キツネと龍と天神様

霧間愁

文字の大きさ
上 下
210 / 366

歩む天神曰く

しおりを挟む
 その女は思い込みが激しかった。
 ある時、女は思った。自分は可愛いのではないかと。

 そんな女の恋人は、そうだよと優しく笑った。


 その女は思い込みが激しかった。
 ある時、女は思った。自分は醜いのではないのかと。

 そんな女の恋人は、僕はそう思わないよと優しく笑った。


 その女は思い込みが激しかった。
 ある時、女は思った。自分が生きていてもいいのかと。

 そんな女の恋人はとても困った。
 困って何も言えずにいると、途方に暮れた女は自殺してしまった。

 恋人は嘆いて、時を戻してくれと神に祈った。

 “誰か”がその願いを聞き届けて、時を巻き戻してやった。

 恋人は、生き返った女を大切にすると、心に誓う。
 女を大切にするあまりに女は恋人に愛想をつかしてしまった。
 恋人は彼女が生き延びてくれたのならと、満足して女の許を去っていった。
しおりを挟む

処理中です...