キツネと龍と天神様

到る龍曰く

　男はぼんやりとここにいる理由を考えていた。


　一つ、男には特別な力がある。
　不老不死。その力を授かると同時に大きな代償があった。
　他人に認知されなくなってしまうという煉獄が待っていた。

　幾つかの葛藤と自暴自棄の期間を経て、男は街中でこっそりと誰かの手助けをすることにした。
　例えば、長い階段で荷物を運ぶ手助けをした。
　例えば、倒れている人がいると発見が早まる様にした。
　例えば、コンロの火を消し忘れを止めもした。
　例えば、躓きそうになる妊婦を助けようと身を挺して守った。
　例えば、寝てしまった受験生を遅刻しない様に目覚ましの位置を少し近づけた。

　男は自己満足と自分でも判っていて、それを止めなかった。

　今日もそんな一日。
　少女が目の前で派手に転んだ。
　手荷物の中身が飛び出過ぎないように押さえ、体を支えてやる。
　少女が起き上がるのを見届け立ち去ろうとすると「ありがとう」と呟かれて男はギョッとした。


　男は慌てて確認したが、少女は男を認識していない。