幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
1,384 / 1,865
小学生編

新緑の輝き 19

しおりを挟む
「宗吾さん……宗吾さん」
「瑞樹っ」

 僕たちは靴も脱がずに、玄関で貪るように互いの唇を吸いあった。

 宗吾さんは1日中ずっと一緒にいても足りないほど、僕が好きになった人だ。
 
 だからキスだけでは収まるはずもなく、キスの刺激によって、お互いすっかり欲情してしまった。

「瑞樹、なぁ、このまま続きもしていいのか」
 
 宗吾さんに欲情に染まる顔を覗き込まれて、僕は目元を染めてコクンと頷いた。

「よし、とにかく、ここじゃなんだから部屋に行こう」
「はい」

 灯りをつけると、リビングはがらんとしていた。

 芽生くんのいない部屋は、あの入院していた日々を思い出してしまう。

 そんな僕の些細な心の怯えは、宗吾さんにはお見通しだ。

「瑞樹、大丈夫だ。芽生は今頃実家で楽しんでいるよ」
「そうですね。明日の朝、早めに会いに行きましょう」
「あぁ、そうしよう。今日は無理はさせないよ、明日があるから」
「はい」

 そのまま宗吾さんに背後からすっぽりと抱きしめられた。

「今日、会議室に颯爽と登場した君に、俺はまた恋をした」
「あ……僕もです。テキパキと仕事をこなす宗吾さんがカッコ良く、クラクラしました。宗吾さんって……職場でもてますよね?」
「君こそ、皆の心を釘付けにしていたよ」
「ぼ、僕は宗吾さんだけです」
「ありがとう。俺も瑞樹だけだ。その言葉を聞けてホッとしたよ、嬉しいよ」

 手が伸びてきて、ネクタイを優しく解かれた。

 はらりとネクタイが床に落ちると、僕の心を律していた理性が飛んでいく。

 スーツを脱がされるというシチュエーションは滅多にないので、心臓がいつもの倍、跳ねていた。

「あ……あの……」
「じっとして」

 照れ臭くなって身を捩ると、宗吾さんの逞しい手で腰をしっかり掴まれ、身動きが取れなくなった。

「……悪いことしているみたいだ」
「僕も……悪い事をされているようです」
「ははっ、もっとしても?」
「して……下さい」

 ワイシャツのボタンをひとつ、ふたつ外されて、そのまま胸もとに手を差し込まれる。

「んっ……」

 すぐに平らな男の胸を、大きな手の平で揉みこまれる。薄い肉しか纏っていないのに、胸の先がじんじんして、どんどん尖っていく。

 宗吾さんの手の平に挟まれ擦れる度に、下半身がブルッと震えてしまう。

「あ……あっ……」

 そのままソファの前のラグに寝かされた。

 宗吾さんが僕を見下ろし、甘く囁いてくる。

「ここでもシテもいいか」
「はい……」

 今宵は普段と違う場所で抱かれる。

 そう思うと、僕の鼓動はますます早くなっていく。

 ワイシャツの袖を抜かれ、肌着をたくし上げられる。

 その後は宗吾さんからのキスの嵐――


****

 瑞樹と普通のリーマン同士、会社の同僚として、夕飯を食った。

 サラリーマンがごった返す新橋の赤提灯もいいが、ホテルのアーケードの小綺麗な焼き鳥屋に連れて行った。

 清楚で可憐な瑞樹にはこっちの方が似合うよ。

 以前ランチで入った事があり、いつか瑞樹を連れてきたいと思っていた場所だ。

 瑞樹は美味しそうにふっくらした焼き鳥を頬張り、俺につられてワイシャツの袖を腕まくりしてジョッキビールを飲んだ。

 ほろ酔い気分の君と、お互いの仕事について語り合った。

「宗吾さんとこんな話が出来るなんて、新鮮ですね」
「瑞樹と俺の仕事は畑違いだが、この先も融合できるチャンスがありそうだぞ」
「本当ですか。今回だけでなく他でも出来たら最高ですね」
「白薔薇のフェスティバルが終わったら、レジャー施設から新しいアトラクションの仕事が来ているんだ。頑張るよ、君にまた近づけるように」
「僕もです……僕も……あぁ、そういえば」

 瑞樹は一度スマホを取りだし、メールを確認し、がっかりしたように溜め息をついた。

「まだか……」
「ん? 何か返事を待っているのか」
「……なんでもないです。いえ、そうじゃない。実は結果待ちのコンテストがあって、それでソワソワしているのです」
「へぇ珍しいな。良い結果が出るといいな。応援しているよ」
「ありがとうございます」

 仕事に情熱を注ぐ君の横顔は、凜として綺麗だ。

 そのまま2時間ほど飲んで、駅で別れる真似をした。

「じゃあ、また来週現地で! 引き続き宜しくお願いします」
「はい! ベストを尽くします!」

 そのまま俺たちは一度背を向け、同じタイミングで振り返った。

 その後は恋人として向き合った。

 そして今は……

「あっ……んっ……あっ、あっ」
「どうだ? いいか」
「気持ち……いいです」

 リビングのラグの上で足を大きく開き、俺に合わせて揺れる君。

 俺にギュッと抱きつく君に、愛おしさがぐんぐん込み上げてくる。

 そっと細腰に手を回し、俺の方へと抱き寄せてやる。

「ここでシテごめんな。腰が痛いだろう」
「大丈夫です、宗吾さんが支えてくれているので」

 ふっと俺に向かって優しく微笑む表情が、愛おしくて綺麗で泣けてくる。

 人を好きになるって、こういうことなんだな。

 ただ愛おしくて、すべてが愛おしくて、ずっと一緒にいたくなる。

「やっぱりベッドに行こう。君を傷つけたくない」

 寝室に移動し、ありのままの姿で最後まで求めあった。

「離れないで……下さい」
「あぁ、俺たちはずっとずっと一緒だ。おとぎ話のようにいつまでもいつまでも幸せに暮らそう」
「よかったです」

 一度の逢瀬に、全てをかけた夜だった。

 一番深いところで精を放ち、俺たちは充足した気分で眠りに落ちた。


 翌朝の瑞樹はすこぶる上機嫌で、俺よりも早く起きて、パジャマ姿のまま芽生の時間割を揃えていた。

「もう起きたのか」
「芽生くんに早く会いたくて」
「あぁ、そうだな」

 俺の息子を愛してくれる君も好きなので、俺は朝から破顔した。

「じゃあ、すぐに会いに行こう」
「はい! 待ち遠しくなってしまいました」

 瑞樹特有のはにかむような笑顔に、おはようのキスを重ね、朝日を浴びた。

「幸せには幸せを重ねていけばいいんだな」
「そうですね。以前は……幸せは不幸の前触れだと思っていたのですが違いました。僕は今日も朝から幸せです。身体が満ち足りた感じで」
「おっ! それって、昨日かなり良かったってこと?」
「え! ええっと……」

 ポンっとお決まりのように赤く染まる瑞樹を掻き抱いた。

「あー かわいい」
「そ、宗吾さん……僕はその、あぁ……もう……その通りです」

 パジャマから見える白い胸元には、赤い花弁が散っていた。

 スーツを着れば絶対に見えない場所に、一つだけ落とさせてもらった。

 その後は手早くお互いの支度を整えて、芽生の着替えと荷物を持って家を出た。

 道すがら街路樹を見上げて、瑞樹が眩しそうに目を細めた。

「いい天気ですね。宗吾さん、今日もよい1日にしましょう!」
「あぁ」
 
 幸せに臆病だった君の前向きな願いは、絶対に叶えてやりたい。

 そう胸に誓う、新緑の眩しい朝の道。




 
しおりを挟む
感想 85

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

処理中です...