48 / 105
48
しおりを挟む
……企みは上々のように見えました。
このような細工を思いついたのは夫人が初めてというわけではありません。
財政が逼迫している良家という存在は、上流や下級に関わらずそう珍しいことではなくて……
それだけ、先人たちが知恵を重ねて、どうにか資産を逃がさないように編み出した手法のうちの一つです。
(そう……こうやって仕込みさえしておけば、役人の来襲だって何てことはないよ)
従業員を取りまとめている男性にもそう言いつけ、夫人は椅子から立ち上がりました。
「それじゃ、後は任せたからね。また近いうちに見に来るから……それから、今後のことだけど……」
使用人に預けていた帽子を被り直すと、扉の方へ歩みを進めながらいくつか指示も送ります。
それらの一つ一つにメモを取ったり、また暗記をしながら男性は頷きます。
「はい、かしこまりました。おい、お前たち。奥様がお帰りだ」
男性の一声で従業員たちは皆立ち上がり、顔を伏せるようにして夫人を見送ります。
そのまま、男性だけは施設の外まで来て、馬車へと乗り込む夫人の姿を見届けました。
馬車の窓から日よけのカーテンを少しだけ開けて、夫人は外にいる男性へと短く告げます。
「良いかい、前々から言ってはいるけどね。くれぐれも、直接屋敷の方へ来るなんてことがないように」
「は!それはもう重々皆にも言い聞かせてありますので……道中、お気を付けくださいませ」
男性の言葉を聞き終えた夫人がカーテンを閉め、御者へ短い合図を送ります。
馬車はまた、来た道を戻って侯爵家の屋敷へと静かに走り出しました。
このような細工を思いついたのは夫人が初めてというわけではありません。
財政が逼迫している良家という存在は、上流や下級に関わらずそう珍しいことではなくて……
それだけ、先人たちが知恵を重ねて、どうにか資産を逃がさないように編み出した手法のうちの一つです。
(そう……こうやって仕込みさえしておけば、役人の来襲だって何てことはないよ)
従業員を取りまとめている男性にもそう言いつけ、夫人は椅子から立ち上がりました。
「それじゃ、後は任せたからね。また近いうちに見に来るから……それから、今後のことだけど……」
使用人に預けていた帽子を被り直すと、扉の方へ歩みを進めながらいくつか指示も送ります。
それらの一つ一つにメモを取ったり、また暗記をしながら男性は頷きます。
「はい、かしこまりました。おい、お前たち。奥様がお帰りだ」
男性の一声で従業員たちは皆立ち上がり、顔を伏せるようにして夫人を見送ります。
そのまま、男性だけは施設の外まで来て、馬車へと乗り込む夫人の姿を見届けました。
馬車の窓から日よけのカーテンを少しだけ開けて、夫人は外にいる男性へと短く告げます。
「良いかい、前々から言ってはいるけどね。くれぐれも、直接屋敷の方へ来るなんてことがないように」
「は!それはもう重々皆にも言い聞かせてありますので……道中、お気を付けくださいませ」
男性の言葉を聞き終えた夫人がカーテンを閉め、御者へ短い合図を送ります。
馬車はまた、来た道を戻って侯爵家の屋敷へと静かに走り出しました。
62
あなたにおすすめの小説
本日、私の妹のことが好きな婚約者と結婚いたしました
音芽 心
恋愛
私は今日、幼い頃から大好きだった人と結婚式を挙げる。
____私の妹のことが昔から好きな婚約者と、だ。
だから私は決めている。
この白い結婚を一年で終わらせて、彼を解放してあげることを。
彼の気持ちを直接聞いたことはないけれど……きっとその方が、彼も喜ぶだろうから。
……これは、恋を諦めていた令嬢が、本当の幸せを掴むまでの物語。
『婚約者を大好きな自分』を演じてきた侯爵令嬢、自立しろと言われたので、好き勝手に生きていくことにしました
皇 翼
恋愛
「リーシャ、君も俺にかまってばかりいないで、自分の趣味でも見つけて自立したらどうだ?正直、こうやって話しかけられるのはその――やめて欲しいんだ……周りの目もあるし、君なら分かるだろう?」
頭を急に鈍器で殴られたような感覚に陥る一言だった。
彼がチラリと見るのは周囲。2学年上の彼の教室の前であったというのが間違いだったのかもしれない。
この一言で彼女の人生は一変した――。
******
※タイトル少し変えました。
・暫く書いていなかったらかなり文体が変わってしまったので、書き直ししています。
・トラブル回避のため、完結まで感想欄は開きません。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?
綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。
相手はとある貴族のご令嬢。
確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。
別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。
何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?
『恋心を凍らせる薬を飲みました』 - 残りの学園生活、どうぞご自由にお遊びください、婚約者様
恋せよ恋
恋愛
愛されることを諦めた。だから、私は心を凍らせた。
不誠実な婚約者・ユリアンの冷遇に耐えかねたヤスミンは、
伝説の魔女の元を訪れ、恋心を消し去る「氷の薬」を飲む。
感情を捨て、完璧な「人形」となった彼女を前に、
ユリアンは初めて己の罪と執着に狂い始める。
「お願いだ、前のように僕を愛して泣いてくれ!」
足元に跪き、涙を流して乞う男に、ヤスミンは冷酷に微笑む。
「愛?……あいにく、そのような無駄な感情は捨てましたわ」
一度凍りついた心は、二度と溶けない。
後悔にのたうち回る男と、心を凍らせた冷徹な公爵夫人の、
終わりのない贖罪の記録。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
平民とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の王と結婚しました
ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・ベルフォード、これまでの婚約は白紙に戻す」
その言葉を聞いた瞬間、私はようやく――心のどこかで予感していた結末に、静かに息を吐いた。
王太子アルベルト殿下。金糸の髪に、これ見よがしな笑み。彼の隣には、私が知っている顔がある。
――侯爵令嬢、ミレーユ・カスタニア。
学園で何かと殿下に寄り添い、私を「高慢な婚約者」と陰で嘲っていた令嬢だ。
「殿下、どういうことでしょう?」
私の声は驚くほど落ち着いていた。
「わたくしは、あなたの婚約者としてこれまで――」
訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果
柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。
彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。
しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。
「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」
逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。
あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。
しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。
気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……?
虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。
※小説家になろうに重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる