1 / 1
短編01
しおりを挟む
短編01
思えば、君の人生は苦労や不幸、理不尽なんて当たり前のように存在していたんだろう。
怪我をした子供を助ければ親に殴られ、腹をすかせた流民に恵んでやれば偽善だと罵られる。それでも貼り付けられたように笑顔は消えなかった。
君が背負った最高の理不尽、怒ることも悲しむことも出来ない、仮面の笑顔。
君が背負った最大の不幸、困った人を見捨てられない、磔られた偽善。
君が背負わされた最上の苦労、僕は君の事が好きだった。
私の事を望む人間なんて居るのかな、と君はよく言っていた。
僕がきっと居るさと、臆病な回答を返すと君は決まっていつもの笑顔で、ありがとう、なんて言ってくれた。
私は何かを変えることが出来たのかな、と君はよく言っていた。
僕がきっと出来たさと、見当違いな回答を返すと君は決まって嬉しそうな顔で、そうかな、なんて笑ってくれた。
私が死ぬ時は誰かが泣いてくれるのかな、と君はよく言っていた。
僕がそれに何も答えられずに居ると、君は決まって、そっか、なんて呟いて空を見ていた。
僕は君に聞こえないように、そっと、ばかやろーなんて、呟いた。
私、もう大丈夫なんだ、そう君がはにかむと僕は思わず君を抱きしめた。
良かった、もう大丈夫なんだ、良かった、良かった。
そう繰り返しながら、声を震わせながらも涙は出なかった。
喜んだ事も、楽しんだ事もない僕は、笑った事がなかった。
それでも、生きていても良いな、なんて甘い考えを持ってしまった。
僕が望んで叶ったことなんてただの1度もないのに。
僕が願って得たことなんてただの1度もないのに。
知っていた、僕のような人間が何かを望むなんて許されないことぐらい。
それは突然、君の口から告げられた。
「ねぇ、私と一緒に、死んでくれる?」
大丈夫なんて、嘘だった。
君は全然、大丈夫じゃなかった。
これでもか、という程に身体はボロボロだった。
余命数日、それが君の大丈夫の正体だった。
「それは、それは出来ない」
「――そっか」
笑顔を捨てられない君が、酷く複雑に顔を歪めて、ぐちゃぐちゃな笑顔で笑っていた。
僕は、泣かなかった。
「さよなら」
「おやすみ」
数日後、君の部屋で僕は、告げた。
「世界一騒がしいおやすみを、君に」
君は、告げた。
「世界一静かなおはようを、君に」
僕は、告げた。
「一緒に生きてくれって聞けば、僕は泣いて飛びついたのに」
君は、告げた。
「一緒に死んでくれるって言ってくれたら私は、泣いて死んだのに」
僕は、僕は告げなかった。
「君が、好きだよ」
君は、僕に告げた。
「うるさいなぁ、私もだよ」
僕は泣かなかった。
君は、笑っていた。
思えば、君の人生は苦労や不幸、理不尽なんて当たり前のように存在していたんだろう。
怪我をした子供を助ければ親に殴られ、腹をすかせた流民に恵んでやれば偽善だと罵られる。それでも貼り付けられたように笑顔は消えなかった。
君が背負った最高の理不尽、怒ることも悲しむことも出来ない、仮面の笑顔。
君が背負った最大の不幸、困った人を見捨てられない、磔られた偽善。
君が背負わされた最上の苦労、僕は君の事が好きだった。
私の事を望む人間なんて居るのかな、と君はよく言っていた。
僕がきっと居るさと、臆病な回答を返すと君は決まっていつもの笑顔で、ありがとう、なんて言ってくれた。
私は何かを変えることが出来たのかな、と君はよく言っていた。
僕がきっと出来たさと、見当違いな回答を返すと君は決まって嬉しそうな顔で、そうかな、なんて笑ってくれた。
私が死ぬ時は誰かが泣いてくれるのかな、と君はよく言っていた。
僕がそれに何も答えられずに居ると、君は決まって、そっか、なんて呟いて空を見ていた。
僕は君に聞こえないように、そっと、ばかやろーなんて、呟いた。
私、もう大丈夫なんだ、そう君がはにかむと僕は思わず君を抱きしめた。
良かった、もう大丈夫なんだ、良かった、良かった。
そう繰り返しながら、声を震わせながらも涙は出なかった。
喜んだ事も、楽しんだ事もない僕は、笑った事がなかった。
それでも、生きていても良いな、なんて甘い考えを持ってしまった。
僕が望んで叶ったことなんてただの1度もないのに。
僕が願って得たことなんてただの1度もないのに。
知っていた、僕のような人間が何かを望むなんて許されないことぐらい。
それは突然、君の口から告げられた。
「ねぇ、私と一緒に、死んでくれる?」
大丈夫なんて、嘘だった。
君は全然、大丈夫じゃなかった。
これでもか、という程に身体はボロボロだった。
余命数日、それが君の大丈夫の正体だった。
「それは、それは出来ない」
「――そっか」
笑顔を捨てられない君が、酷く複雑に顔を歪めて、ぐちゃぐちゃな笑顔で笑っていた。
僕は、泣かなかった。
「さよなら」
「おやすみ」
数日後、君の部屋で僕は、告げた。
「世界一騒がしいおやすみを、君に」
君は、告げた。
「世界一静かなおはようを、君に」
僕は、告げた。
「一緒に生きてくれって聞けば、僕は泣いて飛びついたのに」
君は、告げた。
「一緒に死んでくれるって言ってくれたら私は、泣いて死んだのに」
僕は、僕は告げなかった。
「君が、好きだよ」
君は、僕に告げた。
「うるさいなぁ、私もだよ」
僕は泣かなかった。
君は、笑っていた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる