104 / 105
104
時は現在に戻ります。
あの騒がしい裁判の日から、数か月が経過しました。
凌家の醜聞は、今では人々の記憶の隅へと追いやられつつありましたが……その当事者であった蘭珠の生活は、いまだに落ち着きを取り戻したとは言い難い状況にありました。
蘭珠は自邸の書斎で、山のように積まれた書類を前にしていました。
凌家から返還された膨大な持参金を再度管理し……すでに使い込まれて戻らない分は、差し押さえられた資産があります。そちらの目録も確認しなければなりません。
そこへ、幼馴染であり従姉妹でもある魅音が訪ねてきました。 彼女は手慣れた様子で侍女が用意した茶器を並べ、持参した焼き菓子を皿に盛り付けます。
「少し休んだほうがいいわ、せっかく健康になってきたっていうのに」
魅音の声に、蘭珠はようやく肩の力を抜いてペンを置きました。
「そうね……けれど、きちんと整理しておかないと……」
「そんなに慎重にならなくても、今のあなたは国でも聡明だと有名なんだから。ねえ、それより……こっちはまた増えてるんじゃない?」
魅音がいたずらっぽく視線を向けた先には、事務用とはとても思えない封筒が束で積まれていました。
蘭珠を妻にと求める縁談の申し込みです。彼女は、少し困ったように眉を下げました。
「……そうなの。お断りしても、次から次へと届いて」
「当然よね。身の潔白が公に証明されたんだもの。あなたみたいな子を周囲の方たちが放っておくはずがないわ」
蘭珠は苦笑いしながら茶器を手に取ります。
かつて凌家にいた頃、自分は子を成せぬ役立たずという烙印を押され、誰からも見向きもされない存在だと思い込まされていました。
しかし今手元にあるのは、手のひらを返したような称賛と求婚の言葉ばかりです。
自嘲的な気分になると同時に、今の自分の自由を実感させるものでもありました。
「……それで結局、あの人たちはどうなったのかしら?」
蘭珠がふと思い出したように尋ねます。 直接的に名前は出さなくとも、それが誰を指しているかは魅音にもすぐに伝わりました。
「凌家の人たちのこと?もう、惨めなものよ」
あの騒がしい裁判の日から、数か月が経過しました。
凌家の醜聞は、今では人々の記憶の隅へと追いやられつつありましたが……その当事者であった蘭珠の生活は、いまだに落ち着きを取り戻したとは言い難い状況にありました。
蘭珠は自邸の書斎で、山のように積まれた書類を前にしていました。
凌家から返還された膨大な持参金を再度管理し……すでに使い込まれて戻らない分は、差し押さえられた資産があります。そちらの目録も確認しなければなりません。
そこへ、幼馴染であり従姉妹でもある魅音が訪ねてきました。 彼女は手慣れた様子で侍女が用意した茶器を並べ、持参した焼き菓子を皿に盛り付けます。
「少し休んだほうがいいわ、せっかく健康になってきたっていうのに」
魅音の声に、蘭珠はようやく肩の力を抜いてペンを置きました。
「そうね……けれど、きちんと整理しておかないと……」
「そんなに慎重にならなくても、今のあなたは国でも聡明だと有名なんだから。ねえ、それより……こっちはまた増えてるんじゃない?」
魅音がいたずらっぽく視線を向けた先には、事務用とはとても思えない封筒が束で積まれていました。
蘭珠を妻にと求める縁談の申し込みです。彼女は、少し困ったように眉を下げました。
「……そうなの。お断りしても、次から次へと届いて」
「当然よね。身の潔白が公に証明されたんだもの。あなたみたいな子を周囲の方たちが放っておくはずがないわ」
蘭珠は苦笑いしながら茶器を手に取ります。
かつて凌家にいた頃、自分は子を成せぬ役立たずという烙印を押され、誰からも見向きもされない存在だと思い込まされていました。
しかし今手元にあるのは、手のひらを返したような称賛と求婚の言葉ばかりです。
自嘲的な気分になると同時に、今の自分の自由を実感させるものでもありました。
「……それで結局、あの人たちはどうなったのかしら?」
蘭珠がふと思い出したように尋ねます。 直接的に名前は出さなくとも、それが誰を指しているかは魅音にもすぐに伝わりました。
「凌家の人たちのこと?もう、惨めなものよ」
あなたにおすすめの小説
【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです
唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。
すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。
「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて――
一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。
今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。
ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ
ハートリオ
恋愛
結婚式で新郎に『君じゃない』と叫ばれたのはウィオラ。
スピーナ子爵家の次女。
どうやら新郎が結婚する積りだったのは姉のリリウム。
ウィオラはいつも『じゃない方』
認められない、
選ばれない…
そんなウィオラは――
中世ヨーロッパ風異世界でのお話です。
よろしくお願いします。
「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった
歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。
だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」
追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。
一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。
誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。
「その言葉は、もう翻訳できません」
『婚約破棄だ』と王子が告げた瞬間、王城の花が枯れ、泉が涸れ、空が曇った——令嬢に宿る精霊の加護を、誰も知らなかった
歩人
ファンタジー
公爵令嬢エレオノーラは、生まれつき大精霊の加護を宿していた。
しかし本人も、それが自分の力だとは知らなかった。
王城の庭園が四季を問わず花で溢れていたのも、泉が枯れなかったのも、
王都に災害が起きなかったのも——全てエレオノーラの存在がもたらす精霊の恩恵だった。
王子に「地味で退屈な女」と婚約破棄され、王城を去った瞬間——
花が萎れ、泉が涸れ、空が曇り始めた。
追放されたエレオノーラが辺境の荒野に足を踏み入れると、枯れた大地に花が咲き乱れた。
そのとき初めて、彼女は自分の中にある力に気づく。
【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜
恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」
不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。
結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、
「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。
元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。
独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場!
無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。
記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける!
※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。
苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる
物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました
蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。
家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。
アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。
閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。
養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。
※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。