幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

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小学生編

秋色日和 5

「お兄ちゃん、これ明日学校に着て行ってもいい?」
「もちろんだよ。嬉しいよ」
「えへへ、じゃあ、お部屋においてくるね。あと宿題もやらなくちゃ」
「偉いね、自分から出来るなんて」
「早く終わらせるね」
「頑張って!」
「うん! がんばるよー!」

 芽生くんがご機嫌で部屋に入って行くのを、宗吾さんと見守った。

 やはり背中にはオレンジ色に輝く羽がついているようだと、思わず目を擦ってしまう。

 すると宗吾さんが優しく僕の肩を抱き寄せてくれた。
 
 だから僕は宗吾さんの肩にそっと頭を預けた。

 こうしていると……

 ―― 僕たちは支え合って生きている ――

 そんな気持ちが満ちてくる。

「瑞樹、今日はありがとうな。芽生、あんなに喜んで……よっぽど嬉しかったんだな」
「良かったです」

 少しの間が空く。

 宗吾さんは僕と出会う前の過去に、迷い込んでしまったようだ。

「あのさ……君も知っていると思うが、君と出会うまでは芽生は毎日黒やグレーの服を着せられていたんだ。アイツは落ち着いた大人っぽいものが好きで、今考えたら子供には酷だったよな。あの頃の俺は子育てに無頓着で気付いてやれなくて悪いことをしたよ。離婚後、芽生の服に困ってファストファッション店に連れて行った時、びっくりしていたよ。『こんなに洋服に色ってあるの?』っと呟いたんだ。あれには……泣けたよ」

 当時の状況は分からないが、宗吾さんの後悔はかなり深そうだ。

「……そうだったのですね」

 黒やグレーが悪いわけではない。

 シャープで引き締まる色だ。

 ただ、それだけは子供にはキツかっただろう。
 
 僕にも、そういう思い出がある。

 僕の場合、自分で世界から色を排除してしまった。

 ……

「瑞樹はどうしていつも黒やグレーの服ばかりなんだ? 他にもっとカラフルなお古があっただろう?」
「……広樹兄さん……でも僕にはこれがぴったりだと思うんだ」
 
 お父さんとお母さんと夏樹とお別れをした日から、僕の世界は色を失ってしまった。

 あの日、お葬式で着せられた黒い服。

 僕にはこれが一番似合うと思うよ。

 僕だけ生き残って……ごめんなさい。

 みんなだって、もっともっと生きたかったのに、僕だけ……

 そう思うと、明るい色は申し訳なくて着られないよ。

「僕には、もう色なんていらないよ」

 お父さんが好きだったのは若草色
 お母さんが好きだったのは勿忘草色
 夏樹が好きだったのは、鮮やかなコバルトブルー!

 みんながいた頃は、世界はカラフルだった。

「瑞樹……勝手に世界を狭めるな」
「これがいいんだ」
「いい加減にしろ!」

 広樹兄さんが僕の手を引っ張った。

 行き先は花屋の店先。

 沢山の花が、明るい陽射しの下で風に揺れていた。

「世界には色が溢れているのに……この花の色を否定するのか、懸命に咲く美しい花の命を……見ないふりをするのか」
「あ……そんな」
「お願いだ、どうか色を感じてくれ。瑞樹も花のように懸命に生きて呼吸をしている。だから……生きてくれ、呼吸をしてくれ。俺を見てくれ。俺は瑞樹の兄さんだ!」
「広樹兄さん……ぐすっ、ごめんなさい。僕……」
「分かっているよ、瑞樹の気持ちも分かる。だが……やっぱり瑞樹には明るい色が似合うんだ。明るい色を着て欲しい」
「兄さん、兄さん……お兄ちゃん」
「そうだ、俺はお兄ちゃんだ。寂しくないだろ? お兄ちゃん欲しかっただろう?」
「うん、うん……」

****

 思い出したのは、とても優しい思い出だった。

 広樹兄さんには幾度となく助けられた。

 今度は優美ちゃんのお洋服も買ってあげたいな。それから彩芽ちゃんの服も……

「宗吾さん、今度は一緒に買いに行きましょう」
「あぁ、今まで芽生は一人っ子だからファストファッションでいいと思っていたが、これからはいっくんと槙くんに譲れるから、もう少し長持ちする物を買いたいな」
「はい! それにオレンジ色なら、彩芽ちゃんや優美ちゃんも着られますよね」
「だな。瑞樹とこういう話出来るの、新鮮で嬉しいよ」

 宗吾さんが明るく笑ってくれる。

「僕もです。周囲に支えてもらっているので、僕も支えてあげたくなりました。これを『おじ馬鹿』と言うのでしょうか」
「もう瑞樹も立派なオジサンなんだな~」

 宗吾さんがニヤニヤしている。

「宗吾さん、そのオジサンてはなくて、伯父とか叔父ですよ」
「ははは、瑞樹はメチャクチャ若く見えるから、まだ大学生みたいだ」
「それはないです。出逢った頃ならともかく、僕はもう30歳になりました」
「えー マジか! 信じられん!」

 会話が弾んでいく。

 そこに芽生くんが満面の笑みで飛び込んできた。

「宿題終わったよー ねぇねぇ、ボクのお部屋にあそびにきて」
「なんだろう?」
「なんだ? なんだ?」

 小さな手に導かれて部屋に入ると、芽生くんが「ジャ、ジャーン」と張り切った声を出して、クローゼットの扉を開けてくれた。
 
 そこには……

「えへへ、虹が出たよー」
「すごい!」

「ボクのクローゼットに虹がかかったんだよ! すごいでしょ!」

 芽生くんは嬉しそうに、飛び跳ねていた。

 赤、橙、黄、緑、青、藍、紫……

 いつの間に七色揃ったのか。

 カラフルで明るい色の服は、気持ちを上向きにしてくれるね。

「綺麗だね」
「綺麗だ」
「パパ、お兄ちゃんありがとう。ボク、どの色も好きだけど、とくにオレンジ色が好きなんだ」
「芽生、どうして好きな色になった?」

 宗吾さんが興味を持って尋ねると、芽生くんは嬉しそうに画用紙と絵の具セットを抱えてきた。

「あのね、さいきん、図工の時間で絵の具をつかって発見したんだ」
「なにを?」
「見ててね! すごいんだよ」

 赤と黄色の絵の具を、芽生くんが筆で器用に混ぜていく。

 すると、そこには綺麗なオレンジ色が現れた。

「パパの好きな赤と、お兄ちゃんの好きな黄色を混ぜると……ほら! ボクの大好きなオレンジがうまれるの」
「おぉ、よく気付いたな」
「うれしいよ。ボクが生まれるの」

 何気なく放たれた言葉に、僕は深く感動していた。

 宗吾さんと僕の色から、芽生くんの好きな色が生まれる。
 
 なんて、なんて素敵な色のルーツなのか。

 芽生くんは僕たちの子だ。

 そう言ってもらえたようで、やっぱりまた泣いてしまいそうだ。

 今日も小さな幸せに沢山巡り会えた。

 生きて来て良かった。
 
 世界は優しい色で溢れている。

 それに気づけて良かった。


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