6 / 73
第1章
秘められた過去 6
しおりを挟む
私の胸に顔を埋めていたヨウは決心したように顔をあげ、躊躇いがちに話し始めた。 ヨウの顔は青白く、その手は小刻みに震えていた。
「ジョウ……お前は俺が王の近衛隊に入る前、国境を警備する高赤軍にいたのを知っているよな?その悲しい結末も。その頃の話だ」
王は……まだ今の王の叔父の時代だ。
俺は若くして父を亡くしたこともあり、そのまま官僚の道へ進むことはやめて国境を警備する高赤軍に入った。高赤軍の隊長は父の親友でもあった人で、人徳者で大変信頼していた。そんな隊長が王から国境を護り続けた実績を表彰されると聞いて、俺はその日浮かれてた。
まさか王が隊長の実績や名声を妬み、殺すために招いたとは知らずにな。信じられないことに、俺の眼の前で隊長は虫けらみたいに王に殺された。
隊長は王相手に抵抗出来なかったから、本当にあっけなかったよ、その死に際は。そして死に行く隊長から次の隊長という重い任を、俺は受け取った。
****
王によって刺された隊長は、ヨウに次の隊長を務める約束をさせると息が途絶えた。そして、おびただしい血だまりを作り、その中へ倒れていった。
「隊長!隊長!あぁ……何故こんなことに!」
王は酔っ払いながら、隊長を一瞥しそのまま視線をヨウに移した。
「ほぉ……」
ヨウの眼は怒りと悲しみとで、涙に濡れ真っ赤になっていた。怒りに上気した若々しい表情は、緊張で引き締まっていた。王はそんな横顔に興味を持った。
(ほぉ……女子のように綺麗な顔をしているな。さっき死んだむさ苦しい髭面の隊長よりも、このうら若い青年を余の近衛隊の隊長にして傍に置く方がずっと良いではないか。可愛がってやりたいものだ)
舌舐めずりをして、執拗な蛇のような視線をヨウに向けた。
「とりあえず、今ここにいる高赤軍の奴らは全員投獄しておけ! そして隊長を受け継いだお前は、後で私の元へくるように」
そう言い放ち、再び酔ったおぼつかない足取りで王座へ戻って行った。ヨウは自分が抱いていた王のイメージとあまりにかけ離れている執拗な視線が、自分の身体を撫で回すように向けられているのに、本能的に寒気を感じていた。
夜も更けた頃、看守が牢獄からヨウだけを呼び出し浴場へ案内し、 近衛隊長としての新しい衣を渡し、王に会う前に身を清めるように命令した。良家でまっすぐ清純に育ち十六歳からひたすら鍛練にのみ没頭してきた ヨウには、まだ理解できなかった。これから起こるおぞましいことが何かを。そういう世界が王宮に存在するということも。
身体を洗い始めると、こびりついていた師匠としてこの数年間慕っていた隊長の血が流れ落ちた。足元に流れていく血を見つめながら、父の亡きあと実父のように可愛がってくれた隊長との惜別に、涙が自然と溢れてきた。
「ううっ……隊長……俺にはまだ荷が重すぎます。何故あのような目に……」
「隊長、俺は怖いです。これから俺は一体どうしたら良いのか」
ヨウの涙は堰を切ったよう溢れ、膝をつき嗚咽した。
(※一部歴史ドラマの設定からのイメージを含んでおります)
「ジョウ……お前は俺が王の近衛隊に入る前、国境を警備する高赤軍にいたのを知っているよな?その悲しい結末も。その頃の話だ」
王は……まだ今の王の叔父の時代だ。
俺は若くして父を亡くしたこともあり、そのまま官僚の道へ進むことはやめて国境を警備する高赤軍に入った。高赤軍の隊長は父の親友でもあった人で、人徳者で大変信頼していた。そんな隊長が王から国境を護り続けた実績を表彰されると聞いて、俺はその日浮かれてた。
まさか王が隊長の実績や名声を妬み、殺すために招いたとは知らずにな。信じられないことに、俺の眼の前で隊長は虫けらみたいに王に殺された。
隊長は王相手に抵抗出来なかったから、本当にあっけなかったよ、その死に際は。そして死に行く隊長から次の隊長という重い任を、俺は受け取った。
****
王によって刺された隊長は、ヨウに次の隊長を務める約束をさせると息が途絶えた。そして、おびただしい血だまりを作り、その中へ倒れていった。
「隊長!隊長!あぁ……何故こんなことに!」
王は酔っ払いながら、隊長を一瞥しそのまま視線をヨウに移した。
「ほぉ……」
ヨウの眼は怒りと悲しみとで、涙に濡れ真っ赤になっていた。怒りに上気した若々しい表情は、緊張で引き締まっていた。王はそんな横顔に興味を持った。
(ほぉ……女子のように綺麗な顔をしているな。さっき死んだむさ苦しい髭面の隊長よりも、このうら若い青年を余の近衛隊の隊長にして傍に置く方がずっと良いではないか。可愛がってやりたいものだ)
舌舐めずりをして、執拗な蛇のような視線をヨウに向けた。
「とりあえず、今ここにいる高赤軍の奴らは全員投獄しておけ! そして隊長を受け継いだお前は、後で私の元へくるように」
そう言い放ち、再び酔ったおぼつかない足取りで王座へ戻って行った。ヨウは自分が抱いていた王のイメージとあまりにかけ離れている執拗な視線が、自分の身体を撫で回すように向けられているのに、本能的に寒気を感じていた。
夜も更けた頃、看守が牢獄からヨウだけを呼び出し浴場へ案内し、 近衛隊長としての新しい衣を渡し、王に会う前に身を清めるように命令した。良家でまっすぐ清純に育ち十六歳からひたすら鍛練にのみ没頭してきた ヨウには、まだ理解できなかった。これから起こるおぞましいことが何かを。そういう世界が王宮に存在するということも。
身体を洗い始めると、こびりついていた師匠としてこの数年間慕っていた隊長の血が流れ落ちた。足元に流れていく血を見つめながら、父の亡きあと実父のように可愛がってくれた隊長との惜別に、涙が自然と溢れてきた。
「ううっ……隊長……俺にはまだ荷が重すぎます。何故あのような目に……」
「隊長、俺は怖いです。これから俺は一体どうしたら良いのか」
ヨウの涙は堰を切ったよう溢れ、膝をつき嗚咽した。
(※一部歴史ドラマの設定からのイメージを含んでおります)
11
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
あなたの隣で初めての恋を知る
彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
【完結済】王子を嵌めて国中に醜聞晒してやったので殺されると思ってたら溺愛された。
うらひと
BL
学園内で依頼をこなしていた魔術師のクリスは大物の公爵の娘からの依頼が入る……依頼内容は婚約者である王子からの婚約破棄!!
高い報酬に目が眩んで依頼を受けてしまうが……18Rには※がついています。
ムーン様にも投稿してます。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる