盈虧綴-みちかけつづり-

駄文丸

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朔織綴

第1話

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もしも、もしも他人と関わらずに生きていけたなら。そんなことを考えたことはないだろうか?
何も与えず、何も与えられず、最低限の生存は約束されていたとしたら。
ソレを楽だと思うだろうか
ソレを苦だと思うだろうか

僕は楽だと思った。
だからそう生きている。
今日も此処で僕は生きている。




「君は他人に対して得々と懐疑的になっている様に見えるのだけれど、それは君にとって救いになる事なのかい?」

今日に至るまで呆れ果てるほど眺めた教室で僕は、唐突に宗教の様な、まるで意味の無い問を投げかけられ、困惑していた。

「さぁね、別に得々としようとしているわけでは無いし、懐疑的なるのは、知らない人間にとっては当たり前のことだと思うけれど」

当たり前の、当たり障りの無い返答、これで僕は普通の人間として見てもらえるはずだろうと思う。

「へぇ、君は随分と人間らしい台詞と言い回しを好むんだね、後、私は形式上、君の同級生に当たるのだけれど、実は1つダブって居てね、年齢的には君の1つ上に該当するんだ」

どうしてこの女性は人間らしさに疑問を抱くのだろう、それに、1つ上だったのか

「失礼しました、先輩、それと僕は人間なのですから、人間らしい問答をするのが義務というものですよ」

僕は、漫然と失礼の無いように、当たり障りの無い内容に、シフトしようとした、だが、それは実際、失敗に終わったし、僕は今でも失敗だと思っている。

「君は、異常だよね、そうでなくとも異常以上だ、異状だし、それに、君の居城を崩されるのを異常に嫌がっているよ、然すれば、今の私は、今の君のそれは、それは憎き・・・」

異常以上で異状で居城を異常に好む?
随分と人間らしくない言い回しだと思う、勿論、思うだけで口になんて出さないし、そもそも、僕は、この女性に興味は無いのだし、そのまま言葉を受け流してこの場を去ることに全力を注ぐべきだろう、僕はそう思うことにして視線を逸らした。

「敵なんだよね、敵、私は君の敵で、君は・・・
ああ、言ってなかったっけ?私は、正義のヒーローなんだよ」

「急用があったんでした、それでは、失礼します、先輩」

「ああ、待ってくれよ、最後に、君は私を敵意するかもしれないけれど、私は死ぬまで君の味方であり続けると今すぐ誓えるし、君が助けて欲しいなら、今すぐにでも二つ返事で助けるよ、人は助け合う生き物だからね」

「ええ、ありがとうございます。先輩、それでは」

「ああ、また会おう」

果たして彼女は僕に対して何を求め、何を得たのだろうか、僕はどこまでも人間なのだから得るものがあったわけではないけれど、それでも少しは感じたものがあった。
僕は彼女が苦手だ。

僕は彼女が、相当に、滅茶苦茶に、最高に、苦手だ。つまり苦になる手合いだ。




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