ライオンのジロー

こぐまじゅんこ

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ライオンのジロー

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 サーカス団に、火の輪くぐりをするライオンのジローがいた。
 ジローは、ライオンなのに、心がやさしくて、ちょっぴりこわがりがった。
 火の輪くぐりをする前は、いつもこわくて心臓がバクバクした。
 団長さんが、
「ジロー、いい加減に慣れてくれないと、毎回毎回、おしっこちびられちゃぁかなわないよ」
と、大声で言うもんだから、サーカスの仲間にまで、ジローがちびってしまうことがばれてしまった。
「びびりのジロー。ちびりのジロー」
と、はやしたてられて、ジローは、大きな体が小さく小さくちぢんでいくみたいな気がした。
 今日も、ジローの出番の前には、空中ブランコがある。
 男の人と女の人が、空中でとびかっている。
 みとれてしまうほど、ほんとうにかっこいい。
 ジローは、
「今日こそ、ぼくもかっこよく決めてやるぜ!」
と、つい大声でほえてしまった。
 すると、観客の子どもたちの顔色がかわって、青ざめている。
「こわいよー」
と泣きだす子もいる。
「こらこら、子どもをこわがらせてどうするんだ!」
と、団長に怒られた。
 ジローは、くしゅんと落ち込んだ。
 いよいよジローの出番だ。
 目の前の輪には、炎がボーボー燃え盛っている。
 ジローは、炎のついた輪に向かって、全速力でかけだした。
 炎の輪をくぐって、かっこよくスタッと着地、となるはずだった。

 だけど、ジローは、顔から着地してしまった。
 目のまわりが赤くなり、くちびるがはれあがって、なんだかピエロみたい。
 観客の子どもたちも大笑い。
 ジローは、かっこよくきめることはできなかったけど、今日のサーカスを一番盛り上げたんだ。
 団長さんに、
「ジロー、でかしたぞ」
と言われて、ジローは、得意顔になったんだって。
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