幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
1,540 / 1,871
小学生編

秋色日和 32

 次は親子競技だ。

 去年はいっくんに泣かれてしまったから、今年は笑顔でやりきりたい。

 いっくんを園児席まで迎えに行くと、オレにぴょんと飛びついてきた。
 
「パパぁー つぎはね、パパといっくんんがいっちょにできるんだよ」
「おぉ、今年は何をするんだ?」
「えへへ、いっくんがぜーんぶおしえてあげるから、だいじょぶだよ」
「へぇ、頼もしいな」
「まかしぇてね」

 にこっと微笑んで小首を傾げるいっくんの様子が愛くるしく、その場にいる人が皆、ぽかぽかした気持ちになった。

 4歳児になると保護者と協力して競技に参加できるようになる。去年は子供を箱に入れて保護者が引っ張るだけだったので、成長を感じるよ。

 入場門までいっくんと手と繋いでいくと、先生がいた。

「みなさーん、次の競技『おっこちちゃいやいやボール』ですよ。みんなー お父さんやお母さんにルールを教えてあげてね」
「はぁい」

 いっくんもオレに待ってましたとばかりに張り切って教えてくれた。

「パパ、あのね、このボールをね、バスタオルのうえにのせてはこぶんだよ」
「おぉ、なるほど」
「それでね、こうやってもつの」

 親子で向かい合ってバスタオルの角を持つと、バスタオルの真ん中に先生がボールを置いてくれる。そのボールが落ちないように走って折り返して戻って、次の親子にバスタオルとボールを渡すというリレーだ。

 いっくんはしっかりルールを理解していたので、ここでもまた成長を感じた。

 体格は同年代の子供より頭一つ小さく小柄だが、人より理解力があって正確に情報を伝えられた。親馬鹿モード全開でデレデレだよ。

「いっくん、がんばろうな」
「あい!」

 オレたちは後ろの方だったので、皆の様子を眺めることが出来た。

 へぇ、なるほど。

 ゆっくり慎重に運ぶ親子や、急ぎすぎて落としそうになる親子など、いろんなタイプの親子がいるんだなぁ。

 おっと! あの親子は慌てすぎてボールを下に落としてしまったぞ。
 
 コロコロ転がってきたボールを拾って届けてあげると、丁重にお礼を言われた。

「いっくんのパパさん、ありがとうございます」
「あ、いえ」

 いっくんのパパか……

 みんな認識してくれているんだな。

「いっくん、今のは誰だ?」
「たなかくんだよ。たなかだいくんとママだよ」
「そうか」

 オレも皆の名前を覚えたいな。

「よし、いっくんの番だぞ」
「あい!」
 
 オレといっくんは息を合わせて走り出した。

 ボールを落とさないように、ゆっくり過ぎず早すぎず、ちょうどいい速さで走り抜けた。

 いっくんがオレに寄り添い、オレもいっくんに寄り添った。

 どっちかが早かったり遅かったりしたら、バランスを崩してしまう。

 いっくんは相手のことをしっかり見ることの出来る子だ。

「よし、いっくん、もうゴールだぞ」
「わぁい、ボールしゃん、おっこちなかったね」
「あぁ、いっくんとパパの息がぴったりだったからな」

 いっくんの1年の成長を肌で感じられたよ。いっくんの運動能力、昨年よりも高くなっていた。精神的な成長も感じられた。

「あの、さっきはボールを拾って下さってありがとうございます」
「田中さんですよね。オレは樹の父です。宜しくお願いします」
「あ、名前知っていたんですね」
「樹に教えてもらいました」
「いっくん、可愛い子ですよね。どうぞ宜しくお願いします」
「こちらこそ、楽しい競技でしたね」

 なるほど「保護者競技」って、他の親子と触れ合う機会でもあるんだな。

 親子競技をきっかけに、少し交流の幅が広がりそうで嬉しくなった。

 オレたち、人ともっと積極的に絡んでみよう。

 昔はそんなの面倒で自分と意見が違うだけで面白くもないと拒絶していたが、今は違う。

 いろんな人がいるから、いいんだ。

 それが世の中だと思えるようになった。

 絡む人が多ければ、嫌な思いをすることも増えるかもしれないが、怯まず縁を結びたい。

 人はやっぱり人と交流することで学習し、楽しめる生き物なんじゃないか。

 いっくんとすみれと出逢ってから、人の縁が広がった。
 
 いつもの毎日に、ぐっと奥行きが出た。

 だから思うこと!


****

 レジャーシートで和気藹々と昼食を取っていると、水筒を飲みながら近づいてきた上級生の児童が、俺たちの周りでふざけだした。

 駆け回ったり、肘で腹のあたりを小突いたりと、ゲラゲラとふざけてじゃれ合っている。
 
 その合間に水筒のお茶を飲むので、水飛沫が飛んできた。

 おいおい……仲良しなのはいいが、こっちは食事中だ。近くで騒がれるのはちょっとなぁと思った瞬間、その児童が躓いてバランスを崩してしまった。

「あっ!」

 児童の飲みかけの筒がストンと、あーちゃん目がけて落ちていく。

「危ない!」

 オレは咄嗟に、あーちゃんを庇うように抱き抱えた。

 水筒はオレの肩にあたり、中身ドバッと零れてしまった。肩への衝撃はたいしたことなかったが、背中がびっしょり濡れてしまった。

 児童は真っ青になって平謝り。

「君たち、食事中の人の前でふざけるのはよした方がいい」
「すっ、すみません」
「今度から気をつけろよ」
「はい」

 今日は運動会なんだ。楽しく過ごして欲しい。

 だからここでやめた。

 そんなやりとりをして振り向くと、母さんも兄さんも美智さんも、瑞樹も芽生も、みんな、俺の動向を見守っていたようだ。

 瑞樹がすぐにタオルで背中を拭いてくれる。

「宗吾さん、大丈夫ですか。大変でしたね。中見は麦茶だったようで……背中が茶色になってしまいました」

 あーあ、真っ白なリネンシャツなんて着てくるんじゃなかったな。

「宗吾、彩芽を庇ってくれてありがとう」
「宗吾さん、守ってくれてありがとう」

 え、いやいや。

 当たり前のことを当たり前のようにしただけなのに、こんなに感謝されていいのか。

「宗吾は咄嗟に動ける男なのよね。かっこ良かったわよ」

 母さんまでべた褒め?

 最後は芽生で、目をキラキラさせている。

「パパ、かっこいい! ボクもパパみたいに、さっとうごける人になりたい」

 俺が取った行動を、みんなが手放しで褒めてくれるのがうれしいやら、照れ臭いやらだ。

「宗吾、ちょっといいか」
「何?」
「すぐに上着を脱げ、これに着替えろ」
「え? どういう意味?」
「だから、私のジャージを着るといい」

 兄さんが、いきなりジャージとTシャツを脱いで俺に渡した。

「いや、だが……兄さんが上半身裸ってわけにはいかないだろう」
「ふっ、私を誰だと思っている」

 兄さんはするすると鞄からワイシャツを取り出し、キュッとネクタイまでしめた。

「えええっと、ジャージにワイシャツとネクタイ?」
「どうだ? ジャケットもあるぞ」
「なんで運動会にスーツを?」
「私の正装だ」

 ははっ、流石俺の兄さんだ。

 しかジャージのズボンにワイシャツは痛々しい。

「兄さん、とりあえず一緒に着替えに行こうぜ。そっちも貸してくれよ」
「……下も必要か」
「あぁ、どうせなら全身緑色になりたい」
「そうか、やっぱり宗吾もミドリレンジャーに、ひそかに憧れていたんだな」
「ははっ、それって大昔のヒーローか。兄さん、好きだったのか」
「まぁな」

 兄弟一緒に成長してきたから分かりあえること。

 話せること、まだまだありそうだな。

 兄さんを知ろう。

 もっともっと知りたい。

感想 88

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。