キツネと龍と天神様

匂わせな天神曰く

　その女は龍に仕える巫女の血筋だった。
　女は子供のころ、記憶を操れる龍に一度だけ会える、という特権を利用して町内に住む人々の記憶を消した。

　何故かと問われれば、彼女は級友から虐めにあって緊急な状態だったし、裏でこっそり助けてくれていた幼馴染の少年からの助言もあってだった。

「自分の記憶から虐められた記憶を消す？　いやいや、それならお前をいじめた奴らの記憶からお前だけ消せばいいだろう。そうすりゃ、もう一回友達になるところからはじめれんじゃん」

　そうして、少女だった女は龍に願った。
　自分を知っている友達の記憶の中から、自分の存在を消してくれ、と。

　少女は虐められなくなった。
　新しい自分を級友たちに示して、もう一度友達になっていった。

　幼馴染にお礼をするために、人形を持っていくと、彼からも少女の存在が消えていた。
　人形だけ渡して、走って帰った。