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10.思惑
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キムたちの船が落ちてきてから数日後、シイラはある決心をしてキリナの家を訪ねた。
「ソラさん…ちょっとえぇ?」
「シイラさん?」
ちょうどキリナの家では夕食が終わり、ゆったりとくつろいでいたところだった。
「シイラ? 明日やったらあかんのん?」
この家の家主であるキリナが訝しげにシイラへ問いかけたが、シイラはゆっくりと頭を振った。キリナは暫くじっとシイラを見つめていたが、にっこりと笑うと言っておいでとソラに言った。
2人は外へと出るとシイラが先にゆっくりと、しかし無言で歩く。暫くしてやって来たのはソラの船の場所だった。
「シイラさん?」
「ソラさん…ウチ聞きたい事があるねん」
「…なんでしょうか?」
「ウチ…あんたが毎晩この船に来てたん知ってたん…」
「え?」
シイラはふいっと視線を逸らし、地面を見つめている。
「なぁ…ソラさん、この間落ちて来たあの艦と何も関係ないよな?」
「シイラさん…」
「ウチなソラさんを信用してる…というかしたいねん。議長は自分のカンを信じろて言うたけど、ウチはまだまだ未熟モンや。ホンマは議長にあんたがこの船に毎晩通うてるて言えば、議長が判断してくれる思う…せやけどそんなんイヤやねん…」
シイラはそう言いゆっくりと顔を上げる。
「せやけどあれやこれや考えてみてんけど、答えがでぇへん。そらそうやんな…やってあんたしか答え知らんねんもん。せやから…せやから答えて? この船に何があるん? この間のあの艦となんか関係あるん? お願いや…答えて?」
ソラはじっとシイラを見つめる。そしてふっと笑みを零した。
「…そんなに正直ではよその星に行っては損をしますよ?」
「かまへん。やってこれがウチやねんもん」
シイラはソラから視線を逸らさない。そのまっすぐな視線にソラは目を細める。
「入りますか?」
「へっ?」
ソラのその唐突な申し出に、シイラは間抜けな声を出してしまう。ソラは微笑みを浮かべて優雅にタラップを指差す。
「この船へ。入ってみますか?」
「え? でも…」
「答えられる質問にもお答えします」
「え?! ホンマに?!」
「えぇ…どうします?」
シイラはまっすぐソラを見つめる。
「行く! もちろんや!」
ソラは嬉しそうに笑った。
「うわ…真っ暗やなぁ」
シイラはおそるおそる船内へと入る。
「ちょっと待ってて下さい」
ソラのその声がすると同時に一斉に船内の明かりが付いた。
「うわぁ…すごいなぁ!」
シイラは感嘆の声を上げ、ソラの声がした方を見やる。ソラはコントロールパネルに手を当てていた。
「え? 掌紋照合で起動するタイプなん?」
「まぁ、そんなものだと思って下さい。ではこちらへ…」
「へ~ぇ…」
感心しきりのシイラを余所に、ソラはチラリとモニタに映し出される文字を確認して、シイラを更に奥へと案内する。そして、ある部屋の前で暫し立ち止まった後、そのドアにそっと額を当てた。
「ソラさん?」
不思議そうにソラに声をかけるシイラに答えず動かないままだったが、ようやくソラは相変わらず黙ったままドアの横のパネルに手を当てる。パネルが暫くの間点滅した後、ドアがシュンッと小さな音を立てて開いた。
ソラが中に入るのに続き、シイラもその後へと続く。その薄暗く静かな空間には様々な機械が並んでおり、ヴィーンと小さな機械音が響き、ランプの点滅とともに稼働中であることを示していた。
「あの…」
「…この方がブルー博士です」
シイラが部屋の様子に戸惑いながらも、この部屋の事を聞こうとしたその時に、ソラが一つの機械を指さしそう言ってきた。
「え?!」
その名前にシイラが目を凝らすとそれはポッドのようだった。慌てて覗き込むと、予想していなかった事実に目を丸くする。
「…博士って…女の人なん?」
「えぇ。マグノリア=ブルー博士です」
そこには初老の、だが気品のある、若い頃には大変な美人だったであろうと推測出来る女性が目をつむり横たわっていた。一見眠っているだけのように思われたが、その口元や首、頭等に機械が取り付けられ、コードが伸び、あちこちに繋がっている。
その凛とした美しさにぼーっと見つめていたシイラはようやっとその状態に気付き、はっと我に返る。
「え? もしかして怪我してはるん?! せやったら早う病院に…!」
「無理です…脳死状態へと陥ってしまっているのです」
「えぇっ?!」
シイラは慌ててそのポッド内と、ブルー博士から伸びているコードの先の機械へと視線を忙しなく行き来させてしまう。ソラは切なげに眉を寄せると、そっとそのポッドへと指を滑らした。
「…私達は訳あって地球連邦から逃げ出して来たのです」
「うぇっ?! まじで?!」
シイラは驚いて、ソラへと視線を戻す。
「はい…逃げ出す最中にブルー博士は頭部に傷を受けてしまったのです…私は慌てて博士に治療を施しました…ですが一命は取り留めたものの手遅れでした」
「ソラさん…」
シイラは泣き出しそうな顔をしてソラを見つめる。ソラは笑みを浮かべる。
「でもまだ…まだ何か方法が有るはずだと…必死で逃げていた所だったのです」
「せやったんや…」
「えぇ…」
ソラはそう呟くと、視線をポッドへと落として、ジッと博士を見つめている。シイラはなんと声をかけて良いものか判らなかった。しばらく沈黙が二人の間におりたが、ソラがフッと短く息を吐き出して、沈黙を破る。
「多分…先日、墜落してきた艦は…私達の追っ手だと思います」
追っ手と言う言葉にシイラは慌てた。
「嘘?! ほな早よ議長に知らせな!」
そう言って、出口に向かおうとするシイラをソラはその腕をとっておしとどめる。
「待って下さい…明日…明日一緒に会議堂にいきましょう」
「え?」
シイラは吃驚してソラを見上げる。
「私が何者か…あの方なら…判るような気がするのです」
「…議長を買いかぶり過ぎとちゃう?」
シイラのそのすごく疑わしげな声音にソラはゆっくりと頭を振った。
「いいえ…明日。全てお話しします」
シイラは納得できないながらも一緒に行く事を約束した。
「ソラさん…ちょっとえぇ?」
「シイラさん?」
ちょうどキリナの家では夕食が終わり、ゆったりとくつろいでいたところだった。
「シイラ? 明日やったらあかんのん?」
この家の家主であるキリナが訝しげにシイラへ問いかけたが、シイラはゆっくりと頭を振った。キリナは暫くじっとシイラを見つめていたが、にっこりと笑うと言っておいでとソラに言った。
2人は外へと出るとシイラが先にゆっくりと、しかし無言で歩く。暫くしてやって来たのはソラの船の場所だった。
「シイラさん?」
「ソラさん…ウチ聞きたい事があるねん」
「…なんでしょうか?」
「ウチ…あんたが毎晩この船に来てたん知ってたん…」
「え?」
シイラはふいっと視線を逸らし、地面を見つめている。
「なぁ…ソラさん、この間落ちて来たあの艦と何も関係ないよな?」
「シイラさん…」
「ウチなソラさんを信用してる…というかしたいねん。議長は自分のカンを信じろて言うたけど、ウチはまだまだ未熟モンや。ホンマは議長にあんたがこの船に毎晩通うてるて言えば、議長が判断してくれる思う…せやけどそんなんイヤやねん…」
シイラはそう言いゆっくりと顔を上げる。
「せやけどあれやこれや考えてみてんけど、答えがでぇへん。そらそうやんな…やってあんたしか答え知らんねんもん。せやから…せやから答えて? この船に何があるん? この間のあの艦となんか関係あるん? お願いや…答えて?」
ソラはじっとシイラを見つめる。そしてふっと笑みを零した。
「…そんなに正直ではよその星に行っては損をしますよ?」
「かまへん。やってこれがウチやねんもん」
シイラはソラから視線を逸らさない。そのまっすぐな視線にソラは目を細める。
「入りますか?」
「へっ?」
ソラのその唐突な申し出に、シイラは間抜けな声を出してしまう。ソラは微笑みを浮かべて優雅にタラップを指差す。
「この船へ。入ってみますか?」
「え? でも…」
「答えられる質問にもお答えします」
「え?! ホンマに?!」
「えぇ…どうします?」
シイラはまっすぐソラを見つめる。
「行く! もちろんや!」
ソラは嬉しそうに笑った。
「うわ…真っ暗やなぁ」
シイラはおそるおそる船内へと入る。
「ちょっと待ってて下さい」
ソラのその声がすると同時に一斉に船内の明かりが付いた。
「うわぁ…すごいなぁ!」
シイラは感嘆の声を上げ、ソラの声がした方を見やる。ソラはコントロールパネルに手を当てていた。
「え? 掌紋照合で起動するタイプなん?」
「まぁ、そんなものだと思って下さい。ではこちらへ…」
「へ~ぇ…」
感心しきりのシイラを余所に、ソラはチラリとモニタに映し出される文字を確認して、シイラを更に奥へと案内する。そして、ある部屋の前で暫し立ち止まった後、そのドアにそっと額を当てた。
「ソラさん?」
不思議そうにソラに声をかけるシイラに答えず動かないままだったが、ようやくソラは相変わらず黙ったままドアの横のパネルに手を当てる。パネルが暫くの間点滅した後、ドアがシュンッと小さな音を立てて開いた。
ソラが中に入るのに続き、シイラもその後へと続く。その薄暗く静かな空間には様々な機械が並んでおり、ヴィーンと小さな機械音が響き、ランプの点滅とともに稼働中であることを示していた。
「あの…」
「…この方がブルー博士です」
シイラが部屋の様子に戸惑いながらも、この部屋の事を聞こうとしたその時に、ソラが一つの機械を指さしそう言ってきた。
「え?!」
その名前にシイラが目を凝らすとそれはポッドのようだった。慌てて覗き込むと、予想していなかった事実に目を丸くする。
「…博士って…女の人なん?」
「えぇ。マグノリア=ブルー博士です」
そこには初老の、だが気品のある、若い頃には大変な美人だったであろうと推測出来る女性が目をつむり横たわっていた。一見眠っているだけのように思われたが、その口元や首、頭等に機械が取り付けられ、コードが伸び、あちこちに繋がっている。
その凛とした美しさにぼーっと見つめていたシイラはようやっとその状態に気付き、はっと我に返る。
「え? もしかして怪我してはるん?! せやったら早う病院に…!」
「無理です…脳死状態へと陥ってしまっているのです」
「えぇっ?!」
シイラは慌ててそのポッド内と、ブルー博士から伸びているコードの先の機械へと視線を忙しなく行き来させてしまう。ソラは切なげに眉を寄せると、そっとそのポッドへと指を滑らした。
「…私達は訳あって地球連邦から逃げ出して来たのです」
「うぇっ?! まじで?!」
シイラは驚いて、ソラへと視線を戻す。
「はい…逃げ出す最中にブルー博士は頭部に傷を受けてしまったのです…私は慌てて博士に治療を施しました…ですが一命は取り留めたものの手遅れでした」
「ソラさん…」
シイラは泣き出しそうな顔をしてソラを見つめる。ソラは笑みを浮かべる。
「でもまだ…まだ何か方法が有るはずだと…必死で逃げていた所だったのです」
「せやったんや…」
「えぇ…」
ソラはそう呟くと、視線をポッドへと落として、ジッと博士を見つめている。シイラはなんと声をかけて良いものか判らなかった。しばらく沈黙が二人の間におりたが、ソラがフッと短く息を吐き出して、沈黙を破る。
「多分…先日、墜落してきた艦は…私達の追っ手だと思います」
追っ手と言う言葉にシイラは慌てた。
「嘘?! ほな早よ議長に知らせな!」
そう言って、出口に向かおうとするシイラをソラはその腕をとっておしとどめる。
「待って下さい…明日…明日一緒に会議堂にいきましょう」
「え?」
シイラは吃驚してソラを見上げる。
「私が何者か…あの方なら…判るような気がするのです」
「…議長を買いかぶり過ぎとちゃう?」
シイラのそのすごく疑わしげな声音にソラはゆっくりと頭を振った。
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