だから放すなって言ったのに!

Vitch

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プロローグ(仮)

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 二年に進級して、梅雨の発表がテレビで流れた頃のある週末の放課後。花摘みから教室にもどると、クラスメートの真田 佳菜子さんが隣のクラスの真東(下の名前は忘れた)さんからナニカを渡されていた。

「佳菜子さん、今日から一週間、肌身離さずに持ち歩いて!」

 そんなことがあったと思い出したのは、週明けに遅刻ギリギリで登校すると、真田さんが欠席していたから……ではない。真東さんが真田さんの出欠を確認に来たからだ。

 昼休みに職員室へ向かう途中の空き教室で、真田さんのご両親と、真東さんが向かい合っていた。
「捜索はしてみますが、確約はできないこと、ご理解ください」
 真東さんのその言葉と、お願いしますと嗚咽の混じった真田さんのお母さんの声が聞こえた。

 それから二週間、真田さんだけでなく、真東さんも学校に来なくなった。

 沖縄の梅雨明けが発表された頃、真東さんは再び登校してきたが、真田さんは学校に来なかった。
 彼女に真田さんのことを聞いてみたが……
「ごめんなさい、話すことはできないの」

 それから数日後、真田さんは田舎に転校したと先生から知らされた。

 それからしばらくして、幼友達の三年の先輩が一年の頃に数日間休学していたことを思い出した。
 何か関係あるかもしれないと思い、聞いてみた。
「今度の土曜日、うちに来てくれる?」


 そして土曜日、先輩の家の私室で話を聞くことになった。
「私の経験からの話になるけど……」

 先輩は一年の時の秋に、真東さんのお母様から人形ひとがたの紙を渡されたそう、「肌身離さずに」との言葉と共に。
 先輩はうっかり入浴前の脱衣の時に人形ひとがたを置いてしまった。そのタイミングで魔法陣が輝き、気がつくと大勢の人たちに囲まれていたという。

 ここまで聞いて、私は「勇者召喚?」と呟いた。
「私は『聖女』召喚だったけどね」
 私も先輩も、ネット小説を読むし、書きもする。

 真東さん母が言うには、召喚対象は『聖女』だったり、『勇者』だったり、酷いときには『実験対象モルモット』であることも。
 だれでも召喚ゆうかいされるわけではなく、龍脈と呼ばれる大地の下の【気】(国によっては魔力ともオドとも呼ばれる)の流れから対象が特定されるとのこと。

 先輩は『聖女』として召喚ゆうかいされたけど、扱いはまるで奴隷だった。
 幸運にも数日で救出されたけれど、召喚ゆうかい元が特定できず、行方不明のままの方がほとんど。

 人形ひとがたを渡される時にこれらの説明をされる。しかし先輩のようにうっかり、あるいは信じずに持ち歩かず、召喚ゆうかいされるケースが後を絶たない。
 真田さんがどちらかはわからないが、召喚ゆうかいされたことは間違いなく、身体からだがあるいは精神こころが復学できない程に傷つけられたのだろう。

「私に話せるのはここまでよ。
 それと、騙すようでごめんなさい」

 カチャリと部屋の扉が開き、真東さんが入ってきた。

「この人形ひとがたを肌身離さずに」

 今度は私の番だったらしい。
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