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11 兄について
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(ルーカス)
物心ついた時からずっと気づいていたが、俺は元々周りの人間に比べて頭の回転も運動神経も物凄くいいらしく、常に上。
俺が大した事ない事も、周りからすれば『凄い』そうだ。
だから、それに気づいた時から、同じ底辺同士の中で争いになれば、俺が100%勝ってきた。
だから────俺はその楽しさも気持ちよさも知っている。
「知らないのに、なんでそれが良い事だって分かるの?」
まるで見透かされた様に兄が俺に尋ねてきたので、誤魔化すように大声で怒鳴りつけた。
「そっ、そんなの分かって当然だろっ!!だって周りの目はいつだって笑ってる……。
人間は、自分より下の人間を見下すと楽しいし、気持ちいいんだ。
だから常に下を作りたがる。
冗談じゃねぇんだよ、人間なんてみんなクソだ。特にお前みたいな偽善ぶって手を差し伸べようとする奴らは1番嫌いなんだよ。反吐が出る。」
「そ、そっか。」
ここで、自分がいかに自分勝手な言い分を口にしているか気づいたが……それでも自分の心の中から沸き上がる怒りと憎しみは消えなくて、それを兄にぶつけたくて仕方がなかった。
八つ当たりでもなんでもいい。
このどす黒い気持ちが少しでも、楽になるなら。
冷静に考えようとする自分を押さえつけて兄を睨んでいるとらまた兄が妙な事を言い始める。
「あれ?ルーカスが言っている関係って寧ろ良いモノなんじゃ……。
だって、ルーカスは僕にその楽しさや気持ちよさを教えてくれる。そして僕はルーカスに文字を教える……ちゃんと公平になってるよ?僕達。」
「…………は???」
よく分からない公平さを語られ、またしても頭が混乱しそうになったが、理解しようと努力はした。
だが────結局理解する事はできず、これ以上何を出せばいい?と聞いてくる兄に、俺が答えられずにいると、兄は非常に悩ましげな様子を見せる。
「ごめん、これ以上僕に出せるものはないんだ。どうしようか……。一緒に考えてくれる?」
「…………。」
持っているモノなんて一杯あるでしょ?
そう思ったが……なんだかコイツと言い合うのに疲れてしまったのか、口から出たのは「……文字を教えてくれるだけでいい。」という言葉だけだった。
向こうから予想した怒りの感情が帰ってこない事に驚いたせいだ。
でも、どうせ腹の中では怒り狂っているのだろうと思い、ここは引くことにした。
だって普通は怒りには怒り、憎しみには憎しみの感情が帰って来るのが普通なんだから。
同情して優しく接してくるのだって、それと同じ事。
優しくしてやるから、その分優越感という幸せを代わりに返せっていう事で、人間っていうのは全部全部、そういう『公平』な関係しか築けないって事だ。
さぁ、どうやって来る?
嫌がらせをしてくるか、それとも『ルーカスの悲しみを理解している』っていう偽善の皮を被ってくるのか?
答えは────……そのどちらも外れで『普通』。
兄は何も変わらなかった。
俺に文字を教えても、俺に冷たくされても、調子に乗って大層な暴言を吐き出しても、何一つ。
「こっちの文字が『火属性の魔法文字』、そしてコレが『水属性の魔法文字』。────うん、ルーカスはすぐに覚えられるんだね。凄いな。」
「……どうも。」
文字を教えてもらって半年が過ぎたが、やはり兄は何も変わらないまま。
────いや、でも少しは変わったかもしれない。
「確かに人に何かを教えるのは楽しいし気持ちいいんだね。教えてくれてありがとう。」
兄はとても幸せそうに笑う様になっていて、俺にモノを教えるのが本当に楽しいと思っている様だった。
これは異常。
兄に対する違和感は日に日に大きくなっていき、つい余計なお世話だが忠告したくなってしまう。
「本当に頭が悪いよね。一応お貴族様なのに……大丈夫なの?そんなんで。」
貴族って、もっと狡猾でずる賢く、冷徹な面もないとやっていけないんじゃない?
そんな調子だと、アンタが継いだら、あっという間に悪いヤツらに潰されるよ、この家。
怒りも憎しみも、まるで返そうとしてこない兄に苦言混じりに言ってやったが、兄にはあまり通じなかった様だ。
「……えっ?あ~……うん、そうなんだ。僕、物覚えも悪いし、実技も魔法もあんまり才能ないんだよ。
だから、【才能ギフト】は、多分戦闘系でも頭脳系でもないと思う。」
「……いや、能力的な事を言ってるんじゃなくて…………。」
まぁ、確かに、そっちもどうかと思うレベルだけど……。
俺はフッといつも必死に頑張っている兄の勉強風景を思い出す。
座学をやらせれば、何度も何度も同じ所で躓くし、覚えがとても悪い。
剣の授業では、一応剣の型は覚えられても子供のお遊戯レベル。
とてもじゃないが実戦では使えないと思われる。
正直兄には、人の上に立つ様な才能は一つもないと思う。
恐らく【才能ギフト】も、戦闘にも頭脳系でもないと思われる程には……才能らしきモノ見つけられなかった。
それを言ってやろうかと思ったが、なんとなく気分が乗らなくてモゴモゴと口ごもっていると、兄は全然悲しみも怒りもない顔で笑う。
「努力をしてもできない事ってあるんだって、僕はちゃんと理解しているよ。
でも、だからって努力しないのとは違うからね!
僕は頑張る。そして、何かしらの能力があったらラッキーだと思っているんだ。」
「……あ、そう。」
この時、初めて兄に憐れみを抱いた。
でも、ザマァ見ろという気持ちが全然わかずに、それに戸惑い一度ペンが止まってしまう。
?俺はなんで兄にザマァ見ろと思わないんだろう。
だってこんな幸せなヤツが不幸を感じているのだがら、ここで一気に叩き落としたら気持ちいいのを知っているのに……。
使って使われて……そんな関係で成り立つはずの人間関係に、不思議な糸のようなモノがからみついてくる様な気がして、少し怖く思った。
物心ついた時からずっと気づいていたが、俺は元々周りの人間に比べて頭の回転も運動神経も物凄くいいらしく、常に上。
俺が大した事ない事も、周りからすれば『凄い』そうだ。
だから、それに気づいた時から、同じ底辺同士の中で争いになれば、俺が100%勝ってきた。
だから────俺はその楽しさも気持ちよさも知っている。
「知らないのに、なんでそれが良い事だって分かるの?」
まるで見透かされた様に兄が俺に尋ねてきたので、誤魔化すように大声で怒鳴りつけた。
「そっ、そんなの分かって当然だろっ!!だって周りの目はいつだって笑ってる……。
人間は、自分より下の人間を見下すと楽しいし、気持ちいいんだ。
だから常に下を作りたがる。
冗談じゃねぇんだよ、人間なんてみんなクソだ。特にお前みたいな偽善ぶって手を差し伸べようとする奴らは1番嫌いなんだよ。反吐が出る。」
「そ、そっか。」
ここで、自分がいかに自分勝手な言い分を口にしているか気づいたが……それでも自分の心の中から沸き上がる怒りと憎しみは消えなくて、それを兄にぶつけたくて仕方がなかった。
八つ当たりでもなんでもいい。
このどす黒い気持ちが少しでも、楽になるなら。
冷静に考えようとする自分を押さえつけて兄を睨んでいるとらまた兄が妙な事を言い始める。
「あれ?ルーカスが言っている関係って寧ろ良いモノなんじゃ……。
だって、ルーカスは僕にその楽しさや気持ちよさを教えてくれる。そして僕はルーカスに文字を教える……ちゃんと公平になってるよ?僕達。」
「…………は???」
よく分からない公平さを語られ、またしても頭が混乱しそうになったが、理解しようと努力はした。
だが────結局理解する事はできず、これ以上何を出せばいい?と聞いてくる兄に、俺が答えられずにいると、兄は非常に悩ましげな様子を見せる。
「ごめん、これ以上僕に出せるものはないんだ。どうしようか……。一緒に考えてくれる?」
「…………。」
持っているモノなんて一杯あるでしょ?
そう思ったが……なんだかコイツと言い合うのに疲れてしまったのか、口から出たのは「……文字を教えてくれるだけでいい。」という言葉だけだった。
向こうから予想した怒りの感情が帰ってこない事に驚いたせいだ。
でも、どうせ腹の中では怒り狂っているのだろうと思い、ここは引くことにした。
だって普通は怒りには怒り、憎しみには憎しみの感情が帰って来るのが普通なんだから。
同情して優しく接してくるのだって、それと同じ事。
優しくしてやるから、その分優越感という幸せを代わりに返せっていう事で、人間っていうのは全部全部、そういう『公平』な関係しか築けないって事だ。
さぁ、どうやって来る?
嫌がらせをしてくるか、それとも『ルーカスの悲しみを理解している』っていう偽善の皮を被ってくるのか?
答えは────……そのどちらも外れで『普通』。
兄は何も変わらなかった。
俺に文字を教えても、俺に冷たくされても、調子に乗って大層な暴言を吐き出しても、何一つ。
「こっちの文字が『火属性の魔法文字』、そしてコレが『水属性の魔法文字』。────うん、ルーカスはすぐに覚えられるんだね。凄いな。」
「……どうも。」
文字を教えてもらって半年が過ぎたが、やはり兄は何も変わらないまま。
────いや、でも少しは変わったかもしれない。
「確かに人に何かを教えるのは楽しいし気持ちいいんだね。教えてくれてありがとう。」
兄はとても幸せそうに笑う様になっていて、俺にモノを教えるのが本当に楽しいと思っている様だった。
これは異常。
兄に対する違和感は日に日に大きくなっていき、つい余計なお世話だが忠告したくなってしまう。
「本当に頭が悪いよね。一応お貴族様なのに……大丈夫なの?そんなんで。」
貴族って、もっと狡猾でずる賢く、冷徹な面もないとやっていけないんじゃない?
そんな調子だと、アンタが継いだら、あっという間に悪いヤツらに潰されるよ、この家。
怒りも憎しみも、まるで返そうとしてこない兄に苦言混じりに言ってやったが、兄にはあまり通じなかった様だ。
「……えっ?あ~……うん、そうなんだ。僕、物覚えも悪いし、実技も魔法もあんまり才能ないんだよ。
だから、【才能ギフト】は、多分戦闘系でも頭脳系でもないと思う。」
「……いや、能力的な事を言ってるんじゃなくて…………。」
まぁ、確かに、そっちもどうかと思うレベルだけど……。
俺はフッといつも必死に頑張っている兄の勉強風景を思い出す。
座学をやらせれば、何度も何度も同じ所で躓くし、覚えがとても悪い。
剣の授業では、一応剣の型は覚えられても子供のお遊戯レベル。
とてもじゃないが実戦では使えないと思われる。
正直兄には、人の上に立つ様な才能は一つもないと思う。
恐らく【才能ギフト】も、戦闘にも頭脳系でもないと思われる程には……才能らしきモノ見つけられなかった。
それを言ってやろうかと思ったが、なんとなく気分が乗らなくてモゴモゴと口ごもっていると、兄は全然悲しみも怒りもない顔で笑う。
「努力をしてもできない事ってあるんだって、僕はちゃんと理解しているよ。
でも、だからって努力しないのとは違うからね!
僕は頑張る。そして、何かしらの能力があったらラッキーだと思っているんだ。」
「……あ、そう。」
この時、初めて兄に憐れみを抱いた。
でも、ザマァ見ろという気持ちが全然わかずに、それに戸惑い一度ペンが止まってしまう。
?俺はなんで兄にザマァ見ろと思わないんだろう。
だってこんな幸せなヤツが不幸を感じているのだがら、ここで一気に叩き落としたら気持ちいいのを知っているのに……。
使って使われて……そんな関係で成り立つはずの人間関係に、不思議な糸のようなモノがからみついてくる様な気がして、少し怖く思った。
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