キツネと龍と天神様

霧間愁

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異国を思い出す龍曰く

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 魔女がいた。
 住宅街に住み、面倒なご近所付き合いをこなし、スーパーの特売があれば自転車をこいだ。
 それでも彼女は、魔女だった。
 黒猫に、梟に、蟇蛙。
 彼女の使役する使い魔たちは優秀で、魔女に街で起こったことを伝えた。
 満月の夜に箒に乗り、サバトに参加し、悪魔を揶揄う。

 近所の子供にお菓子を与え、ちょっとした魔法を教え、誰もが笑える悪戯をする。
 怖がられ、恐れられ、そして愛される魔女だった。

 ある時、困ったことが起こった。
 世界中で魔女狩りが始まって、彼女も捕まった。

 火炙りにされながら、彼女は思う。

 “いい機会だな”

 そうして魔女は諦めて死ぬことにした。
 いや、死ぬふりをすることにした。
 彼女は別の街で、使い魔と特売の為に自転車をこいでいる。
 魔女はいる。
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