姑が勝手に連れてきた第二夫人が身籠ったようですが、夫は恐らく……

泉花ゆき

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時は現在に戻ります。

あの騒がしい裁判の日から、数か月が経過しました。

 凌家の醜聞は、今では人々の記憶の隅へと追いやられつつありましたが……その当事者であった蘭珠ランジュの生活は、いまだに落ち着きを取り戻したとは言い難い状況にありました。

蘭珠ランジュは自邸の書斎で、山のように積まれた書類を前にしていました。
凌家から返還された膨大な持参金を再度管理し……すでに使い込まれて戻らない分は、差し押さえられた資産があります。そちらの目録も確認しなければなりません。

そこへ、幼馴染であり従姉妹でもある魅音ミオンが訪ねてきました。 彼女は手慣れた様子で侍女が用意した茶器を並べ、持参した焼き菓子を皿に盛り付けます。

「少し休んだほうがいいわ、せっかく健康になってきたっていうのに」

魅音ミオンの声に、蘭珠ランジュはようやく肩の力を抜いてペンを置きました。

「そうね……けれど、きちんと整理しておかないと……」

「そんなに慎重にならなくても、今のあなたは国でも聡明だと有名なんだから。ねえ、それより……こっちはまた増えてるんじゃない?」

魅音ミオンがいたずらっぽく視線を向けた先には、事務用とはとても思えない封筒が束で積まれていました。
 蘭珠ランジュを妻にと求める縁談の申し込みです。彼女は、少し困ったように眉を下げました。

「……そうなの。お断りしても、次から次へと届いて」

「当然よね。身の潔白が公に証明されたんだもの。あなたみたいな子を周囲の方たちが放っておくはずがないわ」

蘭珠ランジュは苦笑いしながら茶器を手に取ります。

かつて凌家にいた頃、自分は子を成せぬ役立たずという烙印を押され、誰からも見向きもされない存在だと思い込まされていました。 
しかし今手元にあるのは、手のひらを返したような称賛と求婚の言葉ばかりです。 

自嘲的な気分になると同時に、今の自分の自由を実感させるものでもありました。

「……それで結局、あの人たちはどうなったのかしら?」

蘭珠ランジュがふと思い出したように尋ねます。 直接的に名前は出さなくとも、それが誰を指しているかは魅音ミオンにもすぐに伝わりました。

「凌家の人たちのこと?もう、惨めなものよ」


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