悲しい月(改訂版)

志生帆 海

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第2章

心は氷の如く 4

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「うっ」

 雷光が発せられない! 何故だ?  キチの長い爪でなぞられた俺の首元に違和感を感じる。

「何だ?冷たい……」

 キチが触れたところが氷のように冷え、どんどん躰が焼けるように冷たくなっていく。そこから発生する灼熱感やうずくような感覚、部分的・全体的なしびれ感、そして時に激しい痛み、これは凍傷の前触れだ。

 俺は抵抗しようと剣を持つ指先に力を込めるが、すでにしびれは腕にまで達し動かない。まずい……このままではやられてしまう。

 凍っていく躰をなんとか阻止しようと、指先に作っていた小さな稲妻を躰に巡らせようとするが、凍りつつある腕を雷光は通り抜けない。指先で稲光を発するのみだ。

「くそっ駄目だっ」
「んっ……ヨウ? もしやお前も※内功が使えるのか」

※内功……体内から生み出される気である内力(内勁ともいう)を使う技で、呼吸、血流など、身体の内部機能を鍛錬し、全身の経絡を巡る内息(真気、気)を自在に操るもの。これを体外に放出することで、攻撃や治療などに用いることができる。出典: フリー百科事典

「お前、こそっ!」

 吐き捨てるように言うしかなかった。
 甘かった。まさかキチも内功を使えるとは。それも恐ろしい程の力を持っている。

「キチ……お前は氷功か」

 人間の躰を凍らせてしまう恐ろしい内功があると、師匠が言っていた。まさか今それを自らがこんな場面で浴びるとは!

 悔しい!
 油断していた!

「そういう近衛隊長は雷功か。実に魅力的だ。美しい顔と躰に宿る稲妻が官能的だぞ」
「やめろっ」

 キチが舌なめずりしながら凍ってしまった俺の両腕をがしっと掴み、氷功できつく攻めてくる。

「うっ」

 じんじんと躰が痺れて、握られた部分が黒ずんでくる。

「あうっ」

 俺は目を閉じて、小さく唸った。喉元にも凍傷が迫ってきているのか声が上手く出せない。

「……お……れに……なに……をしたいんだ……」
「はははっ今からお前を女のように抱くぞ。雷功の力を持つお前と性的に交わって、わが能力をさらに高めたいのじゃ」
「や……めろ」
「内功は奪い合えるのだ。もしや知らなかったのか」

 まただ。また俺の身体を弄んで破滅させようとするものが現れた。どうしてだ? どうして逃れられぬ。この呪われた運命から!

 キチは立ち尽くす俺の両手を強く握り、氷攻であっというまに剣を握れないように麻痺させ、脚も氷攻で動かないようにした。

 俺は無力だ。無念にも、その場で膝から崩れ落ちるしかなかった。

 キチは不快な笑みを浮かべながら、俺の近衛隊長としての自尊心を鎧ごと剥ぎ取っていった。
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