心のどこかで

蔵間 遊美

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こたえろよ

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「はぐらかさずに答えろよ?」

「お? なんやなんや? どんとこい! なんでも聞けや」
 そうカイルは嬉しそうに言う。
「お前…中西に人間やから人間好きになれって言ったんだってな?」
「あ?」
 カイルは怪訝そうにクライスターを見る。そんなカイルを見て大きく息を吐き出しクライスターは疑問をぶつける。
「じゃあ、『悪魔の方が好き』なお前は何者なんだ?」
 カイルの動きが止まる。
「…今は話せん」
「じゃあ。式神にはならん」
「へ?」
 クライスターから返ってきた言葉にカイルは間抜けな声を上げる。クライスターは真っ直ぐにカイルを見つめた。
「…俺はお前に興味を持った。でも、信頼するにはお前は俺に何も晒していない。…全てでなくてもいい。最低限の事だけでもいい。晒せ」
 カイルが目を丸くする。
「俺様の式神になる覚悟してくれたと思てえぇのん?」
「勘違いするなよ? 話によっては考えるってだけだ」
 そう不機嫌そうに言うクライスターをしげしげと見つめて、カイルは少し笑うと。
「まぁえぇわ。俺様に興味持ってくれただけでも良しとするか。ほんで何が知りたい?」
「この結界」
 簡潔な疑問にカイルは腕を組む。
「う~ん。最初に作ったんは親父や。そん時は普通に結界だけやったらしい。その後、手を加えよったんがおるんや」
「手を加える? そんなことができるなんて一体そいつは何者なんだ?」
 こんな複雑な場を作り出せる人間が二人もいたなんてとクライスターは驚いたが、カイルの口から出てきた名前に更に驚かされることとなる。
「『裏切りのマリスエル』」
「え?」
「本人はそう言っとった。2つ名が付いてるんは『貴族』の証拠やと教えてくれたんも『裏切りのマリスエル』…マリーや」
 その名前にクライスターはポカンと口を開ける。そして、はっと我に返って聞き返す。
「…まじで、本当に、本気で『裏切りのマリスエル』なのか?」
「おう。なんや知り合いか?」
 いやぁ~世の中狭いなぁと呑気に言うカイルに、クライスターは頭を抱えて叫ぶ。
「ばか! 俺はな『貴族』は『貴族』でも端っこクラスなんだよ! 『裏切りのマリスエル』はな! 優しげな容姿に反比例したとことん冷酷な『伯爵』クラスだって有名だ!」
 あんまりお互いに干渉しあわない魔族すら敵対したくないどころか、遭遇したくないってめっちゃ有名なやつなんだぞっ?!とクライスターが叫ぶと、なにやらうんうんと感慨深げにカイルが頷いている。
「おう。ほんまに優しげな顔しとって悪戯したら恐ろしい『お仕置き』をにっこり優雅にやりよんねん。ほんまにダチのおかんより恐かったわ~」

 ……。

「…悪戯?」
 なにか自分の話とかみ合っていないような内容に、クライスターは間抜けな声で聞き返してしまう。確か自分は冷酷無比な魔族の話をしていたはず。なのになんで悪戯?お仕置き?ダチのおかんより恐い?だが、カイルは更にクライスターを混乱の渦に突き落とす。

「おう。マリーは親父の式神やってん」

「な! ななななななんだとぉぅ?!」
 思わずカイルの胸倉をクライスターは掴んでしまう。
「いやもう、外見は優しげでたおやかな赤毛の美女やし、料理美味いし、洗濯も掃除も上手なんやけど『男所帯だからと言って加減はいたしません』とにっこり笑うてな、俺様らに家事の分担を振り分けてさせよってん。あの親父でさえ黙々と洗濯機回して洗濯物干しとったわ」
 クライスターはその内容に、この家へ来た時から習慣になってしまった目眩を起こす。…ちょっと待て。最上級クラスの『貴族』を従わせる力を持っていながら言いなりになって洗濯?
 …嘘ぉー…。
 呆然としているクライスターを横目にカイルの話は続く。
「俺様は思わず親父に言い寄ったね。『とっつかまえてきた魔族に何えぇようにされとんねん!』そう言うたら、無表情のまま『母さんによう似とったんで連れて帰ってきたんやが、中身まで母さんに似とるんでつい』やて答えよんねん。もう、脱力したわ」
 …脱力ですむ話なのか?オイ!
 ただひたすら呆然とするクライスターにカイルは楽しそうに笑う。
「エクソシストの阿呆共やらは親父を『魔族にたらしこまれたんや』言うて騒いどったけど、どっちかいうたら娘や思てた思う。おかんは娘欲しがっとってな…あの頃もう、おかんは死病にかかっとったんや」
 クライスターはその言葉に弾かれるようにカイルを見た。
「俺様はてっきり、おかんの病気を治すために上級クラスの魔族を捕まえてきたんやと思とった。ところがいつまで経ってもそんな素振りは一向にあらへん。たまりかねて親父に抗議したんや。なんでおかんを助けてくれへんのやって」
 カイルは寂しげに笑っている。
「そうしたら親父は『母さんが望んでないのや』そう言いよるんや。おかんはマリスエルをマリーちゃんて呼んで家事や、着物の着付けやいうて引っ張り回して、まるで娘が出来たみたいに楽しんどった」
 クライスターはどんな顔をすればいいのかわからなかった。普通はそんな状態であれば生を望むはずだ。現にクライスターは今までその類いの願い事を契約として数えきれないほど行ってきた。
「そないなはずあらへんわっておかんに話を聞きにいった。そしたらどう言った思う?」
 カイルは初めて楽しそうに笑った。
「『契約したかて、うちの命はいつか消えます。いつ消えてしまうんやろと怯えて暮らすよりかは、わかっている分十分に楽しみたいんや』そう穏やかに笑われてしもてん」
「そんなはず…!」
「マリーもそう思たらしいわ。契約しようって誘いをかけたらしい」
 それはすばらしい誘惑だったはずだ。
「せやけどおかんに『そんなもんよりうちはマリーちゃんに家事を教えたり、一緒にお買い物行って、似合う服買うてあげたりするほうがえぇねん』てにっこり笑われて一蹴されてしもたらしい」
 クライスターは、カイルの母に興味を持った。本当にそんな人間がいたのだろうか。
「疑わしそうやな。マリーかておかんの事困っとったわ。会うたことのない人間やったやろしな。やけどおかんの最期の方はマリーかて楽しそうにしとった…。それぐらいにやったかな? 両親を亡くしたヤスミを引き取った。おかんはおじさん夫婦の最期に涙して、ヤスミを立派な京都の女にするって張り切とった。ヤスミは生まれたばっかの赤ん坊やいうのに、七五三の着物用意したり、成人式の着物まで注文しそうな勢いやった。せやけど…すぐにな…」
 カイルは俯いた。
「おかんのいまわの際にマリーはめっちゃ泣いとってな『私と契約して下さい。ヤスミはどうするんですか?! お願いです! 私と契約して下さい!』って懇願しとった。せやけどおかんはキッパリと拒否した後に俺らに向かってな『大きな力はなんでも出来るように思えますけどな、そんなことあらしませんのや。壊してしまうんは一瞬で手間もかかりしません。せやけど一から生み出すいうのは、手間もお金もかかりします。それをよう覚えときなはれ。強大な力を持つ者ほど自分を見失のうてはあきまへんで』それからマリーに向かって『ホンマ楽しかったわ。心残りはこの子等やけどマリーちゃんよろしゅう頼まれてくれへんやろか』そう言うとにっこり笑てあの世に逝ってもうた」
 カイルは目を閉じて、天を仰ぐ。
「それからマリーは3日3晩も部屋にこもりよってな、出てきて開口一番が『式神にして下さい』やった。親父は『母さんが娘として扱ってきたお前を式神にしたら俺はあの世で母さんにどつかれてまう。遠慮する』そう言いよってん。やけどマリーは決心してた。精神体に近い自分が力を発揮するには『契約』いう形が一番いいんやと言うてた。せやから契約してもうちの親父はマリーのことを娘として扱ってたわ」
 カイルはそこで目を開けてクラシスターを見つめる。
「俺はなホンマおかんを尊敬しとる。おかんはな全然『力』をこれっぽっちも持っとらへんかった。正真正銘普通の女やったんや。ただただ自分の信念を持って自分の意志を貫き通しよっただけや。それで上級クラスのマリーを動かしたんや。すごい事や思わんか?」
 そこでカイルは一旦言葉を切った。
「…結局どういう形で落ち着いたのかはよう知らん。せやけど親父とマリーはこの結界を作り直しよった。マリーがこの中でも力が発揮出来るようにってな」
 そこではたとクライスターが気付く。
「だから力場も感じるのか!」
「そういうこっちゃ。せやけど条件が揃わんと力が使えんらしい。ほれ、お前の首輪も条件の一つらしいねんけど、力は振るわれへんねんろ? なんかまだ条件が足りひんのやと思う。いうてもあの鳥居くぐれたのはお前しか居らへんからなんとも言えんけど」
 そんな複雑な場を作り出せたと言う事自体やはり『裏切りのマリスエル』は噂に違わずかなりの実力者だと伺い知れる。
 そしてカイルの父も。
「…結界の件は分かった。だけどお前は一体何者なんだ?」
 クライスターは覚悟を決めて問いかけた。後戻りが出来ないだろう予感がしながらも。
「…さぁ。ホンマに分からん」
 自嘲気味にカイルはその疑問に答える。
「なんや知らんが『忌み子』やらなんやら言われて、生まれた時に殺されかけたらしいわ俺」
 クライスターは驚きに目を見開いて、カイルを見つめる。
「せやけど、親父が手を出させんかったらしい。『俺と嫁の大事な子供に何をする気や』ってな。親父は俺の力を『混沌の力』と名付けとったわ」
「混沌?」
「せや。光でもない闇でもない力や。つまりどっちにも転びかねん力らしい。せやけど光にも闇にも束縛されへんから、無尽蔵に力が使えるんやて」
 クライスターは考え込む。
「そんな話聞いた事ある…ような…」
「マリーもそう言うとった。ま、うちの家系のせいもあって元々そういう人間が生まれやすいらしいんやけどな」
 クライスターは眉をひそめて聞き返す。
「家系?」
「おう。一目気に入ったら命がけ。魔族だろうと神様だろうと妖怪だろうとなんだろうと全くおかまいなし。ゲッチュするまであきらめへんでぇ! って家系なんで色んな血が混じってるらしいわ」
「はぁっ?!」
 クライスターは素っ頓狂な声を上げる。カイルはうーんと考え込んでいる。
「確かー、聞いたところによると龍神とか、天女とか、猫又とか、狼男だとか様々」
 クライスターはあまりの混ざり様にあきれ果てて口が塞がらない。
「なんちゅー家系…。ちゅーかお前んちのマイペースは先祖代々なんだな?」
「おう。うちの家訓はな『決まってなかったら進め、決めたら進め、とにかく進め。進めば道は開いていく』やからな~」
 そういうとがっはっはとカイルは大笑いをしている。クライスターはそれって獣道というんじゃないのか?と思わず心の中でツッコんでしまっていた。だが、ハッと気付く。
「…つまり俺は逃げられんてこと?」
「うん」
 がっくりと肩を落としてしまうクライスターだった。 
「あっそ」
「せやけどまぁ、対外的にも害をなす気はあらへんて態度を示しとかんといかんゆうことになってなー。元々暴走しやすい力や。そこでマリーが制御できるようにと方法を考えてくれたんが、あの鳥居や」
 カイルはヒョイッと鳥居を指差す。
「は?」
「ほれ、あの鳥居くぐると服やら飾りやら色んなもんくっつきよるやろ?あれ制御用の装置みたいなもんや」
「な、なんだと?!」
「札とかはってもえぇけど耳なし芳一みたいに体中に札やら呪い書いとったら、現代では変質者やしな」
 その通りである。
「てか、あの格好もある意味変質者…」
 その通りではあるが、思わず突っ込まずに入られなかった。
「え?そうか?俺の趣味なんやけど変か?」
 ところが、クライスターの呟きにカイルは首を捻っている。
「…アキタケもヤスミも、反対だともなんとも言わなかったのか?」
 クライスターは呆れたように聞き返す。そりゃあ、自分は人間界に疎いのかもしれないが、ちょっとあの格好は…怪しすぎじゃないか?とクライスターは思っていたのだが、カイルはあっさりと頷いた。
「おう。兄貴は『お前がえぇならえぇんとちゃうか?』やったし、ヤスミは『カイ兄さんによう似合うてるからえぇんとちゃいますやろか?』言うてたで?」
 マイペースとか、兄弟愛にも程があるだろう? 神城兄妹よ…。思わずそう思ってしまったクライスターを誰も責められまい。
「まぁ、俺も一人前に悩んだりした時期もあってん。世界に害をなす前に死んでもた方がえぇんやろかってな。神さんてなんて残酷やろうって、運命ってひどいわってずっと思ってた。せやけど親父がな『お前は人間を体現してると思え』て言うたんや。『人間は光も闇も持ち合わせとる。誰かにとって善い人間でも別の人間に取っては害を及ぼすと認識される事がある。誰かが正しいわけでもあらへん。だが誰も悪くないわけでもあらへん。人間いうんはそういうもんや。大切なのは自分を客観的に見つめる事が出来るかや。それを人は理性と呼んどる』それから俺は神さんや運命に悩むんやなくて、自分を信じる事に決めた」
 そしてクライスターを見る。
「俺は誰かを見捨てるて決めても、誰かを助ける事に決めても俺の信念で動く。後悔なんかはせぇやん。俺が地獄へ行くか天国へ行くか、そんなことはわからせん。なら悔いのないように、おかんや親父にあの世で会うた時に胸を張って『自分の信念を貫き通したで』って報告できる生き方するねん」
 カイルのその目は知らずクライスターを引き込む。その目を通してカイルの揺らぎない魂の輝きが見える。その輝きを見てしまった者はカイルから逃れられない。
「だけど…だけどなぜ俺を欲しがる?」
「…最初ビックリしてん。目元がマリーによう似とるねんもん。瞳も同じ金と紫のオッドアイでな。この逆五芒星の痣なんか特にそっくりでな」
「え? 嘘!」
 その事実に驚くクライスターにカイルはすっと近付く。クライスターは動けなかった。
「でも他はマリーとは全然似てへん。せやけど目が離されんかった」
 そういうとカイルは手を伸ばし、クライスターの目元に一度触れてまた離し、そして今度は痣を撫でる。
「これって一目惚れかなぁって思てん」
 そう言うカイルはとても、とても幸せそうだった。
「…俺は…『男性体』だぞ?」
 クライスターは確認する。カイルはうん、判ってるで?と言う。
「そんなんどうでもえぇねん。気に入ったからな。俺と共にあってくれたらえぇ」
「マリスエルに頼めばいいだろう?」
「マリーは親父のパートナーやったもん。…それにマリーはもう…居らへん」
 寂しげな口調のカイルの話す内容に、クライスターは驚愕する。
「え?」
「俺らを狂信者から守って、親父と共に死んだ。…消滅した」
「そんな馬鹿な!」
 余程の能力の持ち主でない限り上級クラスの魔族を消滅できるはずがない。
「俺らもそう思たよ。目の前で消えていくマリーを助けられへんかった。…マリーを消滅に追いやったのは普通の銀のナイフやった。ただ、なんや呪いが刻んであった。マリーは最期にな『可愛い私の弟と妹達。きっと命を賭けても守りたいモノが出来るわ。その為に私は消える。その時の為に。忘れないで』そう言い残して消えていった。親父はそのすぐ後に、手当のかいなく死んでしもた」
「なんで? 力があったんだろう?」
 そんな二人がたかが人間相手に?クライスターには信じられない話だった。
「襲ってきたやつらに動かれへんような重傷は負わせても殺しはせぇへんかってん。そん中の奴が怪我をおして、隠れていた俺らに襲いかかってきよったんや。親父はとっさに体で俺らをかばったんや。…狂信者いうんが恐ろしいいうのんを身にしみて思い知ったわ」
「そんな馬鹿な!」
「甘いなって思う? 俺もその時思てたわ。せやけど、親父の親友が『お前アホや。相手の家族がどうせ嫁はんや息子等に被りよったんやろ。あんな自業自得の奴らをなんで気にかけてやらなならんねん。…お前ホンマにアホや』そう言うてな、泣き笑いしながら親父の棺に縋っとった。…俺な、親父はあほや思う…思うけど尊敬しとる。誰かを殺すんは簡単やねん。せやけど生かすのんが難しい。親父はいつも葛藤しながら戦ってたんやろう思う。せやから俺は俺なりに、その戦いを引き継ごうって決めた」
 そしてクライスターの手を取る。
「やから、俺はパートナーを探してた。人間やったら、俺にはついてこられへん…下手すりゃとばっちりを食らわせてしまう。やけど魔族やったら誰でもえぇかいうたら誰でもえぇわけやないねん。力が強いだけやってもいかんねん。俺が気に入ったやつがえぇねん。…それやったら裏切られて殺されたって、まぁ、しゃーないなって納得できるしな」
 そうカイルは笑って言う。
 だけどクライスターは許せなかった。思わずカイルの手を振払う。
「クライスター?」
 その行動にカイルがキョトンとしている。
「俺はな! パートナーになるって決めたらな! 裏切る気はないっっ! それになっ! そんなに…そんなにあっさりと殺されてもいいとか言うなっ!」
「…じゃあ裏切る気も失せるくらい俺に惚れてくれる?」
 途端にクライスターは顔を真っ赤にさせて怒鳴る。
「話が変わってる!」
 するとカイルは頬を膨らませて
「えぇ~? ちゃうんかいな~?」
「ちがう!」
「じゃあ、どういうこと?」
 カイルはそう言ってニッと笑う。
「…パートナーになってやってもいい」
「ほんま?」
「お前は…俺を裏切らないんだろう?」
「うん」
 カイルは力強く頷く。クライスターは覚悟を決めた。
「俺はお前を信じよう。…だからお前も…俺を信じろ。お前が生きている限り俺は…お前を裏切らない」
 そういってクライスターは左手を掲げる。
「力を奪われている今、契約が出来るかどうか分からないが、そう契約してやる」
 途端にクライスターの首輪が光る。
「えっ?!」
「クライスター?!」
「なんだこれ?!」
「…! クライスター! 周りを見ろ!」
 慌てて周囲を見るとクライスターを中心に魔法陣らしきものが空に描かれ光っている。
「こ、こんなの俺は知らねぇぞ?!」
「ちょっ! 待ってろ! 助けたる!」
 クライスターを助けようとカイルが手を伸ばしたが弾かれてしまった。
「くっそ! クライスター!」
「カイル!」
 病み上がりだからなのか、弾かれてもすぐに起き上がれないカイルをみて、クライスターが駆け寄ろうとした時だった。
『ありがとう。よろしくね』
 そう女の声がして吃驚したクライスターがその場に固まっていると、一瞬目の前に赤毛の女性の幻が現れ、すぐに消えると同時に魔法陣が一層輝く。
「クライスター!」
 カイルが目を庇いつつ叫ぶ。
 そして。
 光が収まったその場にクライスターはへたりこんでいた。
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