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33 ……しいな
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「ルーカス!」
「…………?」
また前の時の様に空いている窓から顔を出すと、ルーカスはキョトンとした様子でコチラを向いた。
そのため僕がちょいちょいと窓の方へ手招きすると、ルーカスは素直にこちらへ来てくれる。
「……何?」
「ルーカス、君はこのままこのトランクを持って隣国へ行って。
行けるよね?君の足なら。」
「…………はぁ?」
何故知っているのか分からず戸惑っている事だろうが、構わない。
とにかくさっさとルーカスを逃がす。
そうしてそこで生きていってくれれば……。
痛む胸元をドンッと強く叩いて落ち着かせると、ルーカスは首を横に倒す。
「兄さんは来ないの?」
すると僕は静かに頷いた。
「うん。僕はココにいないといけないから。
貴族として生まれたからには、ココで責任を取りつづけないと。」
……といっても才能ギフトが判明したら追い出されるんだけどね。
とりあえず胡散臭くない様に精一杯の笑顔で、そう伝えると、ルーカスは一瞬黙った後、了承してくれた。
「……分かった。」
「……うん。せっかくこの家に来てもらったのに、嫌な思いばかりさせてごめんね。
でもルーカスはきっと幸せになれるから、これから自分の幸せを考えて生きていって。
離れていてもルーカスの幸せを祈っているよ。」
「……幸せ…………。」
ルーカスはボソッと呟き何かを考えているようだったが、僕は急いでトランクを押し付ける様に渡す。
「さぁ、じゃあこれでさようならだ。
この中には当分暮らせるくらいのお金と、売ればお金になる貴金属も入れたから、隣国についたらタイミングを見計らって売ってね。」
「…………。」
ルーカスがトランクを受け取ったら、僕は一度だけ小さなルーカスの体をギュッと抱きしめて「さようなら。」とだけ告げて振り返る事なく去った。
そうして夜が明けると、ルーカスがいなくなった事で一旦大騒ぎになったが、父様と母様はモンスターが蔓延る森へと入ったという目撃情報を聞いた後は、寧ろ上機嫌で捜索中止を告げる。
『そんな場所に一人で入れば命はない。』
自らそこへ向かったとあれば、他の貴族に詳しく調べられても問題ないし、死人に口なし。
父様達からしたら願ったり叶ったりの状況だ。
だが僕だけは、ルーカスが無事に隣国に逃げる事ができた事を知っている。
ルーカスの実力はこの時点でとんでもないモノであった事は前回の人生で認知済み。
だからルーカスはきっと無事に隣街に着いて、これから沢山の楽しいモノを探す人生を生きてくれるだろう。
その人生の中に────僕はいない。
「……きっと幸せに…………。」
ルーカスともう二度と会えない事を思うと、胸がズキズキと痛む。
でも、これでいいのだ。
だって僕達は兄弟なんだから、こうして離れた場所で幸せを願う事が正しい。
痛み続ける胸元をトントンと叩くと、僕は気持ちを切り替え、一度目の人生同様精一杯努力して生き、あっという間に七年という月日が流れた。
◇◇
「もうすぐ鑑定の日だね。」
フッと気づくと、またそれだけの月日が流れていた事に驚き、部屋の中で紅茶を入れてくれているリアンに話しかける。
するとリアンは、少し表情を曇らせながら「そうですね。」と答えた。
ルーカスがいない事以外は、一回目の人生に類似している今回の人生。
だから、恐らく両親は遠縁の誰かにクレパス家を継がせようと考え、準備を進めているに違いない。
そのせいで、1回目は気づかなかったが、使用人たちの態度は素っ気なく、変わらない態度を貫いてくれているのはリアンだけだ。
「…………リアンは優しいね。」
つい口に出して言うと、リアンは罪悪感からか、眉を僅かに下げて悲しそうな顔をした。
「……私は優しくなんてありませんよ。」
「いや、凄く優しいと思うよ。いつだって。
だけど安心して欲しいんだ。僕はもう、親の愛情を求めたりしないから。
前にリアンが、『人生は妥協も諦めも必要』って言ってくれて、その通りだなって今はよく分かる。
全部が手に入る人生なんてないね。
届くモノだけ必死に手を伸ばして生きていくからさ。」
リアンの罪悪感を少しでもなくしたくて言った言葉だったが……リアンはとても不思議そうな顔をした。
「申し訳ありません。その様な事を言った覚えがなくて……。
私はいつ、その様な事をグレイ様に……?」
「────あっ!」
ハッ!として僕は口を閉じると、直ぐに「ごめん、勘違いしてた!」と訂正する。
そうか……そう言ってくれたのは一回目の人生だった。
リアンは少し不審がっていたが、そこまで大したことではないと思ったのか、直ぐに紅茶を入れる事に専念し始める。
僕は「んんっ!」と咳払いする事で、話を終えるとモヤッとした想いが浮かんだ。
僕だけが人生をやり直している。
つまり……僕は誰とも記憶の共有ができていないって事だ。
それは────……。
「……しい……な……。」
「?グレイ様、なにか仰いましたか?」
ボソッと呟いた声は、リアンには聞こえなかった様で、何を言ったのか尋ねてきたが、僕は「なんでもない。」と言って首を横に振る。
絶対的な孤独。
時を戻しやり直す事は、それを生み出す。
それに気づいてしまった。
きっと僕は、『寂しい』。これからもずっと、ずっと────。
「…………。」
僕は目を閉じて、瞼の裏に映るルーカスの幸せそうな笑顔を想いだすと、その日はリアンの入れてくれた紅茶がとても苦々しく感じた。
「…………?」
また前の時の様に空いている窓から顔を出すと、ルーカスはキョトンとした様子でコチラを向いた。
そのため僕がちょいちょいと窓の方へ手招きすると、ルーカスは素直にこちらへ来てくれる。
「……何?」
「ルーカス、君はこのままこのトランクを持って隣国へ行って。
行けるよね?君の足なら。」
「…………はぁ?」
何故知っているのか分からず戸惑っている事だろうが、構わない。
とにかくさっさとルーカスを逃がす。
そうしてそこで生きていってくれれば……。
痛む胸元をドンッと強く叩いて落ち着かせると、ルーカスは首を横に倒す。
「兄さんは来ないの?」
すると僕は静かに頷いた。
「うん。僕はココにいないといけないから。
貴族として生まれたからには、ココで責任を取りつづけないと。」
……といっても才能ギフトが判明したら追い出されるんだけどね。
とりあえず胡散臭くない様に精一杯の笑顔で、そう伝えると、ルーカスは一瞬黙った後、了承してくれた。
「……分かった。」
「……うん。せっかくこの家に来てもらったのに、嫌な思いばかりさせてごめんね。
でもルーカスはきっと幸せになれるから、これから自分の幸せを考えて生きていって。
離れていてもルーカスの幸せを祈っているよ。」
「……幸せ…………。」
ルーカスはボソッと呟き何かを考えているようだったが、僕は急いでトランクを押し付ける様に渡す。
「さぁ、じゃあこれでさようならだ。
この中には当分暮らせるくらいのお金と、売ればお金になる貴金属も入れたから、隣国についたらタイミングを見計らって売ってね。」
「…………。」
ルーカスがトランクを受け取ったら、僕は一度だけ小さなルーカスの体をギュッと抱きしめて「さようなら。」とだけ告げて振り返る事なく去った。
そうして夜が明けると、ルーカスがいなくなった事で一旦大騒ぎになったが、父様と母様はモンスターが蔓延る森へと入ったという目撃情報を聞いた後は、寧ろ上機嫌で捜索中止を告げる。
『そんな場所に一人で入れば命はない。』
自らそこへ向かったとあれば、他の貴族に詳しく調べられても問題ないし、死人に口なし。
父様達からしたら願ったり叶ったりの状況だ。
だが僕だけは、ルーカスが無事に隣国に逃げる事ができた事を知っている。
ルーカスの実力はこの時点でとんでもないモノであった事は前回の人生で認知済み。
だからルーカスはきっと無事に隣街に着いて、これから沢山の楽しいモノを探す人生を生きてくれるだろう。
その人生の中に────僕はいない。
「……きっと幸せに…………。」
ルーカスともう二度と会えない事を思うと、胸がズキズキと痛む。
でも、これでいいのだ。
だって僕達は兄弟なんだから、こうして離れた場所で幸せを願う事が正しい。
痛み続ける胸元をトントンと叩くと、僕は気持ちを切り替え、一度目の人生同様精一杯努力して生き、あっという間に七年という月日が流れた。
◇◇
「もうすぐ鑑定の日だね。」
フッと気づくと、またそれだけの月日が流れていた事に驚き、部屋の中で紅茶を入れてくれているリアンに話しかける。
するとリアンは、少し表情を曇らせながら「そうですね。」と答えた。
ルーカスがいない事以外は、一回目の人生に類似している今回の人生。
だから、恐らく両親は遠縁の誰かにクレパス家を継がせようと考え、準備を進めているに違いない。
そのせいで、1回目は気づかなかったが、使用人たちの態度は素っ気なく、変わらない態度を貫いてくれているのはリアンだけだ。
「…………リアンは優しいね。」
つい口に出して言うと、リアンは罪悪感からか、眉を僅かに下げて悲しそうな顔をした。
「……私は優しくなんてありませんよ。」
「いや、凄く優しいと思うよ。いつだって。
だけど安心して欲しいんだ。僕はもう、親の愛情を求めたりしないから。
前にリアンが、『人生は妥協も諦めも必要』って言ってくれて、その通りだなって今はよく分かる。
全部が手に入る人生なんてないね。
届くモノだけ必死に手を伸ばして生きていくからさ。」
リアンの罪悪感を少しでもなくしたくて言った言葉だったが……リアンはとても不思議そうな顔をした。
「申し訳ありません。その様な事を言った覚えがなくて……。
私はいつ、その様な事をグレイ様に……?」
「────あっ!」
ハッ!として僕は口を閉じると、直ぐに「ごめん、勘違いしてた!」と訂正する。
そうか……そう言ってくれたのは一回目の人生だった。
リアンは少し不審がっていたが、そこまで大したことではないと思ったのか、直ぐに紅茶を入れる事に専念し始める。
僕は「んんっ!」と咳払いする事で、話を終えるとモヤッとした想いが浮かんだ。
僕だけが人生をやり直している。
つまり……僕は誰とも記憶の共有ができていないって事だ。
それは────……。
「……しい……な……。」
「?グレイ様、なにか仰いましたか?」
ボソッと呟いた声は、リアンには聞こえなかった様で、何を言ったのか尋ねてきたが、僕は「なんでもない。」と言って首を横に振る。
絶対的な孤独。
時を戻しやり直す事は、それを生み出す。
それに気づいてしまった。
きっと僕は、『寂しい』。これからもずっと、ずっと────。
「…………。」
僕は目を閉じて、瞼の裏に映るルーカスの幸せそうな笑顔を想いだすと、その日はリアンの入れてくれた紅茶がとても苦々しく感じた。
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