キツネと龍と天神様

一発撮りのキツネ曰く

　僕、キツネはマイクの前に立ちます。

　SM58ゴッパと呼ばれるマイクは使い込まれているはずなのに、凹みもなく綺麗です。
　喉を小さく振るわせて、口を開かずに調子をとりました。

　用意されたヘッドフォンを装着。
　音が遮断されて、僕の目の前にはゴッパと歌う為の歌詞を思い浮かべます。音程、歌詞の意味、音楽構造、速度、喉の使い方、思考が巡っていって結局、「歌いたい」という気持ちだけが残ります。
　練習したことがちゃんと出来ればいいな、これまでの努力が実ればいいな、という気持ちすらなくなっていきます。
　ただ、「歌いたいな」という感情。

　僕は一呼吸だけ深く吸って、吐く。

　片手をあげ、猫に合図。
　前奏が始まって、僕は目をつぶります。

　暗闇と音。

　世界はそれだけ、僕はそこに歌を唄うだけ。