親同士の決め事でしょう?

泉花ゆき

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その時の私には、ぎこちなく微笑むのが精いっぱいでした。

……何せ、ご家族への挨拶だと聞いていたのだから。
侯爵家に着いてから、緊張しかしていなかったのです。  

けれど私の戸惑いは、二人には少し異なったように伝わったようでした。

「あれ~。もしかして……私たちが仲良すぎて、嫉妬させちゃったかな?」

カレン様は、いたずらっぽく私にウィンクをしてみせました。アルフレッド様は顔を赤くして笑っています。

「まさか、リリアーナはそんな心の狭い子じゃないよ」

(……心の、狭い……?)

その言葉が、私の胸に小さな針のように刺さりました。アルフレッド様は、私が嫌だと感じることなんて、最初から想定していないようです。 

自由恋愛で結ばれた私たちは、学園でそれなりの時間を過ごし様々なことを話しました。けれどこんなことは聞いていなかった。

(……もしも、この目の前の光景を当たり前だとして受け入れなければならないのだとしたら……?)

カレン様は私の表情をどう読み取ったのか、さらに一歩、距離を詰めてきました。

「リリアーナちゃん、あんまり緊張しなくていいよ!私はアルの右腕みたいなもんだからさ。これからは私のことも、お姉さんだと思って何でも頼ってね」

「カレンは、僕より三つ歳上なんだ」

(三つも上の年齢のご令嬢が、こんなに幼稚な行いを……?)

「あ、でも私、女同士のドロドロしたのって大嫌いなんだよね。だから、隠し事なしで行こうよ」

「カレンらしいな」

アルフレッド様は、彼女のそんな言葉を微笑ましく見つめています。
私へと掛ける言葉も、心なしかいつもより砕けているようでした。

「ほらリリアーナ。カレンがこう言ってくれているんだ。心強いだろう? 君がこの家に馴染めるように、彼女も協力してくれるってさ」

……私は、なんと答えればよかったのでしょうか。

アルフレッド様。

(あなたが家族みたいなものと紹介した彼女のは笑っているけれど。その笑顔の瞳の奥に、私を値踏みするような鋭い光があることに、あなたは気づいていないのですか?)

「……はい。よろしくお願いいたします、カレン様」

私が精一杯の笑みを作ってそう答えると、カレン様は満足そうに頷きました。

「よし!じゃあー、とりあえずお茶にしよー。アル、私いつものあのお菓子がいいな。おばさまに言って持ってきてよ!」 

「ああ、あのクッキーか。カレンは本当にあれが好きだな」

自然な動作で扉の方へ向かおうとするアルフレッド様と、それを追いかけるカレン様。 ……主客が逆転したようなその光景を、私はただサロンの入り口で立ち尽くして見つめることしかできませんでした。

まだ、挨拶すらまともに終わっていないというのに。
私の長期休暇は、こうして始まったのです。

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