幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
1,672 / 1,871
小学生編

冬から春へ 64

 雪か――
 
 朝から冷え込んでいると思ったら、雪になったのか。

 軽井沢も、雪化粧した町になっていく。

 昔は、雪なんて大っ嫌いだった。

 白くて綺麗なものなど、オレには無縁だと決めつけていた。

 だが、今は好きになった。

 兄さんの純真さも、いっくんの清らかな笑顔も――

 白い雲や白い雪、白い花に白い羽。

 全部好きだ!

 白は大好きな人の色。

 心が洗われる色となった。

「あら、雪になったのね」

 母さんがオレの横に立って、窓の外に手を伸ばすと、雪はまるで空から贈り物のように、手の平に舞い降りてきた。

 花屋の水仕事で1年中あかぎれだらけだった母の手は、いつの間にかしっとりと滑らかになっていた。

 慈しみという言葉が似合う手だった。

「……綺麗だな」
「そう言えば、あなたの妊娠が分かった日、雪が降っていたのよ」
「へぇ、よく覚えているな」
「当たり前よ。大切な子供を授かった日だもの。それで雪にちなんで純白の『純』という名前にしようと思ったけれども、お父さんが漢字は『潤う』の方がいいと言い張ったの。ふふっ、花屋の息子だから潤いが大事だと豪語していたわ。懐かしいわねぇ」
「それ、初耳だ」
「そうだった? あなたとこんな風にゆっくり過ごしているからか、昔の記憶がどんどん蘇ってくるわ」

 亡くなった父さんの話ばかりして大丈夫なのかと心配になり、ちらっと父さんを見ると、上機嫌で鼻歌を歌いながら窓枠に白いペンキを塗っていた。

 オレたちの会話が聞こえているだろうに……

 父さんは、母さんの過去をすべて引き受けてくれた。
 
 そしてオレと広樹兄さんのことも、丸ごと受け入れてくれた。

 すごい人なんだ。

「父さん、ありがとう」
「ん? 急にどうした?」
「いや、なんでもない」

 急に照れ臭くなってそっぽを向くと、父さんに肩をガシッと組まれた。

「潤、サンキュ! 照れてんのか。末っ子は可愛いな」
「オッ、オレはそういうキャラじゃ」
「ははっ、いいじゃないか。親にとって子供はいつまでも可愛い大切な存在なのさ」
「……あ、ありがとう」
「よしよし、お前は可愛いな」

 父さんとは、きっとこの先もずっと、今日のような関係でいられる。

 そう素直に思えるのは、オレが素直になれたから。




 
 オレの2週間の冬期休暇は、新居のリフォームにほぼ費やした。

 昔に戻ったように、大工の仕事に没頭した。

 1日中身体を動かすのは、少しも苦にならなかった。

 明るい未来を目指せて動くのは、嬉しいことだ。

 火事で何もかも失ってしまったが、ここ数日で発行の手続きをした書類も届き、少しずつ生活も元通りになっている。

 2週間の休暇を終えると仕事に行かなくてはならなかったが、リーダーの計らいで時短勤務出来たので、家のリフォームを最後まで一気に仕上げることが出来た。父さんと母さんが大沼に帰ってしまう前に、なんとしてでも家族を迎え入れたかった。

「潤、これが最後の作業だ」
「はい」
「仕上げはここだ」

 父さんが曇っていたガラス窓を雑巾でピカピカに磨き上げると、明るい日差しが降り注いできた。

「潤、この家のリビングは日当たりが良いな」
「はい!」
「よし、これで、迎えに行けそうだな」
「はい、明日、行ってきます」
「みんな、待ち遠しく思っているだろう。そろそろ潤に会いたくてたまらないはずだ。ほら、これを使うといい」
「え?」

 渡されたのは新幹線の往復切符だった。
 
 急に家を購入することになりローンを組んだ。手数料や手付金など貯金を使い果たしてしまった。足りない分は父さんと母さんが援助してくれた。残った僅かな資金で、火事で焼けてしまった日用品を買い直したので、貯金は底をついていた。

 だから……菫といっくんと槙を東京に迎えに行っても、帰りの電車賃をどう工面すべきか悩んでいた。

「潤は寝る間も惜しんで頑張ったから、小遣いだ」
「そんな」
「遠慮するな。俺がしてやりたいんだ」

 心の底から感謝した。
 ありがたかった。

 一人じゃないって、すごいことだ。
 困った時に手を差し伸べてくれる人の存在が有り難い。

「父さん、父さん……本当にありがとう。オレひとりじゃ心細かったです。本当に上手くいくのか分からなかくて」
「役立って嬉しいよ」


****

 日曜日の午後。

 僕は芽生くんといっくんを公園に連れて行く約束をしていた。

「お兄ちゃん、公園たのしみ」
「いっくんもたのちみー」

 いっくんが靴を履いていると、菫さんがやってきた。

「いっくん、待って」
「ママぁ、なぁに?」
「お外に行くならこの帽子を被っていくといいわ」
 
 それは黄緑のニット帽で、一番上には黄色いボンボンがついて、とても可愛かった。

「わぁ、あったかい」
「やっぱり良く似合うわ」
「ママぁ、じゃあ、いってきます」
「楽しんでね」

 まだ冬景色の公園だが、いっくんの帽子はまるでタンポポのような色合いで、見ているだけでポカポカしてくるよ。

「めーくん、どう? いっくん、めだつ?」
「うん、どこにいてもよく分かるよ」
「よかったぁ。あのね……かるいざわのパパからもみえるかなぁ……」
「きっと見えるよ」
「パパぁ、そろそろ……あいたいなぁ」

 しょんぼりと俯く姿に胸が切なくなる。

 きっときっと、もうすぐだよ。

 いっくんの大好きなパパがやってくるよ。

 そんな予感を北風の向こうに、僕は感じていた。

 いっくんの心を、そろそろ潤してあげて欲しい。

 潤――

 僕たちはここだよ。

 待っている。

感想 88

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています