蒼眼の契約

桐生朔夜

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~消えゆく子ども 現代の神隠し~ 二刻

❁⃘*.゚黒翼の者

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***

 萩たちは神楽山の森の中に居た。
神楽山は狗羅ノ山よりは少し小さめの山で、昔は土地神が居たらしいが、今は居ないようだ。

「はぁー…、この山って見た感じじゃわからなかったけど、案外広く感じるな~―…よっ…と」

萩は横に倒れた木を跨いだ。

「だな」

蒼全も萩の後ろから来ていた。

「後、思ったんだけど、さっきから冥鬼の姿を見かけないよね。土地神も居ないからかな?」

「そうだな…。だが、こうゆう山だからこそ、好き勝手に縄張りが沢山あってもおかしくないんだが…」


二人が話をしながらいっていると、前方に黒翼の生えた人影がこちらに背を向け、片膝を立て、座ってた。何かをしている様子だ。

先を歩いていた萩はその人影に気づき、立ち止まった。

萩の後ろを歩いていた蒼全は不思議そうに尋ねる。

「どうしたんだ、萩?」

「あれは…」

萩はその人影に近づいていった。

「…?」

その後ろを蒼全がついていく。







__ザッ…ザッ…



「!?!!」


足音に気付いたのか、その人影が後ろを振り返った。

その様子に、萩も驚きながらも

「あっ…!ごめん! 驚かせちゃったかな。…その、君はもしかして、黒天狗…だよね?」

其処に居た人影は、黒髪の長髪に橘色の瞳を持ち、背中には闇色の黒翼の生えた青年。
外見は萩とあまり変わりないか、一つ上ぐらいだろうか。

下駄のようなものも履いている。
頬には泣いた跡が残っていた。

黒天狗は萩たちの言葉に

「…自分が…見えるのですか?」

「うん。僕らには見えるんだ」

その言葉に

「いかにも。自分は黒天狗です。…あなた方は?」

「僕は式神師で、後ろから来ているのが僕の相棒の式神」

紹介されながらも後ろからやってきた蒼全が

「なにやって…」

蒼全が萩の前に居た人影に気がついた。

「…黒天狗! …なんだ、やっぱり冥鬼は居たのか」

黒天狗は少し警戒した様子だった。

「えっと、君の名を聞いていいかな?」

萩は黒天狗に尋ねた。

「自分はただの黒天狗です。名は元々からありません」

「___そう…なんだ…」

萩はふと、黒天狗の手を見た。
土で汚れていた。

「えっと….、君はここでなにをしていたのかな?それに、泣いた跡が…」

見ると、黒天狗の座っている前には埋められた石があった。
墓石のようにも見える。

「墓を…つくってたんです」

「…墓!?」

萩と蒼全は同時に言葉を発した。

「はい…。仲間の墓を」

「__その…、詳しく聞いていいかな…?」



____黒天狗は語り始めた。



「仲間と言っても、同じ黒天狗ではないのですが….、此処では私を含め、沢山の種類の冥鬼が土地神がいないぶん、自由気ままに住んでいました。
…しかし、数日前でしょうか…。仲間の冥鬼が山のあちこちで遺体となって見つかりました。
その遺体は食い殺されており、ほぼ骨しか残っておらず、周りには凄まじい量の血が赤黒く残っており、まだ乾ききっていないのもありました。
次の日も、また次の日も…。皆、警戒しあっていても犠牲が増える一方で…。そして、今日もまた、数少ない仲間が殺されており…残ったのは、自分一人だけとなりました」

彼の、黒天狗の悲しい眼差しが目の前の二人の心を貫いた。言いようもない悲しみがこちらにも流れこんでくるようだ。

その後、黒天狗は萩たちに

「式神師様、式神様。どうか、仲間を食い殺した者を見つけてください。そして、その後は自分が…!」

萩と蒼全はその様子を見ていた。
悲しみから怒りへと変わっていた。

「うん。…僕たちが必ず見つけるよ。絶対に」

すると、黒天狗の瞳から涙が頬を伝い、

「……ありがとうございます」

萩は微笑んだ。そして

「じゃあ、いくつか聞いていいかな?」

「…?」

「この神楽山に夜、なにか、力の強い冥鬼が来たりしてないかな?…見たところ、君も力が強いみたいたけど…気配とか感じたりしない??」

「…いえ…なにも___」

「じゃあ、村の子どもたちを見かけなかった?」

「村の子ども…!?」

「うん。今、神楽村の子どもたちが次々と神隠しにあってるんだ」

「…じっ…自分はなにも…」

「___そっか。ありがとう。君も気をつけてね」

「夜まで…ですか?」

「うん。夜まで…。___じゃあ、僕らはまた、色々と散策しますか」

萩が後ろを振り返りながら言った。

「そうだな」

蒼全も言葉をかえした。

すると、萩がなにかを思いついたのか、振り返り、

「そうだ…!君にまた、お願いをしてもいいかな?」

萩は黒天狗に尋ねた。

「…なんでしょう」

「この、神楽山で冥鬼たち…君の仲間の墓石の場所を教えてくれないかな? なにか手がかりがつかめるかもしれないと思って。僕たち、此処の土地の事については、まったく知らなくて…。墓石を巡るのは君にとって苦かもしれないけれど…お願いします」

萩は頭を下げた。
その様子に蒼全と黒天狗は驚いた。

「___わかりました。仲間を…村の子どもたちを助けるためならば…」

「…ありがとう!」

「ですから、頭を上げてください」

「あ、…あはははは」

萩は照れ臭そうに笑いながら頭を上げた。


 ___それから、萩たちは彼の案内のもと、墓石を巡っていった。

途中、蒼全は大きな岩を見つけ立ち止まった。

「…萩」

「ん?どうした、蒼全」

前をいっていた萩と黒天狗が後ろを振り返った。

「あの、大きな岩はなんだ?」

蒼全は岩の方を向きながら言った。
萩たちからみて、左手の先の林の隙間から大きな岩が見えた。

「あっ、…あれは昔からある洞窟だったんですが、何かの理由で塞がれたんです。あの岩の後ろが入り口です」

黒天狗が説明した。

萩は目を細め、その大きな岩を怪しげに見つめた。そして

「ふーん……行ってみよう」

萩たちは大きな岩の近くへと足を進めた。

「…さっき、この洞窟が塞がれたのって何かの理由って言ってたけど…それってなにかな?君は知ってる?」

「いえ…。この山に居た自分たちもなぜかは分かりません。…ただ、この洞窟は昔、土地神様が居られた場所なので今、居られない分、むやみに中に入ってはいけないとだけしか…」

「土地神…ねぇ…___」

萩はじっと岩の中心を見つめた。

そして、蒼全と共に大きな岩の周りを見回った。

「蒼全、動きそう?」

「だめだ。ビクともしない」

「手伝おうか?」

「いや、…こんなに岩が大きいんじゃ、ここにいる三人がかりでも動かないだろ」

「…ということは、この岩じゃないってことか…。もし、動くんだったらこの中に神隠しにあった子どもたちが居ると思ったんだけど…。ここにくる間、子どもたちの姿を隠せるほどの場所は見られなかったしね」

「だが、その力の強い冥鬼だったら出来るんじゃないのか? 子どもたちをさらって、冥鬼どもを食らった奴ならば」

「でも、誰も見てないって…。___じゃあ、今夜あたりにも…」

萩は岩に耳をあてた。

「なにか聞こえるか?」

「いや…。風の音しかしない」


それに…異臭もしない。風が入るぐらいの隙間があるんだから、もし子どもたちが冥鬼たちのように食い殺されて、この中に居たとしても、冥鬼より人間の臭いの方が強いはずだ。…今のところ分かることは子どもたちが無事なことぐらいか____





「…どうします?」

黒天狗が二人に尋ねる。

「……先、進もっか」



***



萩たちは隈無く山を散策した後、旅館へと戻ってきた。

空では、日が南西の方角に傾き始めていた…。
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