キツネと龍と天神様

霧間愁

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鳴き声を探す天神曰く

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 とある女の話なのだわ。

 その女は男と暮らしていた。
 女の日課は決まっている。仕事する男の帰りを待ち、帰ってきた男を癒し添い寝をして、朝起きれば仕事へと送り出す。
 ただそれだけ。それでも大事にされている、と女は実感していた。
 欲しいと思ったものを買い与えられ、好物も食べさせてもらえる。たまに幼気な遊びにも付き合ってくれる。
 男からいつも物質的な愛情表現しかされていない不満はあれど、女は男を心底愛していた。

 仕事に送り出した後、女はいつも退屈だ。
 買って貰った玩具で遊ぶが、男がいないと寂しいとないてしまう。
 そんな時は、いつも男は女を愛してくれているのか、と不安になっていく。

 そうなると大体、ふて寝をする。

 夕暮れ近く、決まった時間に男は帰ってくる。
 女の聴覚が敏感さも相まって、男が玄関を開ける時にはそこで座って待っている。

 女の頭を撫でながら、男が言う。
「ただいま」

 女は答える。





「にゃぁ」
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