7 / 92
7
その時の私には、ぎこちなく微笑むのが精いっぱいでした。
……何せ、ご家族への挨拶だと聞いていたのだから。
侯爵家に着いてから、緊張しかしていなかったのです。
けれど私の戸惑いは、二人には少し異なったように伝わったようでした。
「あれ~。もしかして……私たちが仲良すぎて、嫉妬させちゃったかな?」
カレン様は、いたずらっぽく私にウィンクをしてみせました。アルフレッド様は顔を赤くして笑っています。
「まさか、リリアーナはそんな心の狭い子じゃないよ」
(……心の、狭い……?)
その言葉が、私の胸に小さな針のように刺さりました。アルフレッド様は、私が嫌だと感じることなんて、最初から想定していないようです。
自由恋愛で結ばれた私たちは、学園でそれなりの時間を過ごし様々なことを話しました。けれどこんなことは聞いていなかった。
(……もしも、この目の前の光景を当たり前だとして受け入れなければならないのだとしたら……?)
カレン様は私の表情をどう読み取ったのか、さらに一歩、距離を詰めてきました。
「リリアーナちゃん、あんまり緊張しなくていいよ!私はアルの右腕みたいなもんだからさ。これからは私のことも、お姉さんだと思って何でも頼ってね」
「カレンは、僕より三つ歳上なんだ」
(三つも上の年齢のご令嬢が、こんなに幼稚な行いを……?)
「あ、でも私、女同士のドロドロしたのって大嫌いなんだよね。だから、隠し事なしで行こうよ」
「カレンらしいな」
アルフレッド様は、彼女のそんな言葉を微笑ましく見つめています。
私へと掛ける言葉も、心なしかいつもより砕けているようでした。
「ほらリリアーナ。カレンがこう言ってくれているんだ。心強いだろう? 君がこの家に馴染めるように、彼女も協力してくれるってさ」
……私は、なんと答えればよかったのでしょうか。
アルフレッド様。
(あなたが家族みたいなものと紹介した彼女のは笑っているけれど。その笑顔の瞳の奥に、私を値踏みするような鋭い光があることに、あなたは気づいていないのですか?)
「……はい。よろしくお願いいたします、カレン様」
私が精一杯の笑みを作ってそう答えると、カレン様は満足そうに頷きました。
「よし!じゃあー、とりあえずお茶にしよー。アル、私いつものあのお菓子がいいな。おばさまに言って持ってきてよ!」
「ああ、あのクッキーか。カレンは本当にあれが好きだな」
自然な動作で扉の方へ向かおうとするアルフレッド様と、それを追いかけるカレン様。 ……主客が逆転したようなその光景を、私はただサロンの入り口で立ち尽くして見つめることしかできませんでした。
まだ、挨拶すらまともに終わっていないというのに。
私の長期休暇は、こうして始まったのです。
……何せ、ご家族への挨拶だと聞いていたのだから。
侯爵家に着いてから、緊張しかしていなかったのです。
けれど私の戸惑いは、二人には少し異なったように伝わったようでした。
「あれ~。もしかして……私たちが仲良すぎて、嫉妬させちゃったかな?」
カレン様は、いたずらっぽく私にウィンクをしてみせました。アルフレッド様は顔を赤くして笑っています。
「まさか、リリアーナはそんな心の狭い子じゃないよ」
(……心の、狭い……?)
その言葉が、私の胸に小さな針のように刺さりました。アルフレッド様は、私が嫌だと感じることなんて、最初から想定していないようです。
自由恋愛で結ばれた私たちは、学園でそれなりの時間を過ごし様々なことを話しました。けれどこんなことは聞いていなかった。
(……もしも、この目の前の光景を当たり前だとして受け入れなければならないのだとしたら……?)
カレン様は私の表情をどう読み取ったのか、さらに一歩、距離を詰めてきました。
「リリアーナちゃん、あんまり緊張しなくていいよ!私はアルの右腕みたいなもんだからさ。これからは私のことも、お姉さんだと思って何でも頼ってね」
「カレンは、僕より三つ歳上なんだ」
(三つも上の年齢のご令嬢が、こんなに幼稚な行いを……?)
「あ、でも私、女同士のドロドロしたのって大嫌いなんだよね。だから、隠し事なしで行こうよ」
「カレンらしいな」
アルフレッド様は、彼女のそんな言葉を微笑ましく見つめています。
私へと掛ける言葉も、心なしかいつもより砕けているようでした。
「ほらリリアーナ。カレンがこう言ってくれているんだ。心強いだろう? 君がこの家に馴染めるように、彼女も協力してくれるってさ」
……私は、なんと答えればよかったのでしょうか。
アルフレッド様。
(あなたが家族みたいなものと紹介した彼女のは笑っているけれど。その笑顔の瞳の奥に、私を値踏みするような鋭い光があることに、あなたは気づいていないのですか?)
「……はい。よろしくお願いいたします、カレン様」
私が精一杯の笑みを作ってそう答えると、カレン様は満足そうに頷きました。
「よし!じゃあー、とりあえずお茶にしよー。アル、私いつものあのお菓子がいいな。おばさまに言って持ってきてよ!」
「ああ、あのクッキーか。カレンは本当にあれが好きだな」
自然な動作で扉の方へ向かおうとするアルフレッド様と、それを追いかけるカレン様。 ……主客が逆転したようなその光景を、私はただサロンの入り口で立ち尽くして見つめることしかできませんでした。
まだ、挨拶すらまともに終わっていないというのに。
私の長期休暇は、こうして始まったのです。
あなたにおすすめの小説
真実の愛の裏側
藍田ひびき
恋愛
アレックス・ロートン侯爵令息の第一夫人シェリルが療養のため領地へ居を移した。それは療養とは名ばかりの放逐。
男爵家出身でありながら侯爵令息に見初められ、「真実の愛」と持て囃された彼女の身に何があったのか。その裏に隠された事情とは――?
※ 他サイトにも投稿しています。
王太子の愚行
よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。
彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。
婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。
さて、男爵令嬢をどうするか。
王太子の判断は?
心の中にあなたはいない
ゆーぞー
恋愛
姉アリーのスペアとして誕生したアニー。姉に成り代われるようにと育てられるが、アリーは何もせずアニーに全て押し付けていた。アニーの功績は全てアリーの功績とされ、周囲の人間からアニーは役立たずと思われている。そんな中アリーは事故で亡くなり、アニーも命を落とす。しかしアニーは過去に戻ったため、家から逃げ出し別の人間として生きていくことを決意する。
一方アリーとアニーの死後に真実を知ったアリーの夫ブライアンも過去に戻りアニーに接触しようとするが・・・。
彼は亡国の令嬢を愛せない
黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。
ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。
※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。
※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。
愛はリンゴと同じ
turarin
恋愛
学園時代の同級生と結婚し、子供にも恵まれ幸せいっぱいの公爵夫人ナタリー。ところが、ある日夫が平民の少女をつれてきて、別邸に囲うと言う。
夫のナタリーへの愛は減らない。妾の少女メイリンへの愛が、一つ増えるだけだと言う。夫の愛は、まるでリンゴのように幾つもあって、皆に与えられるものなのだそうだ。
ナタリーのことは妻として大切にしてくれる夫。貴族の妻としては当然受け入れるべき。だが、辛くて仕方がない。ナタリーのリンゴは一つだけ。
幾つもあるなど考えられない。
居場所を失った令嬢と結婚することになった男の葛藤
しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢ロレーヌは悪女扱いされて婚約破棄された。
父親は怒り、修道院に入れようとする。
そんな彼女を助けてほしいと妻を亡くした28歳の子爵ドリューに声がかかった。
学園も退学させられた、まだ16歳の令嬢との結婚。
ロレーヌとの初夜を少し先に見送ったせいで彼女に触れたくなるドリューのお話です。
婚約者様への逆襲です。
有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。
理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。
だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。
――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」
すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。
そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。
これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。
断罪は終わりではなく、始まりだった。
“信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。