで眠るか」
「だが、さっきから蚊がぶんぶんしているぞ」
「なぁに、特大の蚊取り線香を焚けばいいさ。ハンモックを出してやる。ついでに五右衛門風呂でも湧かすか」
「いいな!」

 体力の有り余っている(性欲とは言うなよ)男同士、何をするかと思ったら、即席グランピングごっこだ。男臭い雰囲気満載だが、宗吾とはこんなことをするのが楽しい。

「俺と宗吾は似ているな」
「ははっ、流ほどじゃないぞ」
「そうだな。俺は一度煩悩を発散しているのに」
「へ? それって、どういう意味だ?」
「ふふん」
「なんだよ、それ!」
「ははっ、宗吾、恋人自慢でもしながら眠るか」
「終わらなくて、眠れなくなるぞ」
「それもそうか」

 潤と菫さん
 丈と洋くん
 管野くんと小森

 それぞれの夜はどうだ?

 俺も満更でもないぞ。

 宗吾と惚気まくるつもりだ!

 切ない夜は、もう消えた。

 仲間がいる喜びを知る夜になったから。
 
 
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