親同士の決め事でしょう?

泉花ゆき

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「弟ですか。エリオットが……?」

信じられない思いで問い返すと、侯爵閣下は扉の向こうにあるエントランスホールの吹き抜けを指し示しました。

「ああ。君の弟ぎみ……そう、エリオット君と言ったか。実に落ち着いた、将来が楽しみな若者だ」

思いもよらぬことに、私は目を見開きました。閣下は頷くと少し感心したような表情で続けました。

「姉上の迎えがてら、当主へ挨拶に来たのだと言っていた。今、エントランスで待たせているはずだ。……ずいぶん、姉思いの弟のようだね」

その言葉を聞いた瞬間に、凍りついていた私の心にも吹き返すような熱が戻ってくるのを感じました。あの子が、この最悪のタイミングで来てくれた。これ以上ない救いの手が差し伸べられたのだと感じられます。

婚約を解消すると心に決めはしたものの、それを唐突に、先ほど挨拶をしたばかりの閣下へお伝えするわけにはいきません。今はとにかく、あの嫌な気配に侵されているアルフレッド様から一刻も早く離れることが先決でした。

「快く応対下さり、ありがとうございました……閣下も、お忙しいというのに申し訳なく存じます」

「いや、ちょうど妻の支度を待っていたからね。んだ」

私は侯爵閣下へとお礼を伝え、彼にエスコートされるような形でエントランスへと向かいました。

広いホールの中心、白磁のような床の上。見慣れた細身の影が立っていました。

「……エリオット!」

私の声に、彼はゆっくりと振り返りました。母方譲りの整った顔立ちに、父様と同じ瞳の色をして……
見慣れぬ場所にて見知った身内の者がいることに、心の底からの安堵が漏れます。

「姉様。少々予定より早いですが迎えに上がりました」

エリオットは素知らぬふりをしてそんなことを言っています。
予定などと彼は言いましたが、私は迎えを頼んではいなかった……それをすべて見越していて彼は、何かあった時のためだけに挨拶という名目を持って侯爵家へ訪ねに来てくれたのでした。

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