親同士の決め事でしょう?

泉花ゆき

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ここでももし私がまだ滞在したいと意思を伝えたならば、挨拶だけをしてエリオットだけ先に帰宅したのでしょう。彼はいつでも家のためにと、最悪の事態に備えて動いてくれる子でした。

……そして、今日はその最悪の事態だと呼んでも差し支えがない日だったのです。

「来てくれてありがとう、本当に助かったわ……」

弟だけに聞こえるよう、溜息をついてしまいたいような思いで声をひそめます。するとエリオットはそれだけで、何ごとかが起きたのかを瞬時に察してくれたようでした。

「……お疲れのご様子ですね。挨拶はもうよろしいのですか」

その短い言葉に、私は今日一日張り詰めていた何かが一気に崩れ落ちるのを感じました。私が何も言わずとも……彼はこの邸宅に漂う淀みを、その鋭い感性で理解したのでしょう。

「ええ。……ええ、そうね。帰りましょう、エリオット」

「承知いたしました。馬車は外に。……ああ、閣下」

エリオットは追いついてきた侯爵閣下に対し、胸の前へ手を置いて礼を捧げました。

「失礼ながら……急ぎ、自邸にて彼女に確認してもらいたい書類が出来たのです。本日はこのまま姉を連れ帰ること、お許しください」

「そうか、我らもちょうど式典に出るところでな。見送りに出られないことが心苦しいが」

そうして一言二言と会話を交わし、弟は顔に礼儀的な微笑みを浮かべます。

「……アルフレッド様によろしくお伝えください。本日はを頂きありがとうございます。後のことについては、後日また改めて……」

そう話しているところに、背後の大階段から慌てたような足音が響きました。

「リリアーナ!」

アルフレッド様の声でした。駆け寄ってきた彼の目には焦燥が満ちています。
……相対した私の顔から、今日一日はあったはずのあたたかな感情が失われていたことにでも彼は気が付いたのでしょうか。
私の隣では、エリオットの視線に含まれる冷たさが増したのが分かりました。

「アルフレッド……お前はリリアーナさんを置いて一体何をしていたんだ」

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