キツネと龍と天神様

霧間愁

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恩着せがましい龍曰く

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 昔、一人の少女がいた。
 大層変わった娘で、少女も終わるという年頃でたった独りで、儂の許にたどり着いた。

「記憶を消していただきたい」
 何故?
「私にはおかしな力がある。記憶を消せるなら、その力ごと消せるのではないかと思った」
 ふむ、どんな力だ?
「人を不幸にする力だ」
 呼び寄せる類か、なるほど。
「違う」
 では、幸せを引き寄せるのか?
「それも違う。不幸、不運の類を寄せ付けないのだ」
 ……、それは厄介な。
「学を積み、この歳になって気が付いた。私は意図的にこの力を使ってしまっている」
 それは、それでよいのでは?
「しかし、その代償として、誰かが不運、不幸を背負うことになる」
 自分が対象を選ばぬように記憶をなくすというのか。
「そうだ」
 高貴だな。もっと浅ましく生きればよいではないか。
「……、知り合いにばれたのだ、この力が」
 そうか、ならば致し方なし。
「恩に、恩に着る」
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