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第2章
赤い髪の女 8
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「あなたが赤い髪の女と呼ばれているお方か」
「……そう言う、あなたは私のこと知っているの?」
国境近くの町まで王宮を出てからほぼ寝ずに3日間かけて辿り着いた。その女は通された役場の椅子に腰かけ、窓の外を向いていた。声を掛けると、女ははっとした表情で振り返った。肩の下で軽やかに揺れる赤い巻き毛、透き通るような白い肌に意思の強そうな真っすぐな黒い瞳。
たいそうな美人の女性だ。しかも男が着るような衣装を着て、大事そうに見たこともない形の真っ青な革の鞄を抱えている。衣装も持っている鞄もその赤い髪もこの国のものではないことが一目ですぐに分かる。かといって隣国でもなく、私が旅したことのある異国では見たこともない姿だ。
「あなたは……一体どこからいらしたのか」
思わず口をついて出てしまう。
「どこからですって?それよりここは一体どこなの?」
「どこから来たのかは、分かるのだな?」
「もちろんよ。何度もこの人たちに言ったわ」
「どこなんだ?」
「日本よ!に・ほ・ん!」
「にほ……ん?そんな国あったか」
「あなたも知らないの?もう一体どうなってしまったの?私、何処に来ちゃったの」
言っていることがよく理解できない。そうだ、例の薬を見せてもらおう。それで手がかりが掴めるかもしれない。
「突然だが、例の役場の人間の熱を一瞬で下げたという薬を見せてくれないか。私は医師だ」
「あなたお医者さんだったの?良かった~ほらこれよこれ!」
女が鞄から取り出したものは、触れたこともない素材の透明な容器に入っている白く不思議な形の小さな粒だった。
「手に取っても?」
「どうぞ」
触れてみるとその透明な部分は冷たくなく柔らかい。硝子かと思ったがそうではない。なんだ一体これは?それに中に入っている薬。これも見たことがない物体で、楕円形の薄い膜が二つ合わさって中に粉の薬が入っているようにみえる。
「一体これは何という薬なんだ?」
「だからただの解熱剤のカプセルだってば!はーもうっ、何回同じことを聞かれるの?嫌になっちゃう」
「信じられない。こんな技術……こんな薬品を作れる国があるなんて」
見たこともない薬とそれを閉じ込める技術に、医師として感激すら覚えてしまった。私はこの得体が知れない女のいう事が最初は信じられなかったが、この未知の物体である薬を前ににわかに信じたいという気持ちが高まった。
「あなたはどうやってここにやって来た?」
「それが、誰も信じてくれないの」
悔しそうに女は唇を噛みしめる。
「私は信じたい。あなたの医術を待っている人がいるんだ。私に付いてきてもらえないか」
「ちょ、ちょっと待ってよ!私はあなたのこと何も知らないのに、そんなの無理よ」
「あっすまない、私はライ王国の王様付きの医官のジョウと申す。して貴女のお名前は?」
「私?私は須藤 由宇(すどう ゆう)よ」
「ユウさん、あなたのことを待っているのは、私が仕えている王様です」
「王様が何故?っていうか王様って?ライ王国なんてこの地球上にあった?」
話が噛み合わないが、嘘を言っているとも思えない。
「もう一度尋ねるが、あなたはどうしてこの地へ来たのか?どうやって?」
「それがね、学会の後のパーティーでちょっと飲んだのよ。だからほろ酔いで夜道を歩いていたの。気分が良かったわよ。でも急に雨が降ってきて雷雨が酷くなってきて、寺院の上に立っている大きな大仏像の足元で雨宿りしていたのよ。すごい雷雨だった。辺りがなにも見えなくなるくらい光って凄い音で。でもそれが綺麗だなって私うっとり見上げていた。時間も忘れてまるで雷に包まれているようでゾクゾクした。そのうち雨があがってね、空を見上げたら逆さ虹が出ていたのよ。」
「逆さ虹?それは……珍しいな。一生のうち一度見えるかどうかの吉兆と言われている」
※逆さ虹…頭上の天頂より太陽側に、太陽に凸に現れる虹色の弧が、 環天頂アークのこと。 環天頂弧、天頂環、天頂弧などの呼び方もあります。 また、下に凸の虹色の弧なので、逆さ虹、という異名もあります 。非常に珍しい気象現象。
「ええ、それで雨も止んだから家に帰ろうと思ったら、何がどうしたのか、日本じゃなくてこんな変なとこに来ちゃったのよ。早く家に帰りたいわ。王様の治療とやらをしたら帰る方法を一緒に考えてくれない?」
にわかに信じられない話ばかりだが、この女の持つ薬の神秘性を信じて、とにかくヨウのところへ連れて行ってみようと思った。
「ユウさんでしたっけ?王宮には一緒に考えてくれる友も待っているので、とにかく私と一緒に王宮へ来てもらえないだろうか」
「いいわよ。この辛気臭い役場よりは、医師のあなたの方が信じられそう!」
屈託のない明るい笑顔を向けられ、一瞬戸惑ってしまった。
「……そう言う、あなたは私のこと知っているの?」
国境近くの町まで王宮を出てからほぼ寝ずに3日間かけて辿り着いた。その女は通された役場の椅子に腰かけ、窓の外を向いていた。声を掛けると、女ははっとした表情で振り返った。肩の下で軽やかに揺れる赤い巻き毛、透き通るような白い肌に意思の強そうな真っすぐな黒い瞳。
たいそうな美人の女性だ。しかも男が着るような衣装を着て、大事そうに見たこともない形の真っ青な革の鞄を抱えている。衣装も持っている鞄もその赤い髪もこの国のものではないことが一目ですぐに分かる。かといって隣国でもなく、私が旅したことのある異国では見たこともない姿だ。
「あなたは……一体どこからいらしたのか」
思わず口をついて出てしまう。
「どこからですって?それよりここは一体どこなの?」
「どこから来たのかは、分かるのだな?」
「もちろんよ。何度もこの人たちに言ったわ」
「どこなんだ?」
「日本よ!に・ほ・ん!」
「にほ……ん?そんな国あったか」
「あなたも知らないの?もう一体どうなってしまったの?私、何処に来ちゃったの」
言っていることがよく理解できない。そうだ、例の薬を見せてもらおう。それで手がかりが掴めるかもしれない。
「突然だが、例の役場の人間の熱を一瞬で下げたという薬を見せてくれないか。私は医師だ」
「あなたお医者さんだったの?良かった~ほらこれよこれ!」
女が鞄から取り出したものは、触れたこともない素材の透明な容器に入っている白く不思議な形の小さな粒だった。
「手に取っても?」
「どうぞ」
触れてみるとその透明な部分は冷たくなく柔らかい。硝子かと思ったがそうではない。なんだ一体これは?それに中に入っている薬。これも見たことがない物体で、楕円形の薄い膜が二つ合わさって中に粉の薬が入っているようにみえる。
「一体これは何という薬なんだ?」
「だからただの解熱剤のカプセルだってば!はーもうっ、何回同じことを聞かれるの?嫌になっちゃう」
「信じられない。こんな技術……こんな薬品を作れる国があるなんて」
見たこともない薬とそれを閉じ込める技術に、医師として感激すら覚えてしまった。私はこの得体が知れない女のいう事が最初は信じられなかったが、この未知の物体である薬を前ににわかに信じたいという気持ちが高まった。
「あなたはどうやってここにやって来た?」
「それが、誰も信じてくれないの」
悔しそうに女は唇を噛みしめる。
「私は信じたい。あなたの医術を待っている人がいるんだ。私に付いてきてもらえないか」
「ちょ、ちょっと待ってよ!私はあなたのこと何も知らないのに、そんなの無理よ」
「あっすまない、私はライ王国の王様付きの医官のジョウと申す。して貴女のお名前は?」
「私?私は須藤 由宇(すどう ゆう)よ」
「ユウさん、あなたのことを待っているのは、私が仕えている王様です」
「王様が何故?っていうか王様って?ライ王国なんてこの地球上にあった?」
話が噛み合わないが、嘘を言っているとも思えない。
「もう一度尋ねるが、あなたはどうしてこの地へ来たのか?どうやって?」
「それがね、学会の後のパーティーでちょっと飲んだのよ。だからほろ酔いで夜道を歩いていたの。気分が良かったわよ。でも急に雨が降ってきて雷雨が酷くなってきて、寺院の上に立っている大きな大仏像の足元で雨宿りしていたのよ。すごい雷雨だった。辺りがなにも見えなくなるくらい光って凄い音で。でもそれが綺麗だなって私うっとり見上げていた。時間も忘れてまるで雷に包まれているようでゾクゾクした。そのうち雨があがってね、空を見上げたら逆さ虹が出ていたのよ。」
「逆さ虹?それは……珍しいな。一生のうち一度見えるかどうかの吉兆と言われている」
※逆さ虹…頭上の天頂より太陽側に、太陽に凸に現れる虹色の弧が、 環天頂アークのこと。 環天頂弧、天頂環、天頂弧などの呼び方もあります。 また、下に凸の虹色の弧なので、逆さ虹、という異名もあります 。非常に珍しい気象現象。
「ええ、それで雨も止んだから家に帰ろうと思ったら、何がどうしたのか、日本じゃなくてこんな変なとこに来ちゃったのよ。早く家に帰りたいわ。王様の治療とやらをしたら帰る方法を一緒に考えてくれない?」
にわかに信じられない話ばかりだが、この女の持つ薬の神秘性を信じて、とにかくヨウのところへ連れて行ってみようと思った。
「ユウさんでしたっけ?王宮には一緒に考えてくれる友も待っているので、とにかく私と一緒に王宮へ来てもらえないだろうか」
「いいわよ。この辛気臭い役場よりは、医師のあなたの方が信じられそう!」
屈託のない明るい笑顔を向けられ、一瞬戸惑ってしまった。
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