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1 グレイとクレパス家
しおりを挟む(グレイ)
伯爵家【クレパス家】
僕の生まれたその家は、国を守る優秀な騎士を生み出してきた由緒正しき名家であった。
この国はトップに王様が、そして次の身分として貴族と呼ばれる階級があり、伯爵家はその貴族階級の中で上から三番目に入る。
上から【公爵家】【侯爵家】【伯爵家】【子爵家】【男爵家】で身分が低いほど数は多く、伯爵家となれば国の重鎮レベル。
その中でも、僕の父<ライゼル>は、この国の騎士団のトップを務めている男であったため、それこそ望めば何でも手に入る権力を持っていた。
「グレイ、報告を。」
「はい……父様。」
家族が揃った時の朝食の際は、必ずライゼル父様に最近の勉強成果を報告しなければならない。
これは家庭での絶対的存在である父様が決めた、絶対ルールだ。
僕は少し離れた席に座って朝食を食べている父様へ、チラッと視線を向けた。
父、<ライゼル>は、騎士団長を務めるのに相応しい大きくて筋肉質な体格に、厳しさが表に現れた様な釣り上がった目と眉、そして『へ』の字に下がった口元をしている。
髪もしっかりと前髪から後ろに撫で付ける様に上げられていて、コチラを睨みつける鋭い眼光は、全く付け入る隙がない怖くて相手を威圧的にするイメージがあった。
そしてそれは、外見だけではなく中身もイメージ通りの性格で……そんな父に見られると、僕の身体は自然と震えてしまう。
「き、昨日は、魔法攻撃をメインにした戦術について学びました。その後は、家庭教師による剣術を────……。」
「…………。」
ビクビクしながら昨日やった勉強についての報告をしたが、父は無言で……カチャカチャというナイフとフォークが皿に触れる音だけが響いた。
現在8歳になった僕は、同世代の貴族達が通う学院に通いつつ、帰れば家で家庭教師による勉強を練る時間までみっちりしている。
これは我が家だけではなく、貴族の子供としてはごく一般的な事。
「あ、あとは…………。」
そのままつらつらと報告を続けていると、突然父がテーブルに手を叩きつけた。
そのせいで驚き口を閉じると、シーンと静まり返ったその場で、父は静かに僕を睨む。
「座学も剣術も全てそれなりにはできていると聞いた。しかし、伯爵家たるものそれでは駄目だ。それは分かっているな?」
「は、はい。も、申し訳ありません。これよりもっと精進していきます。」
父は頭を必死で下げる僕を見て、ハァ……とため息をつくと、不快そうにナプキンで口元を拭き部屋を出ていった。
その姿が完全に視界から消えると、僕は安堵に息を吐く。
父は生粋の貴族で、大事なのは伯爵家という『家』だ。
それがハッキリしているからこそ、僕がどんなに頑張っても頑張っても……並以上にいかない限り実の息子でも認めてくれる事はないだろう。
「…………。」
僕は下を向き、自分の手で顔を覆うように撫でた。
薄いブラウン色の髪に、良いところも悪いところも敢えて言おうとしても出てこない平凡な顔。
決して平均を出ない身長と体格、頭脳、運動神経を持つ自分は、何をやらせても特別を取れた事がなかった。
多分伯爵家の生まれでなければ、誰の記憶にも残らないと思う。
「……頑張ってはいるんだけどな。」
一度として父には勿論、誰にもほめられたことがない事は、心を酷く重くした。
あまり減っていない朝食のパンを見下ろし、更にため息が漏れそうになったその時────カチャリというフォークとナイフが静かに置かれる音が耳に入る。
「ライゼルの言う通りだわ。グレイ、もう少し頑張りなさい。これでは、伯爵家を継がせるわけにはいかないわ。」
「母様……。」
キラキラと輝く栗色の巻き髪に、パッチリした目には深い海を連想させる青色の瞳が光る。
長いまつ毛に高い鼻、雪の様に白い肌に長い手足は、まるで精巧に作られたお人形の様だ。
これが俺の母<プレーン>
母は元は男爵家の娘で、父に見初められて結婚したためか、僕の教育に関してとても厳しい。
『伯爵家の息子として恥ずかしい。』
『伯爵家の息子ならこうあるべきだ。』
そう口癖の様に言われ、父同様、僕は褒められた思い出はなかった。
母も一番大事なのは家だ。
子供ではない。
明らかに無関心な態度を毎日の様にとられ続け、自分の実力では1番になれる事はないと分かってはいたが……それでも僕は両親に少しでも認めてほしくて、毎日毎日頑張っている。
「申し訳ありません。これからはもっと精進いたしますので。」
「……そう。その答えも何回目かしらね。本当にアナタは、私の母にソックリだわ。
特徴のない地味な顔に、大した能力もなかった母に。」
怒りを滲ませ最後は呟いた母に、何も答えず下を向くと、母はそのまま食事を終えて部屋をでていった。
母が僕に無関心なもう一つの理由は、母の母……つまり僕の母方の祖母に理由がある様で、話を聞くによると、祖母は僕とソックリな容姿をしていて、貴族としてはあり得ない質素な生活を好んだそうだ。
そのせいで、常により良いモノや美しいモノを持ちたいと望む母とは、絶望的に相性が悪く、もう既に亡くなっている祖母を母は今でも激しく恨んでいる。
だから僕はそんな大嫌いだった母親に似ているという理由で、少なくとも好かれてはいない。
「────よし、今日も頑張ろう。」
努力して少しでも好かれる様になるしかない。
そう決意して、僕はすぐに食事を終えて、部屋を出ていった。
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