【完結】みにくい勇者の子

バナナ男さん

文字の大きさ
17 / 20

16 大丈夫らしい

しおりを挟む
「そ……そんな……っ!」

「…………。」

本気でショックを受けているスカイ様を見て、分かり会える日は絶対ないなと思った。
そのためゆっくりとスカイ様から離れようとしたのだが────……。

────ガシッ!!!

スカイ様が強く俺の腕を掴む。

「だ、だって……俺、カッコいいだろう?
強いし、顔もいいし……それに地位だって、国を救う光の勇者にまでなったよ……?」

「は、はぁ……。す、凄いですね。」

それは確かに凄い事なので素直に褒めると、スカイ様はパァ!と目を輝かせた。

「そうだろう!俺は凄いんだ!だから、そんな俺をムギは好きになるはずだろう?
あんな、つるつるカエルもどきが大ジャンプするより凄いんだから!!」

「えっ?つるつるカエル……??」

チリッ……と記憶に引っかかる言葉に、俺は眉をひそめてスカイ様を見つめる。

「……えっと?るつるカエルって、まさかイボイボ・ケロッグの事ですか?」

「そうだ!前に見せてくれただろう?
一匹だけつるつるで、高く飛べるからモテモテになっていたカエルもどきを!」

その話を聞いて、俺は驚きに目を見張りながらスカイ様を指さした。

「ま……まさかお前……コロ??」

「そうだ。今頃気付いたか!記憶力も農夫レベルだな!!」

堂々と頷くスカイ様に……俺の目玉はポポーン!!と飛び出し、行方不明に!

だって外見が違い過ぎるし……そもそも運動系全滅している様な動きしかしてなかったから!

畑を耕すクワすらまともに振れなかったコロを思い出しながら首を傾げたが、とりあえず再開できた事を喜び、スカイ様改めコロの両肩をポンポンと叩いた。

「うわ~!コロ、久しぶりだな!!全然外見が違うから気が付かなかったぞ。
元気そうで何よりだ。俺は凄く嬉しい!」

「!!ふ、ふんっ!!あの頃はちょっとアレな姿だったし……。ま、まぁ!俺だと気づかなかった事は許してやろう!仕方ないし……!!」

真っ赤な顔でモジモジするコロに、村民と騎士たちは呆然としていて、更に満身創痍で戻ってきたアース様も真っ白になっている。

俺はというと、おっかなくて意味不明な変人から、昔面倒みたツンツン弟分へとイメージがシフトしすっかり安心し、砕けた態度でコロに尋ねる。

「突然いなくなったから心配したんだぞ。どうして何にも言わずにいなくなったんだよ……。せっかくお前の分の野菜スープ、たくさん作って待っていたのに。」

「野菜スープ……飲みたかったな……。
────っじゃなくて!農夫如きが知り得ない大事な大事な仕事があったんだ!だから言付けだけして……宣言通り貰いにきたんだぞ!」

心做しかシュン……としょげてしまったコロに、気にしてないといわんばかりに、もう一度優しく肩を叩く。

「もしかして光の勇者としての使命的なヤツか……?
うんうん、俺みたいな農夫には分からない深い事情があったんだな~。
とりあえず、あれから俺の畑も大きくなってさ。これから見に来ないか?
なんでも貰ってっていいぞ。」

「────っ!!し、仕方ないなっ!貰ってやろう!や、約束だしな!」

カァ!と真っ赤になって頷くコロ。
そんなに俺の育てた野菜を好きになってくれるなんて……!と感動しながら、俺はムクッと立ち上がった。
すると……自分の恥ずかしいだけの格好を見下ろし、続けて恥ずかしそうに下を向いているコロを見つめる。

「そもそもお前……どうしてこんな怒ったり乱暴な言い方したりしたんだ?
こんなわけのわからない事までして……。
普通に『久しぶり~!』でいいじゃないか。……おえっぷ!……く、苦しい……。」

俺が苦しみながら少し非難する様に言うと、コロはまたモジモジと身体を揺らした。

「だ、だって……。恥ずかし────……じゃなくて!!
い、いいじゃないか!ムギは俺の言う事をただ全部聞けばいいんだ!一々煩いぞ!!」

ガーッ!!と突然怒るコロに、大きなため息をつく。

またわけのわからない事を……。

素直に『お野菜下さい』が言えないコロを、呆れたように見つめた。

コロは極度の恥ずかしがり屋&天邪鬼で、昔からわけのわからない言い回しや行動も多く、きっとまたとんでもない誤解や勘違いをしたに違いない。

あんまり人付き合いも得意じゃなかったし……基本的に人との距離の詰め方に失敗しているんだろうな……。

周りでコロがこんなよく分からない事をしても、仲間である騎士たちは誰も止めない事から、多分本格的にちょっと変な人扱いされている可能性もある。

あ、でも憧れが人を遠ざけちゃっているのもあるのか……。

変な服を持ってきてくれた騎士たちが言っていた言葉を思い出し、やれやれと肩を竦めた。

「ハァ~……全く仕方ないな、コロは~。」

これは昔馴染として、ちゃんと嫌な事は嫌だと言わないと!

とりあえず俺は自分の腹を苦しめるコルセットの紐を緩めて、やっとの事でベリーん!と外すと、そのまま恥ずかしいだけのガーターも脱ぐ。
そして女物のパンツ一丁になると、呆けているコロに向かい手招きした。

「もう今日はこのまま畑仕事しちゃおう!どうせ泥だらけになって捨てちゃうし……。
コロも野菜スープ飲みたいなら、収穫を手伝ってくれよ。」

「…………。」

コロは俺のフリフリ女物パンツを履いている身体を凝視しながら、ただコクコクと頷く。
そしてそのまま意識半分でついてくるので、俺はその場で放心している村長へ『大丈夫で~す!』と身振り手振りで伝えた。

スカイ様だと怖いけど、コロは大丈夫。
冷静さを取り戻したコロは無害。
だからOK~♬

そう伝えると、村長は大量に出ていた汗を拭い、ジロとニコもホッとしながら、俺の遺影??の様な似顔絵を破り捨てている。
更によく見ると、残されていた村民達の手にはそこら辺で毟った小さな花たちが握られていた。

……皆、また俺の葬式用の準備をしてたんだ。
────不吉!

複雑な気持ちだったが、生きていたのでよし!
ただアース様が凄い睨んでいるから、殺されそうで怖い!

「……排除せよ……排除せよ、平凡クソゴミ農夫めぇ~!!」

何度ふっ飛ばされても俺に殺意を向けてくるアース様。
その口から物騒な言葉の数々が飛び出したので、俺は早々にその場から逃げ出した。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

【完結】勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん<山野 石郎>改め【イシ】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中……俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない<覗く>という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

ワケありくんの愛され転生

鬼塚ベジータ
BL
彼は”勇敢な魂"として、彼が望むままに男同士の恋愛が当たり前の世界に転生させてもらえることになった。しかし彼が宿った体は、婚活をバリバリにしていた平凡なベータの伯爵家の次男。さらにお見合いの直前に転生してしまい、やけに顔のいい執事に連れられて3人の男(イケメン)と顔合わせをさせられた。見合いは辞退してイケメン同士の恋愛を拝もうと思っていたのだが、なぜかそれが上手くいかず……。 アルファ4人とオメガ1人に愛される、かなり変わった世界から来た彼のお話。 ※オメガバース設定です。

ヤリチン伯爵令息は年下わんこに囚われ首輪をつけられる

桃瀬さら
BL
「僕のモノになってください」 首輪を持った少年はレオンに首輪をつけた。 レオンは人に誇れるような人生を送ってはこなかった。だからといって、誰かに狙われるようないわれもない。 ストーカーに悩まされていたレある日、ローブを着た不審な人物に出会う。 逃げるローブの人物を追いかけていると、レオンは気絶させられ誘拐されてしまう。 マルセルと名乗った少年はレオンを閉じ込め、痛めつけるでもなくただ日々を過ごすだけ。 そんな毎日にいつしかレオンは安らぎを覚え、純粋なマルセルに毒されていく。 近づいては離れる猫のようなマルセル×囚われるレオン

世界一大好きな番との幸せな日常(と思っているのは)

かんだ
BL
現代物、オメガバース。とある理由から専業主夫だったΩだけど、いつまでも番のαに頼り切りはダメだと働くことを決めたが……。 ド腹黒い攻めαと何も知らず幸せな檻の中にいるΩの話。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

ヤバい奴に好かれてます。

たいら
BL
主人公の野坂はある日、上司である久保田に呼び出された。その日から久保田による偏狭的な愛を一身に受ける日々が始まった。 他サイトにも掲載しています。

復讐の鎖に繋がれた魔王は、光に囚われる。

篠雨
BL
予言の魔王として闇に閉ざされた屋敷に隔離されていたノアール。孤独な日々の中、彼は唯一の光であった少年セレを、手元に鎖で繋ぎ留めていた。 3年後、鎖を解かれ王城に連れ去られたセレは、光の勇者としてノアールの前に戻ってきた。それは、ノアールの罪を裁く、滅却の剣。 ノアールが死を受け入れる中、勇者セレが選んだのは、王城の命令に背き、彼を殺さずに再び鎖で繋ぎ直すという、最も歪んだ復讐だった。 「お前は俺の獲物だ。誰にも殺させないし、絶対に離してなんかやらない」 孤独と憎悪に囚われた勇者は、魔王を「復讐の道具」として秘密裏に支配下に置く。しかし、制御不能な力を持つ勇者を恐れた王城は、ついに二人を排除するための罠を仕掛ける。 歪んだ愛憎と贖罪が絡み合う、光と闇の立場が逆転した物語――彼らの運命は、どこへ向かうのか。 ----------------------------------------- 完結まで予約投稿済みです。 (0時,6時,10時,14時,18時,22時に更新) 完結まで約5.5万字程となっています。

処理中です...